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1話 英雄の背を追う者

破壊の塔 屋上


 ポラリスは静かに塔に降りる。そして、そこで全てを俯瞰する少女に問いかける。「なんで人類に力を託したの?ライエ」


 少女は静かに振り返り、ポラリスに笑いかける。「答えを見てきたはずなのに、わざわざ聞くのね。今回は何度目?ポラリス」そう呟いた後に、「私にとっては初めてだからね。答えてあげる。簡単な事よ。星の民は人類に介入してしまった。この惑星に本来存在しない、特別な力を有した私達が。ただ興味を示して降りてきただけの私達がよ?そんなことはあってはいけない。でも、人類側が勝利するならそれは英雄譚となる。アーカムの英雄として、遥か先の未来まで希望を照らす光となる。それは人類にとって重要な存在なの。でも、いくら優秀な人であっても星の民を相手に勝利することは簡単ではない。だから、与えたの。この時代の一番優秀な3人に。彼らは人類の為に、希望を繋ぎ未来を掴む。賽は投げられたのよ。後は見守るだけ」


 ポラリスは明らかに不満な表情を見せ、「そんな適当な恵みを与えては人類は更に破滅を加速させてしまうわ!先導する勇士がいれば、彼らはそれに続いて共に戦ってしまう。彼らの歴史はそうやって幾度も行われてきたわ!」とライエに反発する。


 ライエは言葉を聞き取り、「ええ、そうね。でも、彼ら全てに力を与えることは出来ないわ。そんなことをすれば、この時代の技術を大きく上回る次元の戦闘が起きてしまう。貴方はそうして、失敗したのでしょう?だから、選別したの。今回の騒動を抑えるに足る人物にだけね。この騒動は人類の勝利によって終幕するわ。だけど、そこに至るまでの犠牲は天災にも等しいものとなる。でも、それは結果として人類を結束させる足掛かりとなり、平和に向けた一歩となるでしょうね?」と淡々と答える。


 ライエは静かに笑い、「さて、時間ね。また会いましょう?ポラリス」とだけ告げ、姿を消す。


 一人残されたポラリスは、「ライエ…貴方は本当に…。」とぽつりと呟きながら立ち尽くしていた。





 アインツマイヤー南東 宝石街オーブ 最前線


 鎧を来た男が馬に乗り、野営地に訪れる。馬を降り、すぐさまテントに入り「状況はどうなってる!」と尋ねる。そこに居た壮年の臣下たちが振り返り、「おおっ!シュバルツ殿!間に合いましたか!」と歓声を上げる。


 「現在、オーブ近郊に星の民の軍勢が出現しております。先導しているのはゲイルという名の大斧使いで、兵力は百程度。斥候で派遣した部隊で帰還した者はトールス殿とジン殿のみ。今動ける兵士はこちらも百程度です。」と淡々と告げる。


 シュバルツは苦い表情を見せながら腕を組み、「そうか。よし、全勢力を持って迎え撃つ。ただし、兵士たちには弓を持たせよ。前線に出るのは私、トールス、ジン、イルノート、ヒバナの5人だ。いいか。」と告げる。


 臣下達はその発言に不安を見せ、「シュバルツ様。そのような危険な作戦はおやめください。貴方を失えば我らアインツマイヤーの先は暗うございます。何卒お考え直しください」と助言する。


 シュバルツは即座に首を横に振り、「ダメだ。それでは兵士達は無駄死にしてしまう。彼らを守るためにも、敵に打ち勝つためにも私が先陣を切る。大丈夫、死にはせん。我らアインツマイヤー騎士団に敵なし。そんな我らが及び腰では示しがつかんのでな」と笑いかける。


 臣下たちは渋々作戦を承諾し、準備を始める。


 シュバルツは静かにテントを出て、信頼できる精鋭達に決断を促す。



 宝石街オーブ 最前線


 シュバルツとその背後に五人の剣士が並び立ち、後方には百名の弓兵が並ぶ。前方には大斧を担いだ大男と左右に風貌の違う銀の鎧を着込んだ戦士が二人。その背後には百の星の民が並ぶ。


