40話 神の視点
ネロが地面を力強く蹴って駆けていくのを見て、ラクサスは無言でポチのたづなを取って追いかけていく。後ろにドリアも騎乗する。二人乗りでも変わらない速さにラクサスはしつけがいがあった。
ラクサスは上から声をかける。
「ネロ!相手とは戦ったことあるのか?」
「うん、やり合ったことはあるね。正直一撃の動きは強くて兵隊の物量で押してくるけども。別段それだけで捌ききれないような相手じゃあない。」
ネロの眼前に骨の兵隊が3方向から襲い掛かって来る。
ネロは2本のサーベルを抜き去ると。
「獣刀流 猛虎撃!」
一瞬で死霊達をサーベルで吹き飛ばしてしてしまった。骨がバラバラになり辺りに骨が円形に飛び散った。
「つ、強いな…ネロ…」
ラクサスは賞賛の言葉を送るがネロの表情に変化はない。
「いや…このくらい獣戦士には当然のことだし。でも褒められるなら嬉しいけどさ。」
ネロはそう言う話をしながらも骨の兵団を斬っていく。その様子はただの剣士ではない…両手のサーベルを器用に操って切り裂き、時には足を使ってガイコツを蹴り飛ばしてどんどん骨の一団を攻略していく。それは周囲も同様だ同じく虎や狼、牛などの獣人の戦士が剣を戟をはたまた戦斧を振り回して一団を倒していく。
ラクサスもそれに負けるわけにはいかない。ポチを操って突っ込み多くの骨の兵隊をなぎ倒すだけには留まることなく、外套の中に仕込んでいた剣を操り周囲に大量の刺突や斬撃を与える。更に矛を持って敵に雷を落とすことも忘れていない。二人のその様子はまさに大戦の英雄にふさわしい働きだった。
「で、大将は?!」
「へ?」
「大将だよ!いるんだろ!この骨の一団にも当然のことながら指揮を出してる奴が。」
ラクサスはネロにそう大声を出す。
「大将?あの中で一番強い奴のことなら。僕は知らないけども。」
「バカが!大将がいないで戦が出来んのか!」
「バカ…何で僕が魔術学校で座学をほとんど寝てて実技科目以外さっぱりなことを知ってんだよ!おかげで回復薬の調合法すら分からないよ!」
「それはただのバカだろ!良く一応でも組織の指揮官になれたな!」
「んなこと言われてもね。そもそも大将がいるんだったら僕がとっくに相手にしてぶっ倒してるよ!」
そうラクサスとネロは揉める。それを見てドリアは
「戦場で揉めるんじゃない!」
とゲンコツと雷を落とし、二人はしぶしぶ謝る。
「す、すみません…ドリアさん…」
「でだな。あいつらの大将だが…恐らくネクロマンサーだ。」
ドリアはそう呟く。
「ネクロマンサー…どこで名前を切るんです?ネクロさん?」
「ネクロマンサーは人名ではないぞ。死体を操る連中の総称でな…非常に手ごわいのだ。」
つまりネクロマンサーがどこかしらから指示を出してガイコツを操っているということである。これだけの数を同時に操れるのだから相当な使い手であることがうかがえる。
「で…その諸悪の根源野郎ネクロマンサーはどこにいるんだ?俺が倒しに行きますがね。」
ラクサスは矛を振り回して答える。するとドリアが進み出て話す。
「恐らくここからそう遠くない場所にいるはずだ。相手とてこちらの動きを観察したいだろう。」
それを聞いてネロは手を挙げて
「そこら辺は僕に任せてくれ。探し物は得意だから。」
ネロはそう言うと目を閉じて念じた。
『神の視点』
「な、何だよ!」
ラクサスは驚愕するがドリアは慌てることなくネロを地面に座らせた。
視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚…生物はこの五つでものを感じ取っている。ネロたち獣人族はこの五感が常人の数十倍も強い。しかしネロはそれをさらに超えている。
他人の感覚を共有できる。
これがネロの持つ魔王軍としての特殊能力であり、ネロが魔王軍で指揮官をできる理由でもある。
「ネロは半径5㎞以内の生物の感覚(今は視覚だが)を共有できる。いわば半径5㎞以内全てに監視カメラがあるようなものだ。心強いだろう。」
「でも、視覚を共有している間は当然のことながら自分自身の目の前にあるものすら見えない。まぁ残りの四感を活用すれば補えなくはないが負荷がデカすぎる。本当は戦場でこんなデカい隙を作りたくはないんだけど…」
「安心しろ。俺がその間を守っていればいいんだろう?」
「助かる。爆速で探しに行くからな。半径5km以内に生物は10000人か…」
ネロが探している間親子は周囲のガイコツを葬っていった。
「数が減らないな親父!」
「うむ、ネクロマンサーは複数いるらしいな。それだけ相手の回復が早い。死んでいればいいのだからいくらでも残兵は居る訳だな。」
10分後ネロが叫んだ。
「見つけたぞ!2.5km先の塔に一人、3.4㎞先の廃屋に一人だ!両方ちゃんと護衛もいるから気を付けろ!片方は僕が行くから、二人は奥の方に向かってくれ。遠いけどグリフォンに乗っていれば時間はかからないだろう。」
ネロはそう言って立ち上がって話を続ける。目が疲れたのか目頭を摘まんでいる。
「分かった。でも、ネロはいったいどうやって行くんだ?全く違う方向だろ?」
「早馬で行くよ。」
すると後ろから獣騎士の一団が馬に乗ってやって来て、その内の空馬にネロは跨った。
後ろから虎の獣人が尋ねる。
「ネロ隊長。この軍勢で向こう行くのか?」
「いいや。タイガを始め大半はここに残ってガイコツ連中の相手と住民の避難誘導をしてもらおうか。行くのは数人でいい。向こうに気付かれると困るからね。」
「へい!」
タイガと呼ばれた獣人はネロの指示通りにする。はたから見ればリスの獣人が虎の獣人に命令している珍しい図である。ネロはラクサスに向き直ると
「実は僕は魔王軍の傘下の獣戦士部隊の隊長なんだ。この街の近くに修行場があって、そこで毎日訓練したりマンガ読んだりゲームしたりしてる。」
「隊長は長編マンガを自室に全巻揃えてますからね!」
後ろにいるウサギの獣人の女がそう褒める。
「じゃあ負けんなよ。」
そう言うとネロは部下の獣人数人を引き連れて向こうの塔に駆けて行った。
ドリアは意外なことを言った。
「じゃあ頼んだぞ。ラクサス。吾輩はもう少しこの街を守る。」
「親父は行かないのか。」
「貴様一人で十分だ。ネクロマンサーは大抵本体の戦闘能力が高い事例は少ないのでな。貴様でも十分撃破できる。」
「そ、そうか‥じゃあ行ってくる!」
そう言ってラクサスはポチに乗って違う方向に走っていった。




