45話 勇者の真実
魔王城の広間でドリアは魔王に報告をしていた。
「勇者がフリージアに攻めて参りましたゆえご報告を申し上げます。」
ドリアは玉座の前に膝まづき、ラクサスはその後ろに控えた。膝まずく父の背中は心なしか小さく見えた。
「それで…みすみす逃げられたということか。No2のドリアが意外なことだな。」
玉座の上にいるハンナはそう言って反応する。さすがにNo2相手に逃げられるのはデカ過ぎる。
「はっ、罰ならいくらでもお受けいたしますゆえ。」
すると横にいたカメレオンのヨーゼフが反応する。
「はぁ…ドリアはこういうところが頭が固いですね。No2で当軍で一番まともなあなたに厳しい処分を下せば誰が先代以来の統率を取るというのです。魔王様。どうかここは軽い処分に留めてみては。」
そう言って魔王に促す。このヨーゼフと言う男については非常にラクサスも興味がある。そもそもこの男って何者なんだろうかと。当国の魔王は幼少のロリータであるため誰かが政務を取り仕切っていると思っていたがそれがこの男なのだろうか。なんせラクサスは上級悪魔族とは言え、魔王城に参じたのが約2年前。それ以降はフリージアの方でマンドラゴラの群れと魔物の育成に携わっているため、一切それについて理解できない。
(まぁ戦闘力が高いのが国の政治まで全部見るって訳でもないだろうし…政務を仕切っているのに便利なのかも。)そうラクサスは思案した。
ラクサスは数日帝都に留まった後でまた魔王城に呼び出された。今度は他のメンバーも一緒である。大広間に控えていたアンジェラはドリアに問う。
「それで?勇者とやらの尻尾はつかめたのかしら。ドリア。」
「いや、そううまくは行かぬゆえ。こうして吾輩はここで報告することになっているのである。」
「ふぅ~ん。まぁ大丈夫よ。あっちのアルフレッドなんか七武衆を捕らえようとして失敗してるんだから。」
「ガハハ!そりゃあ心外だなァ! 」
そう言ってアルフレッドは奥からどしどし足音を立てて来る。
「まぁいいところでドリアよ。勇者について説明してもらおうか。俺様バカだから良く知らねぇんだ。」
すると後ろの玉座に魔王が座り始める。
「やぁやぁ皆良く集まってくれたな。これから勇者の対策を始めようと思う。」
すぐに周囲の幹部たちが膝まづく。するとマサムネが立ちあがって
「ここは小生に仕切らせてもらおう。今回は小生の持ち回りなのでな…」
ラクサスはそれに反応して顔を上げる。
(マサムネ…まぁあの人なら安心か…)
マサムネは本を読みながらラクサス達の前を往復する。その姿はまるで教師のようである。事実マサムネは魔王軍四天王だけでなく、魔術学院の特別講師の一人でもあるのだがやはり手馴れているといえよう。
「勇者とはすなわち魔族から世界を救うために生み出される存在であり、魔王に敵対するものである。それは一般に女神の加護を受けた存在である…その力はすさまじく決して死ぬことはなく傷をつけるのも一苦労な物。もはや神と同化したものであると…とりあえず小生が持っている本にはこのくらいのことが書いてあるぞ…」
マサムネは顔を挙げて言う。
「後は小生が収集した情報によれば勇者の強さは己の剣の軽い一振りで古樹を切り倒し、蹴りで岩盤に自身の足跡を残すという…防御力もすさまじく並みの武器では加護を打ち破れない上に回復力もすさまじく傷は負った先から繋がっていき猛毒?そんな俗物適応して逆に薬にしてしまうわ!さらには岩をちぎっては投げちぎっては投げ伝説の怪鳥の尾を持って初めて地面に引きずりおろし。釣り針で島を釣りあげてそれが今のどこかの国になっているという怪力の持ち主!」
「いや待ってください。そんな頭なろう系小説のチート野郎が現実世界に許されちゃいけないでしょ!」
ラクサスは飛び上がって抗議する。
「なろう系?と言うのは分からんが、確かに話が戯作じみているという評価は正しい。しかし、ラクサスよ…事実は小説より奇なるぞ…」
「小説より奇て…大体そんな奴に勝てるんすか!」
ラクサスはそう言って体中に汗を流す。自分はいったいどんな怪物と戦っていたというのか…あれで己の首が吹き飛ばなかっただけでもマシだとは…
「その心配はない。」
「と言いますと?」
「今、奴は戦闘力、いや女神の加護が制限されている状態だ。最初から戦闘力があれば今ごろとっくに全面戦争になっていただろう。今回別の七武衆が回収しに来たのはそう言う意味だ…小生にはその程度しか分からんのでな…」
すると別の席にいた女性が手を挙げる。誰かと思ったら学園長のエリザベッタであった。
「単純に勇者の戦闘力が全て女神の力という訳ではないです。人間は少なくとも神の加護を受けて生活しているんです。まぁそれが一般的に言う運の強さにも比例してくるんですが、それには個人差があります。要はその加護の割合の問題ですね。一般人だとおよそ10%、いわゆる聖職者は階級にもよりますがおよそ平均30%ほど。そして教皇や枢機卿クラスの大物はせいぜい70%が限界です。」
つまり強い奴ほど女神の加護を受けているというのだ。神を相手にすることが悪魔にとってどれだけ恐ろしいことなのかは言うまでもないであろう。
「なるほど…つまり私がボルケニアで戦ったノワールはその神の力を継承していると…」
参加していたフランがエリザベッタの方を見て呟く。
「えぇ…あの聖女はいわゆる神の力を降ろしていました。本当に人間のあなたが相手して勝ったのは奇跡と言わざるを得ません。」
「という訳だ…まぁ何であんな怪物が小生、いや魔王陛下の敵に回っているのかについては未だ疑問を感じ得ないが、少なくともベータ帝国が狙っていることは分かる…」
「と言いやすと?」
「領地の拡大だ…元々ベータ帝国は過度な人間至上主義があってな…まぁあの国自体がほぼ昔から人間が多くを占めている国であるのだが…それで多種族がいる当国を劣っているとして憎く思っている…それは確かだ…」
つまり魔王軍に敵対する者だということを利用してこっちに攻めに行くということか。何と手前勝手なお話である。
「という訳で近々全面戦争を覚悟しなければならないとか。まぁ各自…より気を一層引き締めてくれと…そんなこと小生へのイヤミにしか聞こえんのだがな…」
そう言ってマサムネは頭をかく。そして後ろの魔王が続ける。
「という訳で!皆ベータ帝国には気を付けるように!以上!」
そう言って魔王は玉座を立って部屋に戻っていった。
(あぁ…ややこしいことになっちゃったよ…)
そうラクサスは心の奥で落ち込むのであった。