 「皆、よく集まってくれた。この戦闘は今までにない過酷なものとなるだろう。だが、相手が何であれ、我らはこの地で勝利を納める。民達の希望を絶望に堕とすような結果にはならん。我らがこの混沌とした戦場を祓い、人類に再び希望の光を抱かせて見せよう!」とシュバルツは高らかに宣言する。


 集まった精鋭達は静かに頷き、背後の弓兵達は歓声を上げる。


 「それにしても、シュバルツさんも人が悪い。我々がこの戦闘に参加するかなどという、答えの決まった質問をわざわざ1人ずつにするんですから。私達は貴方と共に戦場を駆け、貴方と共に勝利の栄光を掴むのです。いつも通り、背中はお任せください」と1人の精鋭は兜の中で笑う。


 「そうよ。シュバルツ様ったら、私達と何度も戦場に出ているっていうのにこんな時だけ置いていこうだなんて。ホント、人が悪いわ」ともう1人の精鋭がクスクス笑う。


 「さあ、敵さんも来ますね。そんじゃ、いっちょ反撃の時間と行きましょうか」と一際大柄の精鋭が武器を構える。


 シュバルツも前方の光景を見つめ、「ああ、この戦。必ず勝つぞ!続け!」と剣を抜き、走り出す。


 前方には、ゲイルが従えた百の星の民が土煙を上げていた。




 アインツマイヤー レオンハルト邸


 ぼんやりと浮かび上がる。顔も知らない父の声。「いいか、シュバルツ。君はこれから、沢山のことを経験して自分の力とするだろう。そして、次に会う時には私の後を継ぐのだろうね。私は、父として役目を果たせただろうか。多くの事を教えてやりたかったんだがね。そうもいかないようだ。こんな情けない父親の頼みで申し訳ないが、シュバルツ。アーカムを周りなさい。君が歩く道、経験する事。その全ては後の君を後押しする。確固たる勇気、自信。これは無から出てくるものではない。これは、歩いてきた道のりがあってこそ生まれるものなのだ。だからシュバルツ、旅に出なさい。そして、戻ってきた時にその断片を聞かせておくれ」と。


 シュバルツは静かに跪く。「父上、ただいま戻りました。私はこの旅で、何物にも代えがたい貴重な経験を…得ることが出来ました。父上。私の旅路を、聞き届けてください…」



 アインツマイヤーから南西。豊穣都市ロベルト。ここで、私はロムラと出会う。「ほう、私から剣を学びたいと。いいでしょう。引退したこの身で宜しければ」と彼は稽古に付き合ってくれた。彼は片手での剣の操作に慣れた英傑だった。彼から剣の扱いを学び、私の剣術の基礎を作ってくれた。


 「ふむ、ここまでにしましょう。短い間でしたが、貴方は筋が良い。もっと時間をかければ、きっと私なぞ簡単に蹴散らしてしまうでしょうな」と壮年ながらシュバルツとの打ち合いに息を切らす事のないロムラは、そう言って笑う。


 「ロムラ、世辞はよしてくれ。だが、勉強になった。本当にありがとう。」と頭を下げ、「ロムラ、一つだけお願いがある。もし、この先この地に危機が陥った時があったなら、力を貸してはくれないか」と剣を納める彼に告げる。


 ロムラは困った表情を見せ、「シュバルツ様。私はもう老骨ゆえ、お力にはなれますまい。ですが、そうですね。貴方との日々は私にとってかけがえのない物でした。貴方がそうおっしゃるなら、このロムラがいざという時に駆けつけましょう」と最後には笑って返してくれた。




 ロムラと別れた後、アインツマイヤーから北西に位置する鉱山都市ハベルに赴いた。ここでは、大柄な剣使いのキースと柔らかな口調のニックと出会った。ハベルは、日々人同士の小競り合いが絶えない荒れた場所だった。ここで彼らは治安を維持する為の自警団として活動していた。


 「おう、シュバルツ!今日は玉石が出る鉱山を荒らしまわってるって野郎をとっちめるぞ!」とキースが笑顔で迎えてくれる。


 「はあ、相変わらずうるさい人ですね。普通に挨拶できないんですか」と不貞腐れてるのがニック。「シュバルツさん。さっきキースが言った通りですが、今日も危険な活動をします。本当に付いてくるのですか?」とニックはよく不安そうに尋ねてくれていた。


