32話 ラクサスvs七武衆ヴェール
とある廃教会の中でヴェールは紅茶を嗜んでいた。
「ヴェール様!大変です!ノワール様とブーロン様が敗れました!」
そこに息も絶え絶えに走って来たのはやはり例の部下である。
「ふむ。見ていましたよ全てね。」
「はい!で、どうするのでしょう?」
「ノワール…彼女はいったい何をしていたんでしょうね。あんな人の心案件の魔術を使うのに関わらず弱すぎた。まぁどちらにせよ彼女は神との同化率が低すぎた。あのフランとか言う騎士に負けたのも納得です。ブーロンは…単純に頭が足りな過ぎだ。」
ヴェールは呆れていた。
「まぁ良いでしょう。それでも何とか時間稼ぎにはなった。評価しましょう。時間稼ぎの捨て駒要員としてはね!」
ヴェールはそう言って椅子から立ち上がり、大きく両手を広げて叫ぶ。
「さぁ!ここからどう動く?全ては世界の為に!」
一方その頃ラクサスは空を飛んでいた。
胸に下げた通信機によって既にフランとエリスの勝利は聞いている。
「後は…アイツが来れば…」
するとラクサスの背後に声が聞こえる。
「ラクサス様~!連れて来ましたよ~!」
来たのは小鬼のリコールだ。正式には父ドリアの従者の為今回のことには帯同していなかった。そして彼が乗っているのがラクサスのペット。グリフォンのポチである。
「クケェ~!」
「リコール!ポチ!よく来てくれたね!」
ラクサスは嬉しそうに叫ぶ。
「全く!突然ラクサス様の屋敷からグリフォンを連れて来いってこっちの苦労も考えてください。調教済みだからよかったものを。」
「だって俺だって。元々戦いに行く予定なら連れて来てたけどさぁ…」
ラクサスはそう言い訳しながらポチの背中に乗る。
「とっとと行くぞ。例の廃教会に!」
「へぃ!」
ラクサスが教会の扉をグリフォンで突き破った時、ヴェールは本を読んでいた。
「ふぅむ‥やっと来ましたか。御大将が……」
ヴェールは本にしおりを挟んで閉じラクサス達の方を見る。
「貴方は…羽と尻尾を見る限り悪魔族ですか。随分と高尚な種族がいたもんですねぇ。」
「お、お前は誰なんだ?」
「私はベータ帝国の七武衆が一人、ヴェールです。以後お見知りおきをまぁ生きて帰れればですがね。」
ヴェールはそう言って立ち上がる。
「それでいったい私に何の用でしょう?と聞くのは野暮ですかね。」
ヴェールはラクサスを見据える。
「お前らがこの街に攻めてきたせいで街が壊滅状態なんだよ!」
ラクサスは拳を握りしめる。後ろでポチが咆哮をあげる。
「ぐけぇぇぇ!」
「ふぅむ。なるほどそれで私を倒しに来たと。」
ヴェールはラクサスの元に歩みを進める。その瞬間ラクサスは気配を感じて、飛びのく。
「風の…刃…」
「ふぅむ。初見で私の魔術を避けて見せるとは…」
ヴェールは感心しながら老眼鏡をかけてステッキを持つと少し弄り始めた。ステッキの一つが落ちて中から鉄の刃が出て来る。
「さすがはノワールとブーロンを撃破した一味なだけはありますね。」
ヴェールは賞賛の言葉を贈るがラクサスは怯えていた。
(風なんて見えるわけねぇだろ‥‥)
錬金術の四大属性には火・風・土・水があるがそのうち風のみに言えること。それは不可視なことである。日常生活で炎が来ることは見えても風が来ることは見えないのと同じだ。それだけ風属性は受けることが難しい。
「不意打ちで一発は当たると思いましたが。さすがの感知力だ。しかし…」
ヴェールはそう呟くと仕込み杖を持つ。片手をポケットに入れて余裕の出で立ちだ。
「これは避けられまい!」
するとヴェールは爆速で動くと爆速の突きを繰り出した。その上風で加速しているのでスピードも高い。
「速いけれども。俺もこの程度は受けれる!」
そのままラクサスは矛で剣を受けるが
「甘いんですねぇ!」
数瞬遅れて風の刃が襲い掛かる。
『風輪』
すぐにポチが巨大な爪でヴェールを切りつけた。
「ぐわっ!そうですか…おたくはグリフォンも使ってきますか…」
その隙を突いてラクサスは矛を爆速で打ち込む。
「これでも喰らえ!」
ヴェールは風の壁で矛の動きを弱めるとズレて蹴りを繰り出す。
ラクサスはそれを見てヴェールの腹に拳を打ち込む。
「ぐふっ!」
ヴェールは吹き飛ぶが寸でのところで風のクッションを作りダメージを軽減する。またラクサスも蹴りを顔にもらい、口から血を吐き出していた。
「さすがですね。私相手にここまでやるとは…」
「神器を手に入れてどうするつもりなんだ…」
ラクサスは尋ねる。一体何をしたいんだという気持ちがあった。ヴェールの返答は意外だった。
「そんなの知りませんよ。」
「し、知りませんで済むか!こっちは実害が出てるんだぞ!」
ラクサスは怒りに任せて攻撃する。その攻撃をヴェールは器用にかわしていく。
「私は皇帝陛下の命に従っているだけ。あなたも人の下についているなら分かるでしょう。目的を聞くことは仕事ではないんですよ。」
「それで…人や魔族が傷ついてもか?」
「そうです。我々の国が正義ですからね。逆らうものはどうとでも。まぁさすがにノワールみたいなのはダメですが…それよりもいいんですか?怒りに力を任せた結果武器の軌道が疎かになってしまっている。これは褒められませんねぇ。」
気づけばラクサスはヴェールの風の刃を何発も喰らっていた。
「中々凄いと思いますよ。でもあなたは絶対に勝てない。」
ドゴォォォォォォォン!
突然地響きが街を支配する。
「い、一体何が起こっているんだ…」
「仕方ないですねぇ…案内して差し上げましょうか?」
そう言ってヴェールはラクサスを風に乗せて教会の窓の外から飛び出した。
「な、何だあれは‥‥」
ラクサスの眼前には信じられない光景が広がっていた。