16話 やっぱり山は危険やな
ライドの実を持参したカバンに詰めてラクサスとアンジェラは池の向こう側に行こうとした。
すると、ポチに草が絡まっていた。
「クケェ~…」
ポチは非常に苦しんでいる。
「ちょ、俺のポチが!」
「あ、あれは人食い草ね…あ!別に人食い草ってついてるけど普通に動物なら何でも食べるし…別にライオンみたくかみ砕くわけではないわ。あの葉っぱの先に出ているあの棘で栄養を吸うの…あの型の種は…」
「ああああ!うるさいこの植物オタクが!早くさっきの湖面を歩いて渡る術をかけてくださいよ!」
「ったくもう分かったわよ。ほらついて来なさい。」
そう言ってアンジェラはラクサスの手を取って湖面をスケートのように滑り始める。
「急ごしらえだから、手を離さないでね。手をはなしたら湖の底で400年放置よ。」
「いや何その地獄!400年も放置されるの?腐らない?」
ラクサスはブツブツ文句を言いながらも湖面を渡り切った。
「クケェ~。」
ポチは主人が来て安心したらしく再び甲高い声で鳴いた。しかし二人はそれに構っていられない。
「このまま近づいたらあの草にもっとおいしい餌を与えることになるわね。」
アンジェラは腕を組んで考える。ラクサスは矛を構えて草を斬っていく。
「おら!早くポチを解放しろってんだ!バカ野郎め!」
しかし相手も相手だ。美味しい餌を簡単に敵に渡すわけがない。すぐにポチに絡みつくどころか矛を伝ってラクサス側にも食指を伸ばそうとする始末だ。その一方でアンジェラは手を出さずにノートを読んでいた。
「ちょっとアンジェラさんも何かやってくださいよ!」
「今探しているからちょっと待ってね。」
そう言ってアンジェラはしばらくノートをぺらぺらめくっていたがふとある記述を見つけるとノートをパタンと閉じた。そして湖の中に左手を突っ込んだ。そしてかき回す。
「私は錬金術師でもあるけれどその本質は魔術師よ。だから…四大元素の水を使うくらい!」
そうアンジェラが叫ぶと湖面が荒れ始める。周囲にそよ風すらないのに湖面は大嵐でも来たかのような荒れようである。
「もうすぐ来るわ…」
すると、湖面から急にラクサスが両手で抱えられる程度の魚が出てきた。
「これは鯛ね!ほら!早くそれを受け取って草の中に投げなさい!」
「は、はいっ!」
ラクサスはアンジェラから投げ渡された鯛をその勢いそのままに体をひねるようにして奥の草に投げ入れた。
すると…人食い草達は急に獲物をその鯛に切り替えた。今までポチを苦しめていた草もすぐに標的を変更した。
「い、今助けるぞ!」
「クケェ~!」
ラクサスはポチのもとに走るとそのまま背中に乗って走り抜けた。
「これで解決ね。」
アンジェラはサムズアップをしてくるのでラクサスも渋々返す。
ふと、ラクサスが鯛を見てみると既に骨しか残っていなかった。
「ひっ…これが人食い草の威力…」
「工夫すれば防衛にも使える物になりそうなんだけれど、生憎まだ研究が浅いらしいのよ。だから囮作戦を実行したの。」
アンジェラはそう言って本を閉じた。
しかしこの時二人は知る由もなかったのである。さっきの魔術がどんな影響を及ぼすかを…
「ぐがぁ…」
恐ろしい鳴き声が湖面の中から聞こえて来た。