 彼らと行動を共にし、対人戦闘においての戦術、不利な状況の打開策を学べた。それと、彼らのリーダーとしてのあり方。彼らのような強い意志を持つものがいる事で、声を上げられなかった人々が団結してさらなる力を生む。彼らの存在だけでは、ハベルという大きな街の形勢を変えるほど大きな風にはなり得えないだろう。だが、彼らの活動はいずれ多くの人を巻き込み、火種となる。そして、ハベルの現状を変えていくのだろう。


 「シュバルツ、もう行くんだな。お前は俺達の活動から得るものがあったと言ってくれた。俺達はお前と向き合って何かを教えられたとは思ってない。だから、そう言ってくれた事を感謝している。この活動を手伝ってくれてありがとうな、友よ。今回のお前がそうしてくれたように、お前に災が降りかかった時、俺達がお前の元に駆けつけよう。また会おうな」とキースは涙を滝のように流しながら、送り出す。


 「キースさん。貴方は本当に、どうしていつも私のセリフまで言ってしまうのですか。シュバルツさん。キースさんが言ったのを繰り返すようで申し訳ないですが、私も感謝しています。貴方が共に駆けてくれたからこそ、私達は欠けることなく活動を続けられた。この先、どうしようもない窮地に陥った時、再び私も貴方の隣に立ちましょう」と微笑みながら告げる。




 私は礼を告げ、アインツマイヤーの真北に位置する小さな村、ディストリアに向かう。ここには父の戦友、シンと呼ばれる鍛治師がいる。


 「お前がアストリッドの息子か。確かに似ているな。だが、奴の息子だからといって何かをしてやれるわけではない。俺はただの鍛治師だからな」と言って彼は鉄を撃ち続ける。そんな彼に何度も会い、彼が折れたのは何十日も後のことだった。


 「本当にお前はあいつによく似ている。奴もそうやって俺が折れるまで付き纏ってきたものだ。いいだろう。今回の望みはなんだ」とシンは初めて手を止めてシュバルツの方へ振り向く。


 シュバルツは言葉を頭の中で選び、「父は貴方の事をとても尊敬しておられました。貴方はどのような武器でも巧みに操り、その全てが卓越していると。そして、剣術において右に出るものは居ないと断言しておりました。父は若い頃、貴方に剣術を学んだと話していました。私にも、剣術を見せていだけないでしょうか」と彼に告げる。


 シンは静かに頷き、「奴は俺の事をそう言っているのか。友としてこれ以上ない光栄だが、最初にも言ったが私は鍛治師だ。剣術などという大層なものはなくてな。アストリッドにも正確には教えたのではない。奴は俺と戦い、吸収した。それだけだ。それに、お前はもう師などいらんはずだ。立ち振る舞いを見ればわかる。良い師匠に恵まれたのだろう?なら、俺が教える事はない」と言って静かに鉄の方を向く。


 その姿を見てシュバルツが声をかけようとすると、彼はもう一度振り返り「まあ、そうやって門前払いをしても来るんだろ?じゃあ、一度だけ。打ち合ってみようか」と大剣を握って立ち上がる。


 その後、彼は多くの武器でシュバルツを相手取った。シュバルツがシンに勝る事は一度もなく、彼は静かに武器を納める。「こんなものだな。やはり戦いとは良いものだな。昔はアストリッドと日が暮れるまで打ち合ったものだ。まあ、俺なんぞと戦って得られるものがあるのかは知らんが、これで満足してくれ」とシンは困ったようにシュバルツに伝える。


 シュバルツは最大限の感謝を述べ、自分の弱さと強敵との戦い方を噛み締めた。シュバルツはその後、シンにお礼の品として父から賜った短剣を渡そうとする。


 シンは苦笑し、「そんな大切なものを俺なんかに渡してくれるな。それに、その剣は元々俺が初めて打ったものなんだ。切れ味も見た目も平凡以下。とても見せられるものではなかったがアストリッドが欲しがってな。まだ持っていたとは驚きだがな」と頭を掻いた。その姿は、表情をほとんど変えないシンの最大限の喜びを表していた。



