20話 酒場に令嬢がいることってあるんだろうか…
入って来た女性は青いドレスを着ていて、水色の髪に真っ白な肌、そして何よりも目は冷たく開かれている。ただどこかこの世の生物ではなく氷の人形のような雰囲気の冷たさがあるし、特に白い肌なんて誤って触れただけで手のひらから凍り付きかねないような雰囲気がある。だがその点を考慮してなお、スタイルもよく非常に美しいいでたちとして衆目を集めていた。彼女はエルフの女貴族であった。
悪魔と大鬼族が酒を交わしているところにがやって来た。通常ならば警戒するべきところであろう。魔王軍と騎士は相いれない関係にあるのが常なのだから。
しかし彼女はそんなことを気にすることなくずけずけと酒場に入店していく。それを見たアルフレッドは椅子を移動する。
「ガハハ!ローシァ嬢。こんなところを訪れるなんて珍しいな!しれとも俺様たちに用事でもあんのか?」
アルフレッドはそう言って大笑いする。するとローシァと呼ばれた女は扇で口元を隠しながら冷たくつぶやく
「あら?私があなたみたいな野蛮な男に用があったとでも思っているんですの?冗談じゃありませんわ。」
彼女の言葉は冷たい。吐く息一つで凍り付きそうな雰囲気がある。そしてまともな女経験がゼロに等しいラクサスは彼女を見て美しいと思った。まるでこの世のものではないような雰囲気である。まぁエルフなんだから当然と言えば当然であるが…
店のマスターはローシァを見て。
「いらっしゃい貴族様。何をお出ししましょうか。」
と定型文を話した。
「いつものカクテルを頂くわ。」
「へい。」
そう言って彼女はラクサス達を椅子を一つ空けてカウンターに座った。
「何だ?そんな高ぇだけの酒なんか飲んだって酔えねぇだろう?」
そうアルフレッドがローシァに言うと
「私は酔うために飲んでいるわけではありませんの。あなた様みたく酔ってそこら中に吐瀉物をお吐きになるのと同列に比べないでくださる?」
「そ、それは…猿も木から落ちるってもんだろう。」
「そうですの。」
彼女はそうツンと突き放した。ラクサスはその顔に一瞬だけニヤ付きがあったのを見逃さなかった。
(この令嬢…性格が丁度よく悪い…最高じゃないか…)
ラクサスは一瞬で彼女を気に入ったが、そこであることを思い出す。
「そう言えば神器ってなんだか知ってます?」
ラクサスの質問にローシァは驚いたが、そこで一連の話を説明すると…
「えぇ…神器のじの字も知らないんですの?それで良く陛下の四天王なんてお務めに…」
「あぁ!悪かったな!俺様が神器のまの字も知らなくて!」
「アルフレッドさん…神器にまの字はどこにもないぞ…」
ラクサスはそう優しくいさめる。ローシァはため息をついて説明をしていく。
「神器と言うのは…何千年も前。この帝国が誕生するより前から世界に伝わるいくつかの道具のことですわ。それもただの道具じゃない。その道具一つで神の領域にまで達することができる、俗語で言えばチートとでも言うのでしょうか。でも、存在自体が怪しいものも多いと聞きますわ。大体その手の神器は昔話などに伝わっていてどれが真実でどれが嘘かなんて分かりませんもの。」
「ふーん。それでいったいどこにあるんだ?」
「どこにって……知りませんわよ…」
「え?」
「だって世界を滅ぼしかねない兵器があるなんて分かれば取り合いは必至。大体話がすべて伝説じみてるのもそのせいでしょう。と言うか存在すら怪しいですわよ。」
「ガハハ、なるほどな。それだけデカい兵器は存在すら怪しいという訳だ!ガハハ!」
アルフレッドはそう言って笑った。しかしラクサスは疑念を抱く。
「しかし…そんな伝説の為にあちら側は騎士団を寄越してきたのか?そんな訳がないと思うんだが……」
ラクサスの疑問にアルフレッドは笑う。
「ガハハ!あのアホ皇帝のことだぜ?どうせ伝説の存在が本当かどうか確かめたいとかそんなとこだろうよ!」
「ああ……そうかもしれませんね……」
ラクサスはそう言って酒を飲んだ。
(確かに伝承などというものは曖昧なものだ……だが、ここは人間界じゃない。何があろうとおかしくはないんだ…)
そうラクサスは考えた。すると背後に何者かが立った。
「小生を置き去りにして神器を語るとは……」
ラクサスは驚いて振り向こうとする。しかしその肩に何者かの手が置かれた。




