10話 襲い掛かる 霊剣
翌日、三人は遺跡の前に立っていた。外観は古代の神殿か…柱は非常に立派で屋根も石英製で高級そうだ。きっと昔は栄えていたのだろう。ただ、それも古代のお話で現在はあたりに蔦が生い茂り、ひび割れているところもある。
「さすがにこの建物に入ろうとは思いませんねぇ……」
ラクサスがつぶやく。
「こういうところには魔物が棲みつく傾向にあると歴史的古文書にも書かれているわ。しかもきっとそこらへんでエンカウントできるような魔物ではないわね。」
エリスは腰から剣を抜いて構えた。
マサムネが一歩前に出る。
「お主たちここからの覚悟はいいか?この中は大魔境だ……1歩間違えれば死が待っている……」
「その程度の覚悟はできています。さぁ行きましょう!」
ラクサスははきはきと応じると、マサムネは深く頷いて扉を開ける。
意外とスムーズに開いた扉を開けるとそこは長い廊下だった。肝心の遺跡の中は非常に暗く、廊下と言えど一寸先すら見えない。一応神殿の遺構として壁には申し訳程度のランプが掛かっているが、そんなもの幾千年後の機会に役に立つわけがない。
「暗いですね‥‥」
エリスが空間を見回して呟く。辺りにはあちらこちらに遺跡の残骸が残っている。
「お主の生命が大事なら軽々しく触るな…魔物の中には擬態しているものもいるからな…」
マサムネはそう言って辺りを警戒する。彼は歴戦の経験から危険信号を読み取っているらしい。ラクサスも後ろのグリフォンが暴れないように制しながら進んでいく。
ある部屋、恐らく兵士か何かの詰所であっただろう部屋の前を通りかかると、急に剣が飛んで来た。
「なんじゃあ?!」
ラクサスは後ろに飛びのいて避ける。先ほどの剣が合図になったのか続々大量の剣が襲い掛かって来る。
「これは霊剣といって、かつて戦場で命を落とした兵士たちの思念が剣に宿ったものね…血を求めてるわ!」
エリスがラクサスの後方で叫ぶ。
「これがあると前に進めねぇな…」
ラクサスは矛で霊剣を薙ぎ払いながらそう話す。ふとラクサスは奥にある一まわり大きい剣を見つけた。
「あれが本体か!」
ラクサスは翔び上がって一気に加速すると、その本体の剣の柄を持った。
「え?何?」
エリスは混乱していて状況がつかめない。
「落ち着け!!」
ラクサスは剣ににらみを利かせる。最初は暴れまわっていた剣が一瞬で大人しくなった。
「この霊剣は俺が従えました。せっかくの機会です。中を案内してもらいましょう。」
そうラクサスは提案する。
ラクサスが遺跡の廊下の両側にあるものを注意深く見ているとある部屋に倒れている人間を見つけた。
「マサムネさん!あそこに倒れている人間たちが!先ほどの剣にやられたようですね。」
「何?!今行く…」
倒れている人間は先ほどの町長が言っていた探査隊だろうか…
脈拍を図ってみるとまだ息がある様子だ。
「ラクサス…グリフォンの背中にこいつらを乗せられるか?」
「無論です!」
そう言ってラクサスは一瞬でグリフォンの背中に人々を乗せ始めた。
「マサムネさん。これは魔物に襲われたんでしょうか。」
エリスが神妙な顔で質問する。するとマサムネは
「静かか…静かすぎるな…」
そう神妙な顔で口を開く。
「静かすぎるってことですか?」
そう尋ねたエリスにマサムネは
「通常ウン千年放置された建物だぞ?魔物が棲みつき、独自の生態系を構築しているのが必定。だが、この遺跡に来て今までゴーストの一体も見かけていないのだ…」
と答えた。考えれば久しく開いていない遺跡の門はそんな簡単に開くものだろうか…
「まさかこの遺跡はごく最近入ったものがいる…」
マサムネはそう呟いた。三人はより慎重になって進んでいく。そうして遺跡の最奥にたどり着いた。遺跡は大きな扉があって剣を持った悪魔の紋章が彫られている。マサムネは紋章に触れると
「やはり、巧妙に偽装されているが直近に侵入者がいるな…」
「じゃ、じゃあその侵入者があの人たちを?」
エリスがマサムネに尋ねる。
「その可能性も否定できない……ラクサス!結界を解くぞ。」
「は、はい!」
マサムネが呪文を唱え始めると大きな扉の紋章が光り出し、門が重い音を立ててゆっくりと間から光を出しながら開いていく。
「開いたわね。じゃ、行きましょうか。」
そう言ってエリスが門の中に入っていく。