 シュバルツはシンと別れた後、赤き光の地シリウスに赴く。


 シュバルツがシリウスに着いた時、この地は祭り騒ぎとなっていた。年に一度、満月の光に照らされて美しく緋色に輝くシリウスと呼ばれる大岩に祈りを捧げ、平和を願う祭りが行われている。シュバルツはたまたまその日にシリウスに着いた。祭り騒ぎを楽しんでいると、剣を携えて裏道に行く2人を見つける。シュバルツは何事かと2人の後を付いていく。


 人気のない裏道に到達した時、シュバルツは2人を見失う。そして、背後から殺気を感じて動きを止める。背後から冷たい物を突きつけられ、「何者?」と女性の声が響く。シュバルツは手をあげ、「こんな祭りの日に険しい表情で剣を持った人を見つけた物で。何事かとついて来てみただけです」と正直に告げる。


 女は殺気を消さず、「そうじゃない。お前は誰だと聞いているの」と続けて質問する。


 シュバルツは手を上げたまま「シュバルツ。シュバルツ・レオンハルトです。各地を回っている旅人ですよ」と静かに答える。


 女は一瞬驚いたように声を漏らし、剣を納める。「こっちを見な」とシュバルツに指示し、彼を振り向かせる。「ふーん。これがアストリッドの息子ねえ。確かに似てるわね」と値踏みするように観察する。


 「父をご存知なのですか?」


 女はその言葉に笑みを浮かべ、「ええ、もちろん。アストリッドは強敵だったわ」と答える。「貴方の父君はね、アインツマイヤーの領地拡大のために私達の町を攻めたことがあったの。ここから南西、アインツマイヤーとシリウスの間くらいの場所にある、トートって呼ばれてる町でね。まあ、本気じゃなかったのか、私らが想定より強かったからかは知らないけど、結局何度か攻めてきた程度で終わったのだけどね。だから、あんたは私の故郷を汚そうとした奴の息子ってわけ。アストリッドに嫌がらせするなら、ここであんたを殺すのもいいかもと思ってるのよ?」と続ける。


 シュバルツは表情を変えず、「でも、そうしようと思っていないようですね」と告げる。


 女は大きく笑い、「あんた、肝が座ってるねえ。そうね、そのとおりよ。結局のところ、アストリッドは私らの故郷を奪わなかったし、奴は私の好敵手だった。私はアストリッドが根っこから嫌いというわけではないの。でも、このシリウスで問題を起こそうとしてるなら、話は変わるけどね」と真剣な表情で警告する。


 「そんな事はしませんよ。ですが、そういった輩がいるのであれば、私で良ければ助太刀させていただきたい。私は、アインツマイヤーのために多くの事を経験したいのです」と女を見つめる。


 女は笑みをこぼし、「いいねえその顔。分かったわ」と言って背後に手を振る。すると、いかにもゴロツキといった見た目の男達が数人顔を出す。


 「おい坊主!姐さんに目えかけられるなんて大した奴だな!宜しく頼むぜ!」


 「おいてめえ。下手な事したら生きて帰れると思うなよ?ああん?」


 「あ、こいつ口だけだから大丈夫だぜ!ちなみにこいつの好物は甘いもんだ!興味があるならシリウス中の美味い店教えてくれるぞ!」


 「おいこら!何いってくれてんだクロト!後で覚えとけよ!」


 と各々が歓迎?してくれる。女はその様子を笑いながら見つめ、「私はアリシアってんだ。力になってくれんだろ?宜しくな」と手を差し出してくれた。シュバルツはその手を取り、固く握手を交わす。


 その後、アリシアと共にシリウス内で活動を続け、鉱物を違法に採掘したり、果てには人身売買などをする組織なども正面から打ち砕いていった。アリシアの名前は表沙汰になる事はなく、彼女は影からこの町を守っているようだった。

 彼女のリーダーシップとカリスマ性はシュバルツに大きな影響を与えた事だろう。


 アリシアの活動がひと段落した頃、シュバルツはシリウスを離れる事にした。


 そんな夜、「もう行くのかい?」とアリシアが話しかけてくれる。


 「ええ。いつまでもここに居ては、父が旅立ってしまうかもしれませんので。私はオーブに向かいます。アリシア、お世話になりました」と頭を下げる。


 アリシアはバツが悪そうに「やめなって。今生の別れでもないんだ。それに、私はそういう辛気臭いのは苦手でね。まあ、なんだ。いつも通り、サッパリ見送ってやりたいんだ」と頭を掻く。

