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第10話 全員集合

 莉乃さんと三年ぶりの再会を果たした後。


 俺たちはおじいちゃんとおばあちゃんの仏壇に手を合わせていた。

 突然の再会で驚きはしたけど、それはさておき話したいことがある旨を伝えると快くお邪魔させてくれて、こうして三人並んでお線香を上げさせてもらっている。

 仏壇に飾られている遺影には穏やかな笑みを浮かべている二人の姿。

 こうして見ると、改めて亡くなったんだと実感させられた。


「お待たせしました」


 手を合わせながら思い出を振り返り終えた頃。

 莉乃さんが三人分お茶を淹れてきてくれた。


「「「ありがとうございます」」」


 俺たちは仏壇の前を離れ、座卓に着いてお茶をいただく。


「「………」」


 あんな別れ方をしたからだろう。

 さらに言えば、悠香や夏鈴と違いわずか三年前の話。

 お互いに気まずいのは否めず、話を切り出す一言が見つからない。

 そんな空気を察したのか、わたあめが話題を提供するように莉乃さんの膝に乗ってのんびりしだした。


「……わたあめのこと、莉乃さんが面倒を見てくれていたんですね」

「はい。猫まみれが閉店した際、うちで引き取ることにしたんです。本当はあげぱんも一緒に引き取るはずだったんですけど、何度家に連れ帰っても抜け出して猫まみれに行ってしまうので、地域のみなさんと協力してお世話しているんです」


 それだけ猫まみれを離れたくなかったんだろう。

 ボス猫として大切な場所を守ろうとしていたのかもな。


「ちなみに他の猫たちは?」

「安心してください。それぞれ別のお宅で幸せに暮らしています。引き取り手が見つからなかった子も、地域猫として地元の方々とお世話を続けています」

「……よかった」


 安堵の声が漏れたのは悠香と夏鈴も一緒。

 これで安心して話を切り出すことができる。


「今日は急に押し掛けてしまいすみませんでした」

「気にしないでください。突然の再会で驚きましたけど、こうして会えたことを嬉しく思います。きっと祖父母も、みなさんに会えて喜んでいることでしょう」


 莉乃さんは当時と変わらない丁寧な口調でそう答えた。


「でも、驚きました……莉乃さんが二人のお孫さんだったなんて」

「りっちゃんが知らないのも無理はありません。菫さんや大人たちは知っていたことですけど、あえて子供たちには伏せていたんです。というのも、二人は子供たちから本当の祖父母のように慕われていました。わたしが孫だと伝えることで寂しい思いや嫉妬をする子もいると思ったんでしょう。祖父母なりの配慮だったんです」


「そうだったんですね」


 確かに、その心配が必要なくらい二人は子供たちに慕われていた。

 特に猫まみれに通う子供たちは、俺も含めて家庭になにかしらの事情を抱えているケースが多かったから、なおさらその手の気遣いが必要だったんだと思う。


「あのぉ~……ちょっと質問してもいいですか?」


 俺たちの会話を隣で聞いていた夏鈴が手を上げる。


「横で話を聞いてた感じ、二人は知り合いなの?」


 夏鈴の横で悠香も気になっている様子。

 そうだ。二人は面識がないんだった。


「この人は七々咲莉乃さん。昔、猫まみれでお世話になってたんだ」

「当時、すでに祖父母が高齢だったこともあり中学進学を機に手伝い始めたんです。祖父母に頼まれたのも理由ですが、わたし自身も手伝いたいと思っていたので」

「猫まみれに通っていた子供は、みんな莉乃さんのお世話になってたんだ。特に男子から人気があって、みんなにとって憧れのお姉さんだったと思う」

「へぇ~……そうなんだぁ」


 なぜか夏鈴は面白くなさそうに呟く。

 その隣で悠香も不満そうな表情を浮かべていた。

 さっきまで喧嘩していたのが嘘みたいな気の合いよう。


「そんな、憧れだなんて……恥ずかしいです」


 莉乃さんは膝の上にいたわたあめを抱き上げて顔を隠す。

 照れ隠しのつもりかなと思っていると、わたあめのお腹に顔をうずめて深呼吸を繰り返す。すると穏やかな笑顔から一転、ヘブン状態よろしく緩んだ笑みを浮かべた。

 わたあめも抵抗することなく尻尾を揺らしながら吸われている。


「やはり心を落ち着かせるには猫をキメるに限りますね」

「「「…………」」」


 思わず無言になる俺たち。

 いったいなにを見せられているんだろう。


「それで、大切なお話というのはなんでしょう?」


 まるで何事もなかったように素に戻る莉乃さん。

 突っ込みたい衝動を抑えながら本題を切り出す。


「実は俺たち、猫まみれを再建したいと思っているんです」

「猫まみれを再建……?」

「三年ぶりに帰ってきて猫まみれが閉店したと知った時、おじいちゃんとおばあちゃんが亡くなったと聞いた時……すごくショックでした。思い出の場所がなくなってしまったことはもちろん、二人が大切にしていた場所がなくなってしまったことが」


 言葉にしながら感情が込み上げてくるのを必死に抑える。


「二人は常々『誰かに継いでほしい』と言っていた。いつでも帰ってこられる、もう一つの家のような場所として残し続けたいって。みんなも聞いたことがあるはず」


 今にして思えば、もう長く続けられないと悟っていたんだろう。

 今も健在だったとしても年齢的に限界を感じていたのかもしれない。

 誰かに継いでほしいと口癖のように話していたのは冗談ではなくで、俺に『大きくなったら手伝ってくれると嬉しい』と言っていたのも社交辞令ではなく本心だった。

 中学生になった莉乃さんにお手伝いを頼んだのもきっと同じ。

 いつか莉乃さんが継いでくれることを期待したんだと思う。


「だったら俺が二人の想いを継ぎたい——」


 俺は莉乃さんを真っすぐに見つめながら続ける。


「もちろん、今すぐってわけじゃありません。なにから始めたらいいかもわからないですし、喫茶店の経営の仕方なんて全くわかりません。気持ちだけじゃ無理だと言われたら返す言葉もありませんが、それでも思い出の場所を失くしたくない——」


 我ながら説明も頼み方も下手くそすぎて嫌になる。

 それでも熱意だけは伝わってほしいと必死に頼み続ける。

 気づけば両隣の悠香と夏鈴も一緒にお願いしてくれていた。


「わかりました。ぜひ、わたしにもお手伝いさせてください」


 それは、あまりにも意外な一言だった。


「実は祖父母がなくなって以来、両親とも猫まみれについて話していたんです。二人の想いを汲めば経営を続けるべきだと思いつつ現実的には難しい。両親は共働きで、わたし一人では到底無理な話です。代わりに任せられるような人もいませんでした」


 そう語る莉乃さんの瞳に希望の色が滲んだ気がした。


「でも、りっちゃんと——みなさんと一緒なら、あの頃の姿を取り戻せると思います。わたしから両親に話をしてみますが、きっと喜んで了承してくれるはずです」

「……ありがとうございます!」


 そうと決まれば善は急げ、俺たちは時間の許す限り猫まみれについて話し合う。

 帰り際、今後のためにとメッセージアプリのアカウントを交換した。



 後日、莉乃さんから両親の了解が得られたと連絡があり再建がスタート。

 こうして昔好きだった三人の女の子と再会しただけじゃなく、猫まみれの再建に向けて行動を共にすることになったんだけど……さすがに気まずさの極致すぎる。

 嬉しい反面、未練はないとはいえ複雑な心境なのは否めない。


 うん……冷静になったらダメな気がした。

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