68話 間章 アルフレッドの『六腕』
ベータ帝国王城内の大臣の間。そこに男が走り込んでいた。
「一大事です!ブル様!」
「何だよ朝っぱらから騒々しい事だななァ!?」
男の報告に驚くブルと言う大男。その男の名はブル・ファミリュ。ベータ帝国最高幹部七武衆の一角である。
「アルファ帝国の闇商会が…壊滅しました!それもたった1人の男にです!」
「……は?」
部下からの報告に驚くブル。そんな報告は今だかつて無かった。しかもそれが1人の男によって壊滅したというのだから尚更驚きである。
「じょ、冗談だろ?」
「本当なんです!斥候からの情報によるとアルファ帝国軍が闇商会の拠点を叩いたと…アトミックファミリーは全滅です!」
「アムドスキアスはどうした?アイツは上級悪魔族だろう?」
「はい、しかし既にあの魔物遣いのラクサスに討たれたとの事です!」
「あぁヴェールを撤退させたって奴か…だがボルケニアにはまだ残党が…」
「そちらは四天王のマサムネとアンジェラに拿捕されたとの事です」
「ちっ、よりにもよってあの2人がお揃いか……こりゃぁ手痛くやられたなァ……あいつ等はよォ!」
ブルは机をたたき壊す。
「ひっ…」
男は怯える。ブルは元々気が長い人間ではない。キレられたら男など3秒でひき肉だ。大体今だってブルの部下たちで誰が行くか押し付け合った末にジャンケンと言う度の世界でも最も神聖な儀式でもって負けたのだ。
「フン…気分が悪いなァ。気晴らしにお前を殺すか」
「そ、そんな!」
「この空間に置いて俺は絶対なんだよ。諦めろ役立たず」
「い、嫌です!」
「あっそ、なら殺しちゃおう!」
ブルが男を殴ろうとする。そこに電話が鳴った。
「んだよ…こんな時に!」
ブルは電話を取る。そこから野太い声が聞こえて来た。
『よぉブル…』
「何だよ!俺は今機嫌が最悪なんだ!」
『知ってんだよ。んなことぐらいよ。テメェの様子がどうかなんて言うことを確認してやってんだろうが!』
「用件だけ言いやがれ!」
『あいよ、てめぇらに抗議しようと思ってなァ。具体的にはウチの国民のガキどもを誘拐した件だがな』
「何考えてやがる…アルフレッドォ!アルファ帝国四天王さんよォ!」
『何って?テメェがウチの国から誘拐しようとしたガキどもの件と。何だっけ?禁止薬物の輸出の件だよ。闇商会にてめぇが指示したことなんざ分かってんだよ。ウチの優秀な審問官が安全かつ殺すことなく聞き出したからな」
「チッ!」
ブルは舌打ちをする。だがバレているのは無理もないだろう。どうせあの軽薄な悪魔族のことだすぐに吐いたに違いない。
「それで?お前の手勢で闇商会を殲滅したのか?」
『言葉を選べよブル。てめーが何したのかその胸に手当てて考えて見ろや』
「随分と丸くなったもんだな。四天王さんよ」
『そりゃ俺様はヤクザじゃなくて軍人だからな、お前等に国民が襲われたら命かけて助けんのが仕事なんだよ。まぁ今回は俺様が直接動いたわけではないがな』
「フン。お前が『六腕』でも動かしたか」
『いいや?あいつ等を動かすまでもない』
「舐められたものだな。てめぇのとこの精鋭どもだろ?」
『フン。こちらの戦力を全て公開する必要はないだろ?』
「バカにしやがって!」
『で?謝罪は?』
「はぁ?する訳ねぇだろうが!」
『そうかい。じゃあ仕方がねぇな……。その選択がお前らの首を絞めねぇようにな』
電話は急に切れた。
アルフレッドは電話を置くと特大サイズの椅子に勢いよく腰を落とした。目の前には六腕のメンバーの一部が控えている。
『六腕』とはアルファ帝国の最精鋭部隊である。アルフレッドは本来アルファ帝国の全軍の指揮権を預かる存在だ。しかしそう現実は甘くない。軍を動かそうにも直接各領主、具体的にはネロやフラン等に命令するにはとんでもない手間がかかる。正確にはどっちもアルフレッドとは仲がいいので二つ返事で受けてくれるのだが、生憎予算などはそう都合よくなびくものでもない。さらに細かい仕事や気密性の高い仕事をするのにも不便だ。そこで活躍するのがアルフレッドが勧誘した6人の戦闘職『六腕』である。彼ら6人はアルフレッドが直接命令することができる直轄部隊にして個人主義のエリートである。たった6人と侮ることなかれ、彼らの強さは優に敵の一軍団を相手できる程である。彼らはよくアルフレッドの元に集まっていた。
「チッ…あの様子じゃどうやら本当にベータ帝国が一枚噛んでたらしいな。めんどくさい話だ。ったく、どうしてこうもややこしい話になっちまったのかねぇ…」
「舐められたもんだな…やはりベータ帝国に兵を出すべきじゃねぇっすか。アルフレッドさん」
目の前にいた白髪の荒々しい男がアルフレッドに声をかける。
「バカ。カンボは本当にバカ。いきなり戦争なんてできるわけないでしょ。費用も掛かるのに」
白髪の男の言葉をアルフレッドの肩に載っている少女が否定する。少女は黒髪であり、和服を着こんでいる。日本人形のような少女だ。
「アタシもツバキちゃんにさんせ~い!」
金髪ツインテールの女子も手を挙げて同意する。彼女はツバキの友達であり、肌を多く露出した格好で軍帽をかぶっている。
「やっぱりすぐに殴りかかろうとするのがウチの男衆の悪い癖だよ~。暴力はんた~い」
白髪の男に文句を言う少女。彼女はツバキの親友であり、名前はサラだ。
「チッ…つれねぇな…でも俺様はこのまんまブルの野郎を野放しにすんのは気に入らねえんだよなぁ…」
そうアルフレッドが呟くと無言を貫いていた男が無言で瞬時に武器を構える。
「…ブルを殺す…」
「待て待てシャム!お前が出てどうすんだよ。お前はウチの特記戦力だっていうのによ」
アルフレッドが慌てて止める。
「全くシャムもさ~。顔は帝国一の美男子とか言われながら性格がこうなんだもんね~。本当に残念!また告白断ったでしょ?」
「うるさい…俺は恋愛に興味などない」
シャムは呟きながら武器を脚にしまう。
「ったく、シャムも昔から堅物だな…まぁ良い。俺様たちが勝手に動くわけにはいかないのでな。後で魔王様に報告する。その後のことはその時だ。御三家やネロフラン、後はラクサスとか辺りも呼びつけるがお前らにも主戦力として動いてもらうことになるだろう」
「…御意」
「ツバキはアルフレッドさんに賛成だよ」
「じゃあそうするかね」
アルフレッドは立ち上がると窓から外を見る。空は快晴であった。しかし彼はどうしても胸騒ぎがしてならなかった。何か嫌な予感がするのだ……
「まさかな‥‥」
アルフレッドはそう呟いた。




