30話 騎士団長フラン・マーガレットvs聖女ノワール
「まさかこれであの悪魔さんたちを助けたつもりですかぁ~?」
ノワールはそう言ってフランを嘲笑する。
「そう馬鹿にしていられるのも今のうちだ。」
「はぁ?」
「私はアルファ帝国の騎士団長。貴様らとは違う!」
フランはデュランダルを構え直す。風に金髪のポニーテールがなびく。
「バロン!背後は頼んだ。」
「へぃ。了解しやしたぜ。」
そしてフランは突っ込んでいく。
「おのれぇ~。」
ノワールは浄化魔法を放つがフランには効かない。
「私は人間だぞ?浄化魔法が通じるとでも?」
フランは浄化魔法陣を切り裂いて駆ける。
「私は神ですよぉ~!これでも食らいなさい~!」
ノワールは杖を振るって風の刃を放つのでフランは飛び上がって避ける。風の刃バロンのゴーレムに激突した。
「すまん!バロン!」
「大丈夫でさぁ。マグマに物理攻撃は無効でさぁ!」
その言葉の通りゴーレムはすぐに接合する。そしてバロンは
「援護しますぜ!やれ!マグマ砲!」
するとゴーレムの腕が吹き飛んで巨大な弾丸を形作りノワールに向けて飛ばす。
「な!?なんですか!?これぇ!?」
ノワールは混乱するがすぐさま防御魔法で防御する。
「さすがに硬いな…。だが勝てない相手ではない。」
するとノワールはほくそ笑む。
「そうですね~。でも何度も言ってるじゃないですか。私は聖女である前に神の代理人なんですよ。そのことをお忘れなきよう。頭の良い騎士隊長様ならご理解いただけるかと。」
そう言って杖を地面に何回か叩きつけて顔色を変えて言う。
「でもあなた方に弱いと言われるならばそれもまた一つなのかもしれないですねぇ~。」
ノワールの目は奥に向けられていた。そこでは自身の率いる騎士たちがマグマゴーレムに蹂躙されている。
とある騎士が駆け寄って来て言う。
「ノワール様!お逃げください!」
するとノワールは笑顔でその騎士の首を斬り落とした。
「うがぁ!」
「この程度のゴーレムに苦戦するとは帝国の恥さらしです。」
返り血がフランにもかかってしまい血なまぐさくなった。フランは愕然して何も話せない。
「理解できやせんぜ。ノワール殿の部下じゃねぇんですかい!?」
バロンが言うとノワールは
「その問いは二つの点で否定されます。まず一つ目。彼らは別に私の部下ではないんですよね。ブーロン、今奥らへんで戦ってるでしょう男から借り受けたものでして。」
「バカな!自分の部下でもないならなおさら貴様が利用する必要など…」
「待ってくださいよ。」
フランの責めをノワールは止める。
「人の話は最後まで聞くのが騎士では?これが最も重要な二つ目の点です…これは何度も言っていますが私は神なんです。」
「神だと…」
「えぇ…でも決して自称ではありません。では自称と他称の違いは?それは無論信じる人が居るかですよ。神は単独では存在できません。でなければ私は神であるとそこら中に喧伝しているド阿呆でしょう。」
「ド阿呆……」
「そう。神とは信者が居てこそ意味があるのです。では神は何から力を得るか…
それは生贄ですよ。」
「い、生贄だと…この時代にか?!」
ノワールの能力はこうだ。神の代理人を称する聖女である彼女は信者に擬制した他者の生命を生贄にすることで自身の力を何倍にも出来る。彼女は生贄の末に生み出された神であると言える。この時代において何倍も手強い魔術と言うか禁忌の中の禁忌である。
「バカな!そんなの非人道的すぎる。そんな禁忌魔術が一般に流布しているわけがない!貴様が聖女なんて聖人君子の職に就けるわけがないだろう!」
するとノワールは笑いだす。それと同時に衣装が白く光り出す。これは聖女のあかしだ。
「バカですねぇ~。本当に何度も同じことを説明させないでください。同じことを聞き返す女性はモテませんからね。神である私には人間の生命など生贄でしかありませんよ。」
