19話 女の嫉妬は恐ろしい
「‥‥ってことがあったんだ。」
ラクサスはバーで隣の席のエリスに向かって愚痴を言う。
「は、はぁ…それは大変だったわね。」
「んで、お前何してんだよ。こんな真昼間からバーに居座るような女だったのか?お前。」
「なっ、何よ!!別にいいでしょ!!」
そう言ってエリスはグラスの中の酒を飲む。
「アタシはアンタみたく遠出して時間を潰す余裕なんかないの。」
「おいおい、誰が暇人みたいに言ってんだ。俺はアンジェラさんに振り回された形なんだ!」
「へぇ、本当はアンジェラさんと二人っきりで鼻の下を伸ばしているくせに。」
そうエリスは嘲笑してくるので、ラクサスは腹を立て
「あ?んな訳ないだろ!あんな年甲斐もない下着穿いてる人だぞ?」
「ちょ!アンタまさかアンジェラさんのパンツ見たの?」
エリスがあわあわする。
「バカめ。不可抗力で見ちまったんだよ。」
「そ、そう。よかったわ。」
「お前何でそんなに慌ててんだ?」
「バカね!気のせいよ!」
と、エリスはグラスに入った酒をぐびぐび飲む。
ラクサスはそんなエリスをニヤニヤして見た。
「悪魔の目をごまかせると思ったのか?お前は嫉妬してるだろう。」
ラクサスが言うとエリスは固まった。
そしてラクサスは追撃をかます。
「アッハッハッハ!こりゃあ図星だな!お前分かりやすいなぁ!!」
と、ラクサスは笑った。
「こ、このチビ悪魔ァ!アタシをからかうとはいい度胸じゃない!」
エリスは怒りでラクサスの腹を殴り飛ばして吹き飛ばす。
「ぐほぉお!」
ラクサスは吹き飛び、席から転がり落ちてそのまま床で伸びてしまった。
「ったく!バカじゃないのアンタ?!アタシがアンタみたいなクソチビに嫉妬するわけないじゃない!バーカバーカ!」
そうエリスは怒ると代金を払って酒場を飛び出してしまった。
「ったくいってぇなぁ…」
ラクサスが仰向けになっていると目の前に見知った顔がのぞき込んでいた。
「よぉラクサス。元気か?」
そう言ってきたのは大柄な男である。体がデカすぎて酒場の天井に頭が付きそうになっている。
「アルフレッドさん。」
その男の名前はアルフレッド・ジャーマ。魔王軍の四天王の一角である。
「一体お前はいつから酒場の床で寝るのが趣味になったんだ?」
「そ、そんな訳ないでしょう!」
ラクサスは飛び起きアルフレッドを見る。
「ガハハ!そうかそうか。まぁいい。俺様はこれから酒を飲むのでな。いつものを寄越してもらおうか。」
「は、はい。」
マスターは無言でアルフレッドの注文した酒を出すと彼はそれを一気に飲み干す。アルコール度数90%の酒である。
「プハァーッ!うまい!」
アルフレッドは満足そうな顔で言う。
「よくこんな濃い酒を飲めますね……」
「まぁな。俺様レベルになっちまうとこれくらい濃くないと物足りなくてなぁ。」
「はぁ。」
ラクサスはそう返事した。アルフレッドはグラスを握っているがその大きさが段違いだ。手の大きさだけでラクサスの2倍はあるがグラスもそれに応じてデカい。それにただ背が高いのではなく横幅の筋肉もがっしりしていてまさしく豪傑の風貌だった。
「一体何cmあるんです?」
「俺様の背か?340cmだったかな。」
「いやデカすぎでしょう!てか俺なんて見てください!160台前半ですからね!」
ラクサスは悪魔に転生していいことが一つ最悪なことが一つだった。いいことと言うのは魔術がそこそこいいものだったことと、顔が可愛い系ではあるが美形であったこと。そして致命的な欠点が背の低さであったのでアルフレッドの身長を羨んでいた。
「まぁ悪魔族の背の高さは知らんが、よく食ってよく寝てれば何とかなったもんだぞ?」
「それができりゃ苦労はしませんからねぇ!」
ラクサスはアルフレッドの回答に渋面を作ると質問をした。
「そう言えばこの前の騎士はどうしたんです?確か。」
「あぁ、アイツか?アイツなら今尋問中だ。」
「尋問?」
「あぁ、アイツがなぜ本領に侵入してきたのかをな。」
「へぇ、そうなんですか。」
ラクサスはそう言うとアルフレッドは話し続ける。
「まぁ理由は分かる。神器関連だな。」
「神器?」
ラクサスが聞く。
「神器って何ですか?」
するとアルフレッドは
「バカ野郎!おめぇ、神器ったら神器だろ。何か凄いやつだってことくらい分かるだろ。」
「いや、それくらいは分かりますよ。ただ神器って何ですか?」
まともな説明をしようとしないアルフレッドにラクサスは溜息をついて言う。
「神器ってのはなぁ、なんだ…恐らく凄くすごい奴だ!」
そう言ってアルフレッドは大笑いする。そう何を隠そうこの男図体だけは一丁前だが頭に至ってはとんでもない鈍さである。
「結局知らないんじゃないですか!」
「当たり前だろ!神器なんて古代史に興味ある奴でもなけりゃ一生耳に挟む機会なんてねぇんだから!俺だってマサムネから聞くまでそんなものの存在すら知らなかったぞ!」
このレベルでよく四天王が務まるな。ラクサスはそう思ったがバカなのに加えて下手に繊細なところもあるこの男の為に口をつぐんでおくことにした。
「まぁそれはそれとして一体神器なんて何に使うんすかね?」
ラクサスが今まで溜まっていた疑問を出すとアルフレッドもうなずいて同調する。
すると門が開く音がした。二人がそちらに視線を送ると入って来たのは女騎士であった。




