童話の魔王
ある晴れた日、アンデルセン童話の魔王、グリム童話の魔王、イソップ童話の魔王が集まり、誰が一番素晴らしい童話を持っているかを言い争っていた。
「私の物語は、愛と犠牲の美しさを描いている。『人魚姫』のように心を打つものは他にない!」とアンデルセン魔王が自信満々に言った。
「ふん、私の物語は教訓に満ちている。『狼と七匹の子ヤギ』は悪を警戒することの大切さを教えているのだ!これに勝るものはない!」とグリム魔王が反論した。
「お二人とも、教訓など無意味だ。『アリとキリギリス』のように、努力と勤勉の重要性を伝えるのが本当の童話の価値だ!」とイソップ魔王が声を張り上げた。
互いの物語の素晴らしさを証明しようと、魔王たちの言い争いはどんどんヒートアップする。
次々と自分の作品を持ち出しながら、互いに譲らなかった。
そんな言い争いを五年ほど続けたある日のこと。
長年言い合いをしすぎたのでとうとう言う言葉が尽きてしまい、言うことに事欠いたアンデルセン魔王は、ついに相手の容姿に対してまでケチをつけ始めた。
「おや、君たちの姿はまるで古い絵本から抜け出したようだね。特に君、グリムの魔王、その髪型は一体どうしたんだい?まるで嵐に吹かれたようだ!わっはっは。」
アンデルセン魔王は、優雅な衣装に身を包み、長い髪をなびかせて容姿には自信があるがゆえに二人の容姿をバカにした。
グリム魔王は、怒りを露わにしながら反論しました。「ああ、アンデルセン魔王よ。君のその派手な衣装は、まるで舞踏会の道化師のようだ。真の魔王とは、もっと威厳があるものだろう!君は程遠いね。ザマァみろ!わっはっは。」
アンデルセン魔王は苦虫を噛み潰したような忌々しい顔でグリム魔王を見た。
と、そんな童話とは関係もないところで揉め始めた二人の言い争いを見て、そろそろこの言い争いにも飽きてきたイソップ魔王は決着をつけるべくこう言った。
「見た目にこだわるなんて二人とも愚かだな。私の姿はシンプルだが、知恵と教訓が詰まっている。見よ、この実用的な機能美を!君たちの美しさがどれほど素晴らしくても、心…つまり実が伴わなければ意味がないだろ。」
そこで初めてアンデルセン魔王とグリム魔王は雷に打たれたようにハッとした。
「う、たしかに!」
「そういえば!」
急に二人は黙り込んだ。
イソップ魔王の言葉で彼らは、自分たちの容姿にこだわることがいかに馬鹿げているかを思い知らされた。
「私たちはなんて無意味な言い争いをしてきたんだろうな。」
「魔王同士は本来仲間なのにな。」
そしてついに彼らは長年のわだかまりを捨てて、言い争いは終結した。
お互いに笑い合い、これからは容姿を超えた真の魔王の姿を目指すということで終戦のご挨拶とした。
こうして魔王達の平穏な日々は戻ってきたのだった。
と、その時、急に空が暗転し、突然、巨大なトマトが空から落ちてきた。
三人は驚き、言葉を失った。
トマトは彼らの真上に落下し、ドサッと音を立てて地面に着地した。
「これが運命か…」とアンデルセン魔王が呟く間もなく、トマトの衝撃で三人はその場で潰されてしまった。彼らの言い争いは、トマトの一撃によって終わりを迎えた。
結局、誰が一番素晴らしい童話を持っていたのかは、これで永遠に謎のままとなったのであった。