46話 フリージアの太守。ローシァ・フリージア
ラクサスが自身の屋敷に帰ると、マンドラゴラの5号が出迎えて来た。
『ラクサスさん。おかえりなさい。』
「あぁただいま。留守番ありがとう。」
ラクサスはしゃがむと頭を撫でる。すると5号はラクサスの身体をよじ登ると肩に乗りかかった。
「それで大丈夫だったのか?」
『だいじょうぶでした。まぁ10ごうがひつじのかいばをまきちらしたくらいです。』
「またかよ!本当に10号はアホだなぁ…まぁそこも愛嬌ととらえるか…」
ラクサスは歩いて牧場のベンチに座った。
ポチが野原を駆け回っている。魔剣の群れは奥に作った小屋の中で何回も己の刃を打ち付け合い、あちこちから金属音を立てている。
それにしても牧場とは言え広い敷地なものだ。真ん中に石の道がありその左側は見渡す限り野原であちこちでマンドラゴラが働いている。右側、ラクサスの屋敷に近い方には岩場と水辺後貧相だが森が作ってあるが、そこには別に誰もいない。
「今いるのが一応表向きの任務で育ててる何か怪我虹色に光ってる羊の群れと、後は俺が連れて来たグリフォンのポチと後マンドラゴラと魔剣連中。後は前から棲みついてた下級モンスターが少しぐらいかそいつらが戦力になるわけでもなし…少ねぇなぁ…」
魔物の少なさ…これが目下の課題であった。
「そもそもアンジェラさんに言われてんだよなぁ…」
前に魔王城に行ったとき、そこで全く老け込んでいないアンジェラに声を掛けられていた。
「久しぶりじゃないラクサス。私があげたマンドラゴラの群れはどう?ちゃんと育ってるかしら。」
「えぇ…それなりに働いてますよ。最近は文字も覚え始めたようで素晴らしいです。」
「そう。それは良かったわ。でも気を付けてね。あの種類あんまり強くない種類だから。」
「へ?」
「だからあのマンドラゴラは戦闘力皆無ってことよ。当たり前でしょ。あの図体で身体からビームが出るわけでもないんだから。」
ラクサスはそれを聞いてアンジェラに無言でドロップキックをする。
「それを早く言えやぁ!間違って家に留守番させたまま帝都に滞在してたんすけど!あいつらの血肉が牧場に転がってるなんて寝覚めが悪いわ!」
「安心しなさい。マンドラゴラはそもそも植物の一種だから死んだら土にちゃんと還るから。土壌が呪いで100年汚染されてぺんぺん草も生えないとかないからさ。」
「そう言う問題じゃないわ!ホントに人の心ないんか案件だぞ!」
ラクサスが座っているベンチにマンドラゴラの7号が寄って来てプラカードを出す。
『おいらくさす!どうかしたのか!』
「何でもねぇわ!」
そう言ってラクサスが蹴っ飛ばそうとするがふと考える。
(こいつ等…俺の眷族にしては弱いんだな…)
「俺が留守にしている間もこいつらだけじゃ。何かあった時に不安だな…っと俺は悪魔なのに何この植物風情のことで…」
ラクサスは頭を振って奥の森に目を向ける。そこでは相変わらず剣が打ち合っている。
「あいつらじゃぁ…危険すぎるな。もう少し穏やかなのじゃないと…」
すると誰かが牧場の中を突っ切って来る。
「外敵か!」
ラクサスはそう言うと飛び上がってそれに向かって駆け出した。その正体は…
「それで何の用だよネロ…俺の牧場にさぁ…」
外敵改め来訪者は前まで共闘していたネロであった。この街に住んでいることは知っていたがそれ以外に関りが無いと思っていた。
「いやこの街に俺の部隊の訓練場があるって話はしてただろ?その訓練場がお前の牧場のすぐ近くにあるんだ。」
ネロはそうあごで奥にある山を示す。そこには建物が何個か建っていた。
「それで俺の家から行くのにここを通ってショートカットするのが都合がいいんだよ。もともと誰もこの土地を使ってなかったしな。それで今までは通ってたんだが…ダメか?」
「うんダメですね!」
ラクサスはそうにこりと笑って言い放った。
「はぁ…おっと、それ以外に今日は用があるんだよ。」
「用?借金のお願いか?」
「そんな訳ないだろ!あれだよあれ…太守がお前のことをお呼びだよ。」
「太守がか?そう言えば太守って誰なんだ?」
ラクサスはそう言ってネロと向かって行った。
通されたのは巨大な屋敷の広間だった。そこの天蓋付きのベッドにとある女性が座っていた。ローシァである。
「久しぶりですわねバレンタイン家のラクサス卿でしたっけ。あ、チビネロは帰っていいですわ。いえとっとと帰りなさい。」
ローシァはそう冷たい声で言い放つ。
「はいはい。バカローシァ殿。」
ローシアは額に青筋を浮かべて。
「は?何ですの。あなたこそ昔私の試験の答案を盗み見ていたではありませんの。」
「うるせぇ!5㎞のマラソンでぶっ倒れる虚弱女に用はねぇ!」
そう二人の間に火花が散る。何を隠そうこの二人は魔王軍の同期の最悪の世代の二人であるのである。
(ふぅむ…二人の仲はいいのか悪いのか。まぁ良いだろう。)
「それで紹介が遅れましたわね。私はローシァ・フリージア。ハイエルフの御三家の一角にして魔王軍所属のこの街フリージアの第28代太守ですわ。それでご挨拶を申し上げようということですわ。貴方のお父上には非常にお世話になっていますので。」
「御三家?御三家って何なんだよ。俺初めて聞いたんですが。」
ラクサスがそう言うとネロは笑って。
「あぁ気にしなくていいよ。大したもんじゃないから。」
すると一瞬でネロが半分凍り付いた。
「ハイゴメンナサイ。」
ネロは謝罪するとラクサスに向き直って言う。
「そもそもハイエルフって言うのはエルフ族の中でも特に魔力が高い連中でね。数が少ない代わりに莫大な魔力を持って一人いるだけでそれなりの兵隊並みの戦力がある。まぁそのくらいの戦力なら俺も持ってるんだけどね。で、その中でトップ3に入るのが御三家なんだよ。ローシァはその中の冷氷卿フリージア家の人間なんだ。それなりに有力な分家だけどね。」
「へぇ…何でそんなエルフがこの魔王軍にいるんだよ。」
「それは私も知りませんわ。生まれた時から既に魔王軍の貴族として先代の陛下からいろいろ奉仕を…あっ奉仕って言ったって別に卑猥な意味ではありませんわ。全年齢で出せる内容ですので。」
「そんなこと一言も聞いてないんだが…」
「はっ…それは失礼いたしましたわね。」
ローシアは慌てて訂正する。
「それで私がこの街の太守ですので以後お見知りおきを。あ、あそこのチビりすは一応この街の防衛隊長を兼ねているらしいのでそれもお伝えしておきますわね。」
ローシァはそう言って笑った。




