64話 ヒールスライム
ラクサスが目覚めたのは自分の屋敷のベッドの上であった。
「は?!ここは!俺の屋敷じゃねぇか」
ラクサスは飛び起きた。自分は今まで王都で酒盛りをしていたはずだが…痛む頭を抱えながら辺りを見渡すとそこに見慣れたエルフの顔があった。
「あれ?ローシァじゃんか‥‥」
「そうですわ。アルファ帝国御三家のね!」
「で?御三家のエルフ様がどうして俺の屋敷にまたいるんすか?」
ラクサスが疑問を呈するとローシァはため息をついて。
「それは貴方がお酒で酔いつぶれたからでしょう!」
「は?酒で?あぁ…確かにそうだった気がする」
ラクサスはお酒を飲んでからやたらめったら調子が悪い…と言うか何でそれでローシァが来ているのだろうか。
「大変でしたのよ?ホムラお姉さまやネロはともかく何故かバロンやネーデルたちも酔いつぶれるし…」
「それで俺を屋敷に運んで来たと…」
要は飲み過ぎた結果酔いつぶれたらしい。その結果酔ったまま屋敷に返されたのだと…そう言えば酔った勢いでローシァの胸に顔が飛び込んだような気も…ラクサスはそれを感じてベッドから立ち上がる。そして…
「申し訳ありませんでしたぁァァァァ!」
土下座。きれいな土下座を決めた。
「謝る気があるのなら…これでも食らいなさい!」
ローシァはそう叫ぶとラクサスの下半身を凍らせる。
「え?」
「とりあえず凍らせましたわ。安心しなさいな。バカなネロにした半分の量ですもの」
「はぁ?」
「このまま氷が溶けるまで珍妙な格好で頭を下げることですわね。おほほ…後ドリアさんにもお伝えしておきましたわ」
「ぎゃーーー!」
こうしてバカな悪魔ラクサスはしばらく凍らされた。
1時間後
「あ、ありがとうよマンドラゴラども…」
マンドラゴラがコップに水を入れて持ってきたのでラクサスはそれを飲む。
『安心してください。ラクサスさんがどんなしゅうたいをさらそうとも
ぼくたちだけはあなたの味方です。どんなしゅうたいをさらしてもね!!!』
「ちょ、俺何か変なことしちゃった感じ?困るよ~内緒にしてくれなきゃ…てかヤンデレみたいな言い方だな…」
そもそも酔って家に帰った時点で相当な醜態なのだがそのことに気付くことはなかった。ついでに言えばマンドラゴラ達は少しずつではあるが知能も上がっていて書ける文字も増えていた。とは言ってもラクサスも忙しいので中々見る暇がない。ラクサスは顔を洗って朝食を食べると外に出て行った。
カキンカキンと言う音を立てて超虫の蟷螂とスケルトンの剣が激しく打ち合う音が遠くから聞こえる。ラクサスはそんな中ポチの毛並みをブラシで整えていた。それをしながら周りのスケルトンやマンドラゴラに指示をしなければならない大変な仕事である。
ラクサスが汗をかいていると
「おじゃましまーす!」
「お、お邪魔します…」
どこかから聞き覚えのある魔女の声がした。
やって来たのはやはりアンジェラだった。隣には珍しくユリカもいる。
「おはよう。ラクサス。昨夜はお楽しみだったようね」
「は?俺何かした?」
アンジェラは苦笑しているしユリカは目を伏せている。どうやら変な噂は相変わらず広まっているらしい。
「なんすか…こんな昼に突然来るとかアンタは錬金術師としての職務は放棄したんすか?」
「バカねアンタ。そんなわけないじゃないの」
「じゃあ何の用で?」
「はぁ…この鍋よ!作り過ぎたから分けてあげるわ」
アンジェラは両手に大鍋を持っていた。
「え?カレーを作り過ぎたとかですか?珍しいっすね…」
あのアンジェラがおすそ分けなど天地がひっくり返ってもないと思ったので一度は謀略を疑うほどに警戒せざるを得ないラクサスだったが、次の一言で新たに警戒を強める羽目になった。
「いえ、中級回復薬。作り過ぎたからおすそ分けするわ」
「回復薬?!回復薬作り過ぎたって何すか!まぁありがたいですけど…」
多くの生物がいて、今も散々縄張り争いしているラクサスの牧場において回復薬の存在は非常にありがたい。そう思って彼が大鍋を開けると…中に入っていたのは澄んだ色をした美しい回復薬ではなく、黄緑色をしたドロドロの粘液だった。
「いやこれ回復薬じゃないでしょ!これダークマターか何かだよ!」
「いや回復薬よ。ちょっと入れる材料間違えたけどちゃんと回復薬としては機能するわ。まぁ商会に納品できるような代物ではないけれどね」
「えぇ…ついさっきアンジェラさんにこの代物を納品されそうになりました…」
「それただ大量の失敗作を俺に押し付けてるだけなんじゃ…」
ラクサスは相変わらず傍若無人なアンジェラに呆れつつユリカに視線を送る。
「それで?ユリカはどうかしたん?俺も忙しくてさ」
「いえ、私はただ商会として商品の宣伝を」
「宣伝?セールスなら帰っ「とにかく人手が欲しいんですよね?」はい!」
ラクサスが思わずうなずくとユリカは箱の中からいくつかの宝玉を出してきた。
ラクサスはユリカに紅い宝玉を渡される。
「これは魔導生物の核です。周囲の物質を素体として一から魔物を生み出せるものなんです。不定形のだけですけどね」
「ふん…面白い商品じゃないか。って不定形のものなら何でも魔物に出来るのか?」
「はい」
ここでラクサスはあることを思いついた。アンジェラが持ってきた大鍋の中にこの核を放り込んでみたのだ。途端鍋の中が輝き光を放つ。
辺りがまぶしくなり一同の視界を奪い、光はしばらく輝いた後消えた。ラクサスが大鍋をのぞき込んでみるとそこには黄緑色の塊が鎮座し、モゾモゾ動いていた。
「こ、これは!」
「なるほど考えたわね…スライムにするとは…」
ラクサスはその話を聞きながら両手を大鍋に入れるとスライムを外に出す。それはボールのように跳ねて行く。
「このスライムはヒールスライムね。液体をぶつけた相手の軽い傷ぐらいなら完治できるわよ」
「へぇ…随分と便利なスライムを作れるんだな」
ラクサスが商品に感心しているとユリカが口を挟む。
「じゃあこの核は数個お買い上げと言うことでいいですか?」
「あぁ頼むよ。もう少しスライムの研究をしてみたくなったな」
「ありがとうございます。後お見せしたい商品はそれだけではなくてですね。こっちが本命なんです」
ユリカはラクサスの言葉に何度もうなずくと別の商品を取り出した。




