36話 決着 ラクサスvs七武衆ヴェール
「スカーレット殿。来ていらしたのか?」
フランがそう聞くとスカーレットは
「あぁそうだよ。全く大変なことになったもんだねぇ。全く。」
そう言ってスカーレットは右手に持った矛を回す。
「ラクサスに渡す矛は……私自らが鍛えたんでね。」
スカーレットは矛を構えてクラーケンを見つめる。
天候が悪くなり雷もなり始めた。ヴェールは油断している状態だった。下のクラーケンが自由に動いてくれるからだ。この怪物は恐らくラクサス、エリス、ティナを倒せるだろう。こちらの懸念事項は…
「怖いのは襲ってくる霊剣ですかねぇ…」
この剣は勝手に動く上に倒し方が理解できないので仕込み杖で落とすしかない。しかし霊剣はどんどん生えてくるのでキリがない。
「ハッハッハ!遺跡の中の怪物ですか!はぁ…これはこれはさすがは魔族国家ですね。私の理解の範疇を超えてらっしゃる。」
「もとはと言えばお前らが遺跡に侵入したから起こった話だぞ…お前たちが遺跡荒らしをしなければ目覚めることはなかった!」
ラクサスは激怒する。ヴェールはそれを見て少し思案する。
「遺跡荒らしを我々がしたと?ふぅむ。そうなのですかね…」
「な、何考えてんだ!」
「いえいえ。一体当国の誰がやったのだろうと。少々考えていましてね。」
「考え事かよ。余裕だな。」
「えぇ。しかし……それは私の範疇ではありません。」
「は?」
ヴェールは何を言っているのか…ヴェールはそのまま続ける。
「私が七武衆の一人と言うことは話しましたね。ですので当然私以外にもいるわけですよ。七武衆がね。多分そいつの仕業でしょう。」
「他人事かよ!こっちは領民が怪我してんだぞ?」
「ハッハッハ!他人事 に決まってるでしょう!」
ヴェールはそう意地悪く笑うと周囲に巨大な竜巻を起こして霊剣を吹き飛ばす。剣は大量に叩きつけられる。
「あなたは私に何を期待しているんです?私は皇帝でも何でもないんです。罪を問うならその方に直接どうぞ。現実に私も誰がやったのか知りませんしね。まぁ貴方にその機会が訪れる機会なんてないんですがね!」
ヴェールはそう言って笑う。クラーケンはいつの間にかティナを縛り付けてしまっていた。
「ふっざけんじゃないわよ!いい年こいてる割にそんな理屈が通ると思ってるの?」
エリスがそう叫ぶ。
「吸血鬼に理屈を問われるほど私は落ちぶれていませんよ。やりなさい。クラーケン!」
すぐにクラーケンの触手がエリスに伸びる。
「エリス?!」
「きゃああ!」
エリスは触手に殴られ吹き飛ばされてしまった。そのまま地面に落ちていく。
「野郎!絶対に許さねぇ!」
ラクサスはヴェールを睨みつける。
エリスはアルフレッドの元に叩きつけられていた。
「大丈夫だろうな。エリス?」
「ア、アルフレッドさん…フランさんも…すみません。」
「心配することはないぞエリス。お前は強いんだ。」
「フランさん!上でラクサスが今サシで戦ってるんです。加勢に!」
「無理だ!今俺様がここを離れることはできねぇ!あの鉄の壁は頑丈だが……油断してクラーケンに突破される恐れがある。」
「くっ…」
エリスは唇を悔しそうに唇を噛む。スカーレットはそれを見て
「そこでアタシに考えがあるのさ。」
そう言ってエリスにぐいと近づく。
「諦めてくださいよ。でないと死神のお嬢さんの身体が潰れ去りますよ?」
ヴェールは笑いながら言う。海上であることもあって浮いている。
「てめぇ…俺がそんなことで諦めるとでも…」
「じゃあこの触手をどうにかできますか?無理でしょうねぇ。この海の上では逃げ道も限られているし、何よりその体躯では力技で勝ちようがない。」
「じゃあお前の後ろのは何だ?」
ラクサスに問われ、ヴェールは背後を見る。すると…ポチが触手を食いちぎっているではないか。
「な、何ィ?」
「怪物には怪物をぶつけろ理論。意外に効くねぇ。」
「舐めるな!私にはまだ武器がある!八つ裂きになるでしょう!」
ヴェールは堂々と扇を振って風の刃を打ち出していく。
それらがラクサスに届く直前にエリスが矛を投げつけた。
ラクサスはそれを受け取るとよく見た。これは矛に見えるが実際は槍でもあるためどことなく戟に近いように感じる。
「来いポチ!」
ラクサスはそう叫ぶとポチはラクサスの元に向かいそのまま飛び上がった。一気にヴェールを見下ろす形になる。
「やれるものならやってみなさい。」
ヴェールは扇を振り回して風の槍を生み出す。しかし
ゴロゴロゴロ
雷鳴に槍はかき消された。
「なっ!」
ヴェールは空目した。目の前にいるのは雷神か…いやどう考えても雷神にしか見えない。どんどん矛の先に雷鳴が集まって来る。そして光り始めた。
「お、己…私は七武衆のヴェールだぞ!」
「俺は…魔王軍最強を目指す男だ…」
その瞬間稲妻がヴェールに向かって落ちた。いや正確にはラクサスの矛がクラーケンごとヴェールを貫いたのである。
「ぐはぁ!」
ヴェールは感電して気絶する。それと同時に周囲を支えていた風も無くなり自由落下の態勢に入る。
ヴェールは落ちながら考える。
(そうですか…私は何のお役にも建てませんか…二十数年前から帝国に仕えてきた古参の私が…)
いや古参と言っているが実際は他の七武衆からはどう思われていたのだろうか。きっと慇懃無礼なおっさんとしか思われていない。それだけあの若造共は興味が無いのだろう。
ヴェールはそう苦笑して大海に堕ちた。
クラーケンは先ほどの雷撃で痺れ大人しくなった。
「クラーケン…お前は元の家で眠っていてくれ。起こして悪かったな。」
ラクサスはすかさず己の魔術で隷属とは魔力的にもさすがに行かずに話を聞いてもらうだけだったがなんとか家に帰ってもらうことに成功した。クラーケンはずしずし音を立てて海を歩いていく。
「ガハハ!お疲れ様だ!」
アルフレッドがそう言ってラクサスの頭を撫でる。後ろにフランとバロンも付いて来る。
「あぁ。しかし……被害はゼロとはいかなかったな……」
フランは周りを見ると周囲には倒壊した家屋や住民たちがいる。
「こればかりは時間が経たないと戻らないってことでさぁ。頑張りやしょうぜ。フラン嬢!」
バロンがそう言ってフランの肩を叩く。




