62話 アルファ帝国軍論功行賞
アルファ帝国帝都コートバーグの中枢部のとある執務室、アルファ帝国司法局長にして公明正大な人物としても知られるマルコシアスは混乱していた。目の前に犯罪者たちが、しかも一体は悪魔が縛られていたからだ。
「こいつらが酔草を密輸してたと?本当なのかエリス嬢…」
「はい!こちらが主犯のマガン。ついてるのがクロムとリンです!皆ギャング組織アトミックファミリーの者です!」
エリスは軽い口調で言っているが、マルコシアスとしては頭が痛い。マルコシアスは視線を右手に向ける。
「で?ラクサスよ…お前もアトミックファミリーを捕まえたんだな?」
「あぁマルコシアスさん。こいつらはフリージアとフレイムでガキどもを誘拐してた。どうせ人身売買が目的だろうよ!裁いてやってくれ」
ラクサスは冷たくいい放つ。マルコシアスはため息をつく。確かに密輸は犯罪だし誘拐だってそうだ。でも…
「どうしてここまで話がややこしくなるかねぇ…」
マルコシアスは葉巻に火を付けた。
平和な帝国の執務室でマルコシアスが爆睡している最中にラクサスとエリスが仲間たちと共に駆け込んできたのだ。しかもデカい案件を二つも…こんなことをされてはマルコシアスとしても頭を抱えたくなる。いやラクサスは友人の息子で昔から知っているのであまりきつくは言えないのだが…
「お前らなぁ……やっとこれから寝られると思ったのに、まったく。」
マルコシアスは軽く頭をかきながらラクサスとエリスを見る。しかし二人とも整理がついていなかった。
「エリス!お前がマルコシアスさんに何の用だよ!」
「え?何でアンタも駆け込んできてるのよ!」
開口一番でこんなことを言ってくるレベルなのだ。両者は連携が取れずそれぞれの目的で行動をしていたら同じものに行き当たったらしい。
「はぁ…とりあえず状況を整理するぞ。エリス嬢。お宅らはエリザベッタ様の命令で訪れたボルケニアで酔草の密輸を防いだ。それで、ラクサス達はフレイムでビリーを筆頭としたギャングに加えてアムドスキアスを捕らえたと」
「えぇ…子供たちは既にネロが家に帰してるよ」
「そっかネロもいんのか…そりゃあいつらの拠点の傍だもんね」
「上への報告も問題なく、マサムネさんがドリアさんに伝えてます」
「そっか…」
マルコシアスは椅子に腰を落とす。それを見てエリスが心配した顔をする。
「マルコシアスさん!どうかしましたか?やっぱりお疲れですか?」
「あぁ……いや、別に疲れてないよ?ただね…」
マルコシアスは頭を抱える。これだけの犯罪者を一気に司法局に持ち込まれたことが嫌なのではない。そもそも一応官僚主義のこの国ではあの程度の人数は下の職員に分担して任せれば時間はかかるが処理できないことではない。上の四天王や魔王陛下への報告は四天王のことで片付くだろう。マルコシアスが心配するようなことではない。ただ問題は…
「目の前に上級悪魔族がいることなんだよ…」
上級悪魔族、この世界にたった72体しかいない種族は存在するだけで世界に大きな影響を与える地上でも有数の有力種族だ。だからこそ扱いが難しい、アルファ帝国に牙をむいた以上毅然とした態度で対応するのが筋なのだが、生憎投獄するだけで世界の勢力図が大きく変わってしまう。マルコシアスはそれを無理やり押し付けられた形なのだ。
「はぁ…上級悪魔族は扱いが難しいんだよ!まぁこれだけの大事だ。俺の独断では裁けないだろうから後で魔王様に諮ることになるな」
マルコシアスはそう苦笑する。するとそこにティナが入って来た。
「ラクサス、エリス。ここにいましたか…魔王陛下がお呼びです…マルコシアスさんも」
ラクサス達はそれに従って同じ魔王城の中の大広間を訪れる。
「おぉ!ラクサス、エリス報告ご苦労であった!」
迎えてくれたのは魔王ハンナだった。周囲には父ドリアを含む四天王もいて末席にネロ、ローシァ、バロンなどの幹部が控えている。マサムネが壇上の椅子の上からラクサスに声をかける。
「ラクサスよ…きちんと陛下に説明はしておいたぞ。感謝すると良いお主も大変であったな」
ラクサスはその言葉に静かに頭を下げる。ドリアはそれを見て満足げな表情を浮かべたが、すぐに厳しい顔に戻る。
「息子よいやラクサスよ。そこにいるのは吾輩たちと同じ上級悪魔族のアムドスキアスだな?」
「はっ、確かに子供たちを誘拐し、闇商会に売りつけようとしていたところをネロとローシァと共に確保いたしました!仲間も既に牢におります!」
「うむ…ご苦労であったな。しかし貴様か面倒だな…」
ドリアは頭を抱える。それを見たアルフレッドが第三者の目線から言う。
「まぁそれより今はこの帝国としてその闇商会とやらをどうするかについて話そうじゃねぇか。俺様としては今すぐ軍を派遣する用意をしてもいいがね。どうするよ?マルコシアス局長さんよ」
アルファ帝国の全軍を預かる立場のアルフレッドの軍を興すという言葉はそのまま全軍で攻め入るということを示していることをマルコシアスは理解していた。だからこそここは司法官僚として譲れない。
「まだ証拠も固まっていないのに突入するのは危険ですな。まずは特捜部で潜入調査をしてそこから迅速に確保に動きます」
「そうか…まぁ軍勢は貸すさ。いつでも動けるように準備だけは整えておいてやる。頭領は…」
「私が行こう」
そう言って出てきたのはフランだった。ボルケニア支部でバロンの上司で本来は酔草問題を統括する立場にありながらも今回の騒動中は出張していたせいで歯がゆい思いをしていたからこその一言だ。
「あぁ、フランか!てめぇなら安心だな!」
「ついでに小生の部下のティナも派遣しようか…お主の腕ならばきっと潜入任務に役立つはずだ」
「御意…」
こうしてフランとティナを頭とした特捜部が発足した。彼女たちはマルコシアスと共に闇商会の打倒に動く。
「てな訳でラクサスよ。大儀であった貴様たちに褒美をとらせよう!」
ハンナはそう言うとラクサス、ネロ、ローシァ、エリス、エリザベッタ、マサムネ、アンジェラ、バロンを呼びつけた。
「とりあえず全員臨時手当と勲章を取らせる。バロンを準男爵に任じ、ネロは男爵から子爵に格上げだ。ラクサスはバレンタイン子爵に任じよう。まぁ実質ドリア・バレンタイン侯爵が兼務してた名前だけの役職を譲るんだけどね!ドリアはいい?」
「問題ありません。吾輩としてもコイツには貴族としての矜持を持たせようと思っておったところです」
こうして一応爵位付けは終わった。爵位が高すぎて上げにくかったマサムネは茶器を手に入れ、同じくローシァは伯爵のままだが王家の秘蔵の宝石を下賜され、エリザベッタとアンジェラの学園組は研究予算の増額が行われた。
「心遣い感謝いたします!」
こうしてアルファ帝国魔王軍のとりあえずのアトミックファミリー騒動の収集の目途は立ったのであった。




