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1話 もう一つの世界

 星降りの丘。僕が付けた、最高の星見の場所。僕は、ここが好きだった。屋敷で会う人々は僕を見下し、敵意を向ける。僕には才能がなかった。僕の家系は、生まれた時に特殊な能力を持つ異能の家系。母さんや父さん、妹であるシャルロット達は皆、それに目覚めている。僕達スレイヴ家は、代々ハインドゴーン領主、アルマー家に仕える。その地位と富を約束される代わりに、一切の素性を消し去った存在しない存在。屋敷内ではVIPとして扱われるが、決して市民にそれを悟られてはいけない。戦場では顔を見た者はおらず、旋風のように戦場をかけて戦況を一変させる。そうして異分子を消し去り続け、アルマー家の地位を確立し続けている。僕達スレイヴ家はアルマー家と相互の利益の元お互いを助けている。

 だが、スレイヴ家は遥か昔にアルマー家に拾われたことでスラム街からその命を救われた一族の末裔。絶大な力を持ったスレイヴ家が力を持たないアルマー家に仕える理由。この恩を完全に返すことはできず、アルマー家はその恩の上で胡坐をかいてスレイヴ家を使う。そう、これは不公平な契約。そして、これは終わりのない契約。そんな中で、僕は無能力者としてこの世に生まれた。現当主であるハルバード・アルマーは、僕が5歳になった時、僕の抹消を命じた。だけど、その名が執行されることはなかった。僕の妹、シャルロットは3歳にして能力に目覚めたからだ。ハルバード卿はシャルロットに心酔し、僕の事を忘れた。

 その日から僕は存在しない存在となった。任務で屋敷にほとんど居ない両親と、訓練の合間を縫って隠れて会いに来るシャルロット以外、僕を対等に見る者はいなかった。僕達スレイヴ家は一人前になるまで屋敷からは出られない。だけど、僕は居なくても気づかれない。だから、僕は夜になるとこうやって星降りの丘に来る。本当に星でも落ちてきて、僕諸共消し去ってほしいとさえ考えながら…。

 

 そんなある日だった。美しい流れ星を見たのは…。

 「綺麗だな…。流れ星には、願い事…だっけ。そうだな…僕に…家族を守る力をください…なんてね…」と呟いた時だった。あの流れ星の異変に気が付いたのは。「な、なんか…近くないか…?」そう呟いた僕の視線の先には、明らかにこちらに一直線に向かってくる流れ星があった。

 僕は驚いて尻餅をつきながら、必死に後ずさりする。流れ星を見ながら。そして、僕が元々座っていた場所に、流れ星は落ちた。だけど、あるはずの衝撃も、風圧も、地割れも何も起きなかった。土煙が晴れ、星明りに照らされてそこにいたのは、星明りのように微かに発光した男性だった。僕は驚きながら、恐る恐る彼に近づく。彼は跪いたまま、その顔を目の前の僕に向ける。「俺が見えるのか。坊主。」彼はそう言い、立ち上がる。僕は声も出さずに頷き、目を丸くする。彼はその様子を笑い、「そうビビるなよ。俺は、アレス。人生を終えて、星になった男さ」と自慢げに話す。

 僕は首を傾げ、「星になった?どういう事?」と彼に尋ねる。


 「言葉のままさ。坊主、こんなとこで何してんだ?」


 僕は戸惑いながら、「星を…見てるんだ。ほら、ここは綺麗でしょ」と彼の背後を指さす。


 彼は振り向き、「ほう…なかなか…」と明らかに嬉しそうな声を洩らす。僕の方へ振り返り、「いい場所知ってんだな。坊主」と笑いかける。「でも、こんなとこで一人で星見なんて寂しいじゃねえか。なあ、ちょっと話そうや」と言って彼は僕が座っていた場所に腰掛け、地面を優しくたたく。

 

 僕はそれに応じ、彼の隣に座った。これが、彼との不思議な出会い。



 7日後。あれから、彼と僕は毎日この場所で語り合った。彼の話は、突拍子もないおとぎ話のようだった。彼は、スピトールという惑星の住人の一人で、その惑星で星の民っていう星に住む人間と戦った英雄なんだという。彼の惑星は、人類が住むにはあまりにも居心地が良くて、星の民にもそれは同じだった。星の民は、こんな素晴らしい地を独り占めする人類をよく思わなかった。彼らは人類を特殊な力で瞬く間に制圧し、首都を一夜にして無人の場所とした。アレスは革命軍を作り上げ、そんな恐るべき敵対者と戦ったのだという。

 