 「いつでも戻って来な。あんたがそうしたように、今度は私らがアンタの力になってやるからさ」と優しく笑う。


 シュバルツも明るい表情を見せ、「ええ、ありがとうございます。アリシア、また会いましょう」とシリウスを静かに去る。



 アリシアはその背中を見つめ、「寂しくなるね」と呟いて宿に戻った。


 次の日、ゴロツキ達が宿屋の床を一杯に濡らしたのは言うまでもなかった。

 「あんたら!そんな見た目でメソメソしてんじゃないよ!」とアリシアの声が響いたという。



 宝石都市 オーブ


 シュバルツは最後の街にオーブを選んだ。この街は、魔術という変わった技術を研究している出来たばかりの都市だ。魔術というのは人類が理解するにはまだまだ早いようで、そういうのがあれば良いという人類の希望的な思いから研究が始まった。実際、この研究により火を簡単に扱えるようになり、綺麗な水を使えるようになったと言われている。そんな都市でシュバルツはフリッドと出会う。彼もまた、魔術を研究する1人であった。だが、その研究方法は変わっていて、剣術に魔術的な要素を取り入れられないかといった物であった。彼はシュバルツの剣術を見込み、手助けを求めた。シュバルツはそれに応じ、日々細工のされた剣を振るっていた。


 「シュバルツ!今回はこれを振ってみてくれ!」とフリッドが目を輝かせて一振りの剣を渡す。


 シュバルツはいつものように剣を受け取り、勢いよく抜刀する。すると、剣の刃の部分に炎が一瞬走った。剣をよく見ると、鞘の部分と剣の柄の部分に炎石が散りばめられていた。


 「おお!成功だ!流石はシュバルツ!これは、この地で広く伝わっている炎石反応と同じでね。まあ、ランタンとかに入ってる石の事だね。あれは、炎石と呼ばれる鉱石に一定以上の温度を与える事で発火する物。それが何時間も続くから、灯りとしての役割を果たすんだよ。まあ、炎石は鉱石というより宝石に近いから、こうやって激しく消費する方法はコストがかかってしまうし、火の力として戦いに大きな影響は与えられない。まあ、見た目だけって感じだね」と頭を掻きながら笑う。


 話を聞いていると剣の火が落ち着いてしまい、炎石はその役割を終えていた。


 「炎の熱を相手に伝えるってなるとかなり難しいんだ。例えば料理だって、火に直接当てた瞬間その素材が黒焦げになるわけじゃないでしょ。その上、剣に付与して扱うなら振られる時の空気が干渉して火は弱くなるし、たとえ火が付いていても一瞬しか相手に触れる事はない。つまり、結局は剣の能力だけって事。火の剣なんて響きはカッコいいけど、剣の性能を劣化させる要因にもなるし、難しいよね」とため息を吐く。


 シュバルツはそんなフリッドの様子を面白そうに見守っていた。



 そんなある日。フリッドはシリウスの南にある丘に行こうと言い出した。シュバルツは断らずに同行し、丘の頂上まで続いた。


 「見てよシュバルツ!ここが宝石草と呼ばれたスピネルの群生地!ほとんどの人が知らない美しい場所さ!」と両手を広げて丘を堪能するフリッド。


 シュバルツは美しいスピネルの花畑とその先に広がる緑の大地に見惚れてしまう。


 フリッドはスピネルを眺め、「このスピネルはね、美しいだけじゃないんだ。奇跡の花とも呼ばれてる。この花の香りを嗅ぐ事であらゆる痛みを抑え、蜜を摂取すると力が漲ると言われてる。実際、高い鎮痛効果で知られていて、日々痛みに苦しむ人々に安らぎを与えるために用いられていたんだ」

 「だけど、その貴重さや効能故にスピネルは乱獲されていて、その価値を引き上げている。今でも医療現場では用いられる事があるけど、価格が高すぎてもうほとんど使う事ができないんだ。今の技術ではスピネル以上の効果のある鎮痛剤は存在しない。だから、無理をしてでも安らぎを得ようと高値で取引されるんだ。スピネルは何一つ悪くないんだけど、「争いを呼ぶ花」なんて別名でも呼ばれてる。これを持っていると知られたら最後、あらゆる方法で奪いに来る人がいるからっていