27話 畜生聖女と溶岩魔術師
街は粗方荒されており、子どもは泣き叫ぶし、店は汚いしで死の様相だ。フランが歩くと近くに市民が寄って来る。
「フラン様!助けてください!」
「うむ、状況は理解している。今すぐにあの悪どもを撫で切りにしよう。」
フランはそう言って怯える市民の頭を撫でて安心させる。
そして剣を鞘から抜くと走り出す、ラクサス達もそれについて行く。
進軍してきた騎士団の先頭である女性が街の中で転がる魔石を集めていた。女性は修道服を着ており、金髪で目は緑色だ。RPGに出て来るシスターそのままの格好である。
「うう……これは全部魔石なんですか……意外と少ないです。」
そう言っている彼女だが、手にはまだ袋を持っている。その中には大量の魔石がある。
「聖女ノワール様!この街の魔石はこれで粗方集め終わりました!」
そう言って騎士が敬礼してくる。
「ホントですか?この唯一神の代理、シスターノワールに誓って本当にそう言えますか?」
そうノワールと言われた女性は騎士に向かって言い付ける。
「恐らく!完全に回収しました!」
騎士がそう言うとノワールは近くの住宅の壁を蹴り壊した。
中で住民が怯えているが、それを無視して家の中に押し入るとぐるりと見渡す。そして…
「ほらぁ!こんな棚の中なんかに隠されてるじゃないですかぁ!真面目に探してんですかぁ?どうせ外の目につきやすいところだけ適当に探したんでしょう。どうせあなた様のお部屋いや、汚部屋の隅には埃だらけの場所があるに決まってますぅ!修道院にでも入られたらどうですか?」
そう言って騎士を叱る。
「す、スミマセン…」
「ただでさえ今回の現場監督さんは鬼軍曹なんですぅ。ただでさえ厳しいのに…っと。」
ノワールは言葉を止める。なぜなら彼女の胸に武器、いやモップが突きつけられているからだ。
モップを突きつけているのは年齢が一桁の少年である。
「出てけよ…俺たちの家から去れ!この強盗がァ!」
「何だと?クソガキがァ!」
そう言って騎士がずんと歩み出るがノワールはそれを片手で制した。
「主は過ちを許します。正して祈りなさい。来世では我らの庇護のもとに生まれるように。」
来世、これは即ちノワールの少年に対する殺人警告に等しい。これにはさすがの騎士もドン引きを隠せない。慌てて主人が飛び出て来て少年から武器を奪い取ると少年を抱き寄せた。
「いくら何でもこいつは年端も行かない阿呆なガキです。お許しを頂けませんか。」
「我々は異端を認めないんですぅ!大体あなた方が間違っているからこんな阿呆に育つんですぅ。」
するとそこにユリカがやって来る。彼女はボルケニアでの滞在中この店の2階で寝ていたのだった。
「そんなことが許されていいんですか?こんな宗教なら私は魔王軍の方を選びます!」
「ユ、ユリカちゃん…」
店の店主はオドオドして言う。
「何度も同じことを説明させないでくださいよ。私は髪の使徒なんですぅ。」
彼女はそう言ってえばる。まさに無理やりである、そして彼女は口の中で何かを唱え浄化呪文を唱え始めた。これはまさしく細胞の一つも残さずに存在ごと消そうとするものである。
「いやそんなめちゃくちゃな!」
「みんなまとめてこの世から存在を消してやりますぅぅぅぅ!」
ノワールが呪文を唱えようとすると、その首に刃が添えられる。
「おい…何をしている。」
低い声で威嚇するのはラクサスである。続いて騎士の剣を蹴り落とす。
「その角と尾…つまり悪魔族…唯一神様の加護を受け損ねるばかりか邪魔をする最悪の存在!」
ノワールは一瞬で飛びのくと浄化魔法をしようとする。
(浄化魔法…悪魔族の俺とは相性が良くない。早く逃げねぇと俺の存在が抹消されちまう…)
するとフランがやって来た。
「これは私がやろう。私の領内で好き勝手させないぞ…」
「お、己…魔族に魂を打った騎士のくせにぃぃ!」
「私の心にいる神はあの陛下のみだ。私の純潔を捧げてもいい。」
顔を赤らめてハァハァ言っているフランに脇に居た騎士は
「こ、このロリコン騎士!」
ノワールが後ろに目配せすると騎士が大量にフランに襲い掛かる。
「やっちまえ!多勢に無勢理論だ!」
「馬鹿め。私だけだと思ったのか。」
そう、フランが呟くと、突然騎士たちの前に溶岩の壁が出来た。
「溶岩魔術 溶岩傀儡」
そう唱えたのはバロンである。溶岩の壁はぐにゃぐにゃ歪むと段々と巨大な人の形を取った。
「溶岩に近づけるものなら近づいてみなせぇ。まぁその前に騎士の旦那方の身体が焼け落ちるでしょうがね。」
そうゴーレムの肩に乗ったバロンは高笑いする。
「こ、こんな怪物に近づけるわけがない…」
騎士たちはしり込みするがバロンは止まらない。
「行きやすぜ!マグマ砲!」
騎士たちに巨大な溶岩の腕を振り下ろす。
「ラクサスの旦那!これがあっしの魔術。あっしは溶岩を自在に操作できんです。この火山の街にマッチしているでしょう。あ!さっきのはダジャレじゃねぇですけど。」
バロンはそう言ってガハハと笑う。
「っとまぁそういうことだ。ラクサスさんとエリスさんは先に行け。魔族の貴様らじゃ聖女相手に勝つのはきついだろうからな。」
「は、はい!」
そうエリスは答えると「ほら!行くわよ!」とラクサスの腕を引っ張って去って行った。