そう言うと一瞬でノワールの周りの騎士の首が吹き飛んでしまう。
返り血を浴びて真っ赤な姿のノワール。彼女は神どころか一種の悪魔にすら見えた。
この女は倫理観がおかしい。そして今まで何十の血が流れて来たのかも理解した。
「最初は貴様のことを適当に剣であしらっておいて帝国に送り返してやればいいと思っていた。騎士道は女性を殺すのを嫌うから。」
そして睨みつける。
「だが既に考えは変わった。今の貴様を生きて帰せば何十、いや何千何万の命が失われる。貴様はそれほどの異常分子だ。」
「ふぅん。その心は?」
「このフラン・マーガレット。貴様だけは絶対に息の根を止める。」
「あはははははははははははは!まさか私に勝てると思ってるんですかぁ?女騎士の分際で?」
ノワールは爆笑している。
「一騎士が神である私に敵対するなどあってはならないことですぅ~!」
「我々はお前を神とは認めん!貴様は悪魔ですらない邪悪そのものだ!」
そしてフランは駆ける。
「ぎゃはははは!良いでしょう!もうあなたは私の玩具ですからね!」
そう言って飛び上がる。生贄の力を得たというだけあって身体能力が倍近く上がっている。
そのまま杖でデュランダルを受け止めてフランごと弾き飛ばす。
「死んでくださいよぉ~!『神の裁き』」
そのまま杖から光の弾丸を連射する。フランはそれを全て受けてしまった。
「くはぁ!」
「フラン嬢?!」
バロンが慌てて駆け寄る。
「…るな…」
「へ?」
「騎士団長を無礼るなよ!」
フランは光の弾丸を斬り飛ばす。
「私には守るものがある。背後の領民たち。後ろの仲間たち…そして…」
フランは脚に力を溜めて一気に地面を蹴った。
「世界で一番可愛らしい魔王様の笑顔だァ!」
そのまま剣を構えて刺突の姿勢を取る。
「バカですねぇ~!その程度神の防御魔法で…」
ノワールは防御魔法を展開するが彼女はそれを紙でも貫くかのように打ち破った。
「バ、バカな…私が人間如きに~!」
「私が貴様を神の座から引きずり下ろす!『アルファ流剣術 乱槍劇(シャルウィーランス!)!』」
フランの突きはノワールの心臓を貫いた。
「ぐわぁっ!」
ノワールは地面に倒れ込む。
「ぐふぅ……こんなバカなことが……バカな…バカな…」
ノワールは息絶え絶えに言う。股間を見ると失禁してしまっている。
傷は致命傷は避けているが当然ながら直るのに時間はかかるだろう。それほどの傷だ。
「去れ。それとも貴様の部下に地獄で詫びを入れるか?」
ノワールは既に体が動かない。動かない身体で生きるしかない。
「わ、悪かったですぅ~。私の負け‥‥命だけは…」
するとフランは剣を振り上げて振り下ろした。
「ぎゃああ!」
しかし息はある。ノワールは頭を覆って状況を整理する。するとあることに気付いた。覆う腕が無いことに…
「ひ、左腕がぁぁぁ!斬り落とされたァァ!」
「この左腕は今まで貴様が奪った人命の分だ。それとも貴様が自ら地獄で詫びるか?」
「ひ、ヒィィィィィ!」
ノワールは気絶してしまった。慌てて部下の騎士が担ぎ上げて帰っていく。
もう彼女は精神から打ちのめされ再び日の当たる生活はできないだろう。ある意味死よりも厳しい罰だ。
その後騎士たちの墓を建ててフランが墓に酒をかけているとバロンが寄ってきて言った。
「フラン嬢。あの聖女の命を最初に奪うと仰っていましたが。助けたんですかい?」
するとフランは笑って言った。
「私は騎士団長だぞ?私は戦場では騎士としか命のやり取りはしない。」
「さすが!騎士の鏡でさぁ!」
「それよりもこの可哀そうな騎士たちの弔いはしないとな。」
「へい…可哀そうなことでねぇ…」
そう言ってバロンもフランの隣で騎士を弔った。




