6話 吸血姫 エリス・ガイアス
ドリアは息子のラクサスが魔王軍に加入したことを知ると大いに喜んだ。
「うむ、やはり貴様には吾輩より才があると思っていた。」
「何を言っているんです。親父の方が俺より何倍も強いじゃあないですか。」
「うむ、才と努力の差の話をせねばなるまいか…まぁ過度に驕るよりは何十倍も良いがな。」
ドリアはそう言って豪快に笑って、ラクサスの頭を撫でる。
「では陛下。吾輩の愚息を頼みますぞ。」
「うむ、貴様らバレンタイン家は代々この国に仕えてきた上級悪魔族。期待しているぞ!」
魔王であるハンナはそう言って笑顔になる。
ドリアはラクサスを抱き寄せるとこっそり
「ラクサスよ。陛下は将来大魔王としての魔力を得る。しかし、現在はこのように少女。全ては先代の魔王様が謀殺されたせいであるが…」
「はい。あの時のことは覚えています。魔界が上へ下へ右へ左への大騒ぎでした。」
「うむ、魔王様はまだ幼少。しっかり支えるのだぞ?」
「はい。」
ラクサスは父ドリアの話に力強く頷く。
「へぇ、アンタが新たな魔王軍幹部?」
「ん?!」
ラクサスはハッとして振り返る。そこにはいつから居たのか少女がいた。
身長はラクサスより一つ高く、髪は金髪で後ろで二つに縛っている。服は流行のシャツにミニスカートだ。
「これはこれはエリス様。いらっしゃるならご連絡の一つでも寄越してくださいと申し上げましたが…」
ヨーゼフが嫌味ったらしく言う。
「お、俺はラクサスって言うものです。ドリア・バレンタインの息子です。」
ラクサスは慌てて自己紹介をする。すると、彼女は
「アンタがバレンタイン家のね…こんなチビで頭悪そうなのに?」
と嘲笑してくるので。ラクサスは
「あ?!誰がチビだ!これでも去年よりは6cm伸びてんだよ!てか、普通に初対面の人間にそう言うこと言うの失礼だろうが!」
と怒る。
「あら?この吸血姫の私にそんな口きいていいのかしら?」
「は?吸血姫……ってまさか……!お前が今代のガイアス家の当主?」
ラクサスのいるバレンタイン家とガイアス家は共に帝国に仕える名門として長年の天敵関係にある。
「私は吸血鬼のエリス。いずれ四天王になる女よ。まぁ陛下が認めたのなら、仕方ないわね仲良くしてあげるわ。」
そう言ってエリスはラクサスに握手を求める。
「はいよろしくね。」
ラクサスは適当に返事をする。
「こら!私の前でイチャイチャするな!」
ハンナがプリプリ怒っている。その姿は年相応の幼女らしく可愛らしい。
「「す、すみません…」」
その上ラクサスとリリスの声が同時に被ってしまった。
「キャハハ!二人とも相性いいね!」
ハンナはゲラゲラ笑う。一方でドリアは苦笑を浮かべる。
「って訳で、他の人たちには時期が来たら紹介する予定だ。じゃあ解散!」
そうハンナは手を叩いて言う。
「で、こちらがラクサス様の執務室となります。」
ラクサスは魔王城のメイドに案内され、魔王城の一室に案内される。
「へぇここが俺の部屋か…」
ラクサスがドアを開けるとそこは空っぽで何もなかった。
「あの、何もないんですけど。」
「荷物くらい自分で持ってきてください。」
「はい。すみません……」
ラクサスが自室の準備を整えて執務室の壁に向かっている机で爆睡していると、部屋の奥の窓から変な声がする。
「ふぁあ。一体何の用事だ?」
ラクサスが窓を見るとそこにはエリスがいた。
「お前!」
ラクサスは飛び起きる。
「何だ!お前俺のスト―カーか何かか?!」
「何を訳の分からないことを…アタシはアンタの強さを確かめに来たのよ。」
「強さ?」
ラクサスは窓の方に向き直る。
「だって、アンタグリフォンを追い払ったらしいじゃないのよ!」
エリスは指をピシッと突きつける。
「まぁ、あれは追い払ったに含んでいいのか分からないが…」
「とにかく!アンタアタシと勝負しなさい!」
エリスは自信満々に言う。しかしラクサスは
「そんな胸を張って言われても…ってあ!」
「ん?何よ?」
「いやいやゴメン。君張る程胸無かったね。これは失礼。」
「‥‥‥」
エリスは無言になると、一瞬で窓ガラスを突き破りラクサスの腕をつかむと部屋の外に投げ飛ばした。
「ぎゃあああああ!何すっだ!」
「コロスコロスコロスコロスコロス」
そのまま呪詛のように口内で唱え始めるエリスにラクサスは大慌てで
「分かった!分かったから!相手すればいいんだろう?」
「分かればいいのよ。このクソ童貞!」
「ただの童貞じゃねーし!大事な時に力を溜めてるだけだし!」
「はいはい、そう言うことにしておきましょうね。」
「ああ!分かった!ボコボコにしてやるから首とかちゃんとシャンプーで洗って待ってろ!」