第9話 莉乃との出会いと別れ
七々咲莉乃さんと出会ったのは小学六年生の春だった。
当時、小学生ばかりだった猫まみれに現れた中学一年生の女の子。
おじいちゃんとおばあちゃんの手伝いや子供の遊び相手をしていた。
一つしか歳が違わないとはいえ、猫まみれの子供たちにとって莉乃さんは憧れのお姉さんで、俺もよく遊んでもらったり宿題を見てもらったりしていた。
二度の失恋で女の子に対して苦手意識を持っていた俺は、莉乃さんの包容力と、母親のように全てを甘受してくれる優しさに心癒されていたんだと思う。
いつしか氷が解けるようにゆっくりと惹かれていった。
いつも優しく微笑みかけてくれて、俺のくだらない話に付き合ってくれて、友達と喧嘩をした時は慰めてくれて——ただ傍にいられるだけで心が満たされる日々。
でも、二度の別れを経験した俺は不安を覚えていたんだろう。
「莉乃さんは、ずっと一緒にいてくれる?」
「はい。わたしもりっちゃんの傍にいたいです」
そう言ってくれた時の感動は今も胸に刻まれている。
それからの日々は、なに一つ孤独を感じることのない毎日だった。
無条件で自分を受け入れてくれる人がいる幸せ——子供心に、自分はこの人と出会うために生まれてきたんだと信じて疑わなかった。
ともすれば、莉乃さんに憧れ以上の感情を抱くのは自然なこと。
でも、ふとした瞬間に思い出す失恋の記憶が想いにブレーキを掛ける。
それでも、いつまでも過去の恋を引きずったままじゃダメだ。
そう思い、勇気を出して前に進もうと決意した時だった。
「もう、りっちゃんとは一緒にいられません」
突き付けられた拒絶の言葉が木端微塵に心を砕く。
その言葉を聞いた時、目の前が真っ暗になるという言葉の意味を初めて知った。ショックのあまり食事が喉を通らないという経験をしたのも初めてのことだった。
その日以来、莉乃さんは猫まみれに来なくなった。
毎日通っても会えず、誰も莉乃さんが来ない理由を知らない。
それでも諦められなかった俺は莉乃さんの通う中学校まで会いに行った。
その日に交わした言葉が最後になるなんて思わなかったんだ。
「どうして一緒にいられないの?」
「それは、りっちゃんのことが好きだからです」
当時の俺が言葉の意味を理解も想像もできるはずがない。
小学校を卒業するまで猫まみれに通い続けたけど莉乃さんは現れず、かといって、もう一度会いに行く勇気は持てず、真意を聞けないまま地元を離れることに。
こうして、最後の恋は疑問を抱えたまま終わりを告げた。




