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2話 最後の戦いへ

 ゲイル率いる星の民は壊滅。ゲイルは死に、甲冑騎士もアリシアとアインツマイヤー騎士団の活躍により消滅。西部の戦線は守られ、平穏が取り戻され始めていた。

 だが、傷も癒えないこのタイミングで一通の文書が届く。


 シュバルツ・レオンハルト殿へ


 この文書が届いている頃には、私はもうこの世を去っています。アーカムに平和をもたらさんと奮闘して来たつもりだったが、ここまでのようです。

 私の予測になりますが、現状を報告します。アーカム中央の街アーツバルトは星の民によって制圧されました。アーツバルトの精鋭は消え、女子供達はホワイトアーツという小さな村に身を潜めています。

 近い未来、アーカム中央に聳え立つ指揮の塔と呼ばれる塔に眠る古代の遺物を蘇らせようと画策されるでしょう。この島は遥か昔、トルンの中でも逸脱した高度なレベルの文明が築かれていました。ですが、天災により古代の人々は滅び、文明のほとんどは海に沈みました。その最後の遺物がアーカムに聳え立つ三つの塔です。

 古代の人々は、高度に発展した文明の漏洩と民の反乱を恐れ、3つの抑止力を設けました。一つ、圧倒的な力と知性を持った一つの個による統制。二つ、圧倒的な数と力で蹂躙し、文明を無かったものとさせる指揮者。三つ、無差別な破壊をする個を放ち、恐怖と絶望で掌握する壊滅。

 この三つは高度な文明を有した民達が反乱を起こさないよう作られた抑止力でした。ですが、今はその役目を失い、ただそこにある存在となっています。そんな存在が解き放たれてしまえば、アーカムの民は一人残らずその存在を抹消される事でしょう。

 この文書はシュバルツ殿と東の中心地に栄えたハインドゴーンの信頼できる少年に託しております。勝手なことを言って申し訳ありませんが、この島のためにお力を貸してくださると幸いです。


 アーツ・イージス


 文書を読み終え、シュバルツは涙を流す。「アーツ卿…残念です…」と静かに俯く。

 寝室で一人悲しみに暮れるシュバルツの部屋にノックが聞こえる。

 シュバルツは入室を許可し、入って来た少女に驚く。「君は…」


 少女は微笑み、「調子はいかが?シュバルツ様」と丁寧に挨拶しながら声をかける。


 シュバルツは会釈で返し、「どうして君がここに?」と尋ねる。


 少女は優しい表情を崩さず、「アーツ様の文書を読まれたのでしょう?アーツバルトは陥落し、指揮の塔から古代の遺物が解き放たれようとしています。あれは、古き時代の星の民の遺物。つまり、この文明のものではありません。そして、あの遺物を作り上げた一人が、アーツ様を倒した男。この事件の首謀者とも言えますね。その名はディオス・アルマータ。彼は今、指揮の塔に眠る「マザーロード」と名付けられた終末兵器を起動しようとしています。急な話で申し訳ありませんが、あれを阻止できるのは貴方だけ。アーツバルトでの戦いは、先の戦闘よりも苛烈なものとなることでしょう。ですが、貴方なら成し遂げられるはずです。ご協力、いただけますか?」と告げる。


 シュバルツは理解が追いつかないと言った表情で彼女を見つめ、「ライエ嬢。それは厳しい相談だ。私達アインツマイヤー騎士団は壊滅した。キースとニックは残された人々の統率を私の代わりにやってくれている。民の受けた傷はあまりにも大きい。今彼らを連れていくことは不可能だ。私だけで行ったとて状況が変わるとは思えないが…」と呟く。


 ライエはその言葉を気にする素振りも見せずにシュバルツを見つめる。「大丈夫よ、シュバルツ様。今まで貴方が歩んできた道、結んできた縁を思い出して。貴方には本当に何も残されていないのかしら?そんな事はないはずよ。守るべき人々も、帰るべき場所も、貴方にはあるはずよ。それに、私も付いてるわ」


 シュバルツは視線を逸らす。「簡単に言ってくれるな。私に力を貸してくれた人々を戦場に向かわせるなど、ありえない。私や父上が鍛え上げた騎士団のメンバーですら手も足も出ずに壊滅したのだぞ!私に与えられたような力がなければ皆無駄に死んでしまう。ライエ嬢、貴方は何故私にだけ力を渡したのです!」


 ライエは笑みを崩し、俯くシュバルツの視界に入り込みながら真剣な表情で口を開く。「貴方が力を持つ事で、この先の人類を良い未来に導ける確率が一番高くなるからよ。貴方は自覚していないのでしょうが、貴方は稀有な存在なのです。シュバルツ様、私の託した力は適性が必要なの。この意味が理解できますか?」


 シュバルツは驚いたようにライエを見つめ、短い沈黙の後に首を横に振る。


 ライエはその様子を見届け、「結論だけ言うわ。貴方には古代人の血が流れていないといるの。つまり、貴方には微かに星の民の力が流れているのよ」と淡々と告げる。


 シュバルツは絶句し、目を見開く。「なんだって…?私が、君らの同族だと?つまり、私は純粋な人ではないと?」


 「そうよ。貴方の血筋、レオンハルト家は古代星の民の末裔。それも、強大な力を有した星の民のね。だから、貴方は私の力を受け入れられた。正しくは、レオンハルトの有した能力の断片が目覚めたのよ。普通の人なら、こんな強大な力を受け入れた時点で砕け散ってしまうわ。これで分かったかしら?貴方は普通の人とは違う。それに、人類の世界で一定の力と地位を持っている。こんなことを言うのは良くないけれど、人類を勝利に導きたいのなら全てを使いなさい。貴方の友人、家族、師匠、その全てを。貴方は全てを失うかもしれないけれど、その先には人類の繁栄が待っているわ。さあ、全てを投げ打ち、人類を救うの?それとも、今を生きる大切な人達と共に来る破滅を受け入れ、人類の時代を終わらせるの?その選択肢を持っているのは、貴方だけよ。シュバルツ・レオンハルト?」と淡々と述べる。


 シュバルツは大きく息を吐き、俯く。「私に…そんなことを選べと…?」


 「そうよ。私が言うべきことは伝えたわ。明後日、同じ時間にここに尋ねるわ。貴方の傷は心配ないわ。明日には完治しているはずよ。貴方は普通ではないのですからね」と話しながら、部屋を出ていく。


 シュバルツは誰も居ない部屋でただ一人、静かに頭を抱える。

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