21話 いざ、神器奪還へ!
「マ、マサムネさん…いつの間に?」
ラクサスの背後に立っていたのは黒髪を後ろに縛り、着流しを着た男だった。腰には今日は日本刀は提げていない。
「さすが影武者。足音一つ立てずに近づくのは朝飯前ですわね。」
「お褒めに預かり光栄だが…小生はそのために来たのではない。饗宴の日が来た。」
「饗宴?パーティーでも?」
「何年ぶりだろうかね。陛下が招集をかけて来た…」
そう言ってマサムネは考え込む。饗宴なのに浮かない顔だ。アルフレッドはそれを受けて
「これは何か動くのか?わざわざてめぇを差し向けてきた辺り呑気に城に向かえるほど余裕を持て余してるわけじゃあなさそうだな。」
「その通りだ……今すぐに小生の影の中に入ることを勧める。」
厨二病の彼の言葉を訳すと「魔王様がお呼びだから、早く集まれ。」と言うことである。
そう言うとマサムネは自身の影を巨大化させて広げた。
『影魔術。影の門』
マサムネは詠唱をしてラクサスとアルフレッド、そしてローシァの影に自身の影を繋げた。すると三人の姿が消えた。
(相変わらず気を失うのだけ難点だな。)
そうしてラクサスは目を閉じた。
目が覚めたのは広間の中だった。
「ガハハ!起きたか!マサムネの影魔術は便利だろう!」
「これは……転移魔法ですか?」
ラクサスの問いにアルフレッドは答える。
「そうだな!それでここは魔王城の広間だ。」
ラクサスが周囲を見回すとやはりローシァやマサムネに加えてエリスもいる。
「あら?アンタアルフレッドさんと一緒だったのね。」
そう言ってくるエリスに対してラクサスは
「あぁ。ちょうど成り行きでね…」
そんなことを言っていると相変わらずのロリ魔王がやって来た。
「皆来たな!これから饗宴の儀を始めようぞ!」
(饗宴?)
ラクサスがそう思っていると魔王は続ける。
「この度、我の呼びかけに応じてくれて嬉しく思っている!皆も知っての通り、先に遺跡の神器が盗まれた!」
辺り一面が動揺する。そこにエリスが手を挙げる。
「陛下。それは本当なんですか?アタシは神器なんて伝説上のものだとしか習いませんでしたけど。」
すると魔王は彼女に向かってうなずいて述べる。
「うむ、でも世界を滅ぼすほどの力を持ったものらしいというのは確かだ。それにあれが神器でなくともこちらの遺跡に無断侵入された件に関しては看過は出来ないぞ。」
魔王であるハンナはそう落ち着いた声で言う。するとアルフレッドが挙手する。
「陛下。一つよろしいか?」
「うむ、申してみよ。」
「盗まれた神器はもうあちらに置いて行かれたんでしょう。それをこれから軍を興して取り返しに行くってことか?」
それにはハンナではなく近くに居たドリアが答える。
「それをすれば向こうの帝国と正面から戦争をする羽目になる。下手を打てばこちらが滅ぼされる可能性もあるのだぞ。」
「ならこのまま見過ごせって?そりゃあ納得できねぇなぁ!」
そう言ってアルフレッドは拳を握りしめる。すると…
「クフフ…心配はないぞ。アルフレッド殿。」
そう言ってマサムネが眼帯を手で覆いながら壇上に飛び上がる。
「その神器、魔王軍幹部の小生が取り戻して来よう。クフフ腕がうずくぞ…」
マサムネはド級の厨二病であるため、神器と聞いて血が騒ぐ性分らしい。無論そんなことラクサスにはあまり関係がない。
「マサムネさんは神器の場所が分かっていますの?」
ローシァが扇でマサムネを指し示す。マサムネはローシァに向き直って答える。
「恐らくあの帝国が神器を隠しているのはあそこだろうという予想はある。」
「予想?場所は確実に分からないのか?」
ラクサスはマサムネに問う。マサムネは頷きながら、
「すまないな。小生にも神器の気配を探ることは出来ぬのだ……だが小生が行けばその詳しい気配を辿れるだろう。」
そんなことを言っていると魔王ハンナが手を挙げる。
「では、マサムネよ。そなたに命ずる!帝国に忍び込み神器を奪還して参れ!そして我の前に持って参じよ。」
「了解いたしました。陛下。この命に代えても……」
そう言ってマサムネは頭を下げる。
ラクサスはこのやり取りを聞いて
(へぇ、あの人も頑張ってるんだなぁ。)と考えた。