 「でも、そんな強い人達ならアレス達がいくら頑張っても相手にならないんじゃないの?」僕は疑問を口のままに尋ねた。


 アレスは笑い、「そうだな。手も足も出なかったな。その辺を巡回する星の民一人に対して、俺達が十人くらいいてやっと勝てるくらいだった。楽園で堕落した人類に、戦いの術を知るものは少なかったんだ。付け焼き刃の戦術じゃあ、その辺の星の民にもまともに敵わなかった。けどな、敵わないから故郷を渡そう。なんてならねえだろ?坊主だって、急に知らない奴が出てきて隣人を殺して、家から出ていけって無理やり出されたら抵抗するだろ?だって俺達の家なんだからさ」と語り掛ける。


 僕は頷いた。


 アレスは勝てない戦を何年も続け、後退を続けた。そんなある日、ポラリスという少女に出会ったのだという。彼女はアレス達革命軍に加わり、星の民が持つ特殊な力を皆に与えた。そして、共に星の民に抵抗した。革命軍は初めて前進を経験し、ポラリスを英雄と称えた。彼女はその後も革命軍と共に進み、星の民の制圧を手伝った。そして、革命軍が首都の奪還作戦に向かった時、星の民は禁忌を犯した。


 「負けが悔しかったんだろうな。奴らはとんでもない兵器を作り出した。クオールアンカー。星の民が考案した、スピトールの衛星を落とす兵器。見えるだろ?坊主たちがイオって呼ぶあの衛星。アーカムの住人にとっての夜空を魅せる象徴。あれが落ちたら、一瞬で地表は砕け、気候も空気も何もかもが変わる。そう、つまりな。奴らはこの星を人質にしたんだ」


 アレスとポラリス達は一瞬にして打つ手を失った。けれど、勝利を確信していた革命軍は、そんなものははったりだと言い聞かせ、作戦を決行した。しかし、急に状況は一変した。革命軍の前に、主犯を名乗る男が姿を現し、彼はこう言った。「残念だ。君達はこの惑星を自分達の傲慢さで破壊してしまった。君達は与えられた選択肢の中で、最悪の物を選んでしまった。統率者が無能でなければこうはならなかったろうにな」と。そして、彼は手を掲げた。


 「結果は分かるだろ?はったりなんかじゃなかった。彼は衛星に向かって一筋の光を放った。衛星は砕け、その破片が地表にゆっくりと降り注ぎ始めた。そして、衛星に幾つかの光が漏れ、放たれた光が揺らいだ。衛星から目に見えるほどの衝撃波が轟いて、ゆっくりとその姿を大きくし始めた。俺達はその時、自分達の過ちを理解したんだ」


 その後、スピトールはこの世で一番美しい、絶望の景色で彩られ、消滅した。原生生命体は消滅し、スピトールは星界から姿を消した。


 「これが、愚かな人類の昔話さ。面白かったか?」とアレスは苦笑いをしながら僕に問いかける。


 「これを面白いって答えるのは無理があるよ…。英雄っていうからもっと分かりやすい英雄譚だと思ったのにっ。でも、一つだけ気になる事があるんだ。じゃあ、アレスはどうしてここに居るの?」


 「さあな。こんな言葉、知ってるか?人は、死んだら星になって後の世を照らすって言葉。いい言葉だと思わねえか?大切な奴、大切な家族。皆、見守ってくれてるかもって思ったら希望が湧く。好きな言葉なんだよな。これ」と笑った。


 「いい言葉だね。たとえ隣に居なくなってしまっても、見守ってくれてるかもって思ったら頑張らないとって思っちゃう。でも、ずっと見られてたら恥ずかしいよ」


 「そうだな」と大きく笑い、「死人もそこまで暇じゃねえだろ。そこら辺にある呼び込みの紙みたいに、生きている人の一瞬をたまに見るくらい。そんくらいがいいよな。どっちも気負わなくていいしな」と続けた。


 「そうだね」と僕もつられて笑ってしまった。


 話を終え、アレスは立ち上がって空を見上げる。「なあ、アスター。お前は、どんな人間になりたい?」


 僕はその言葉の意味をあまり考えず、「そうだな…。僕は、皆を…。屋敷の人も町の人もこの島の全ての人が笑っていられるように、皆を守れる人になりたい。全ての人を救う英雄になりたいな」と答えた。


 アレスはフッと笑い、「そうか、そうだな。お前になら出来るさ、アスター。」と呟いた。


 その話を聞いた次の日、アレスは星降りの丘に来なかった。代わりに、彼が座っていた場所には一振りの石の大剣が突き立てられていた。僕がそれに触れると大剣は緋色の光を放ち、僕の腕を伝って全身を巡った。その光に驚いた僕がその手を離した時にはそこに剣はなかった。その時、僕は力を手に入れていた。


 視界が暗くなる。聞きなれた声が聞こえはじめる。


 「様…!兄様!お兄様っ!目を開けてくださいっ!」と。


  ゆっくりと目を開く。直後、声の主である少女が僕に倒れ込む。彼女を抱き寄せ、先を見る。見慣れた街並みは崩れ、燃え、赤く染まっていた。そして、視界の先には赤黒いオーラを身に纏った女性の影と建物の上から見下す人物の姿が見えた。

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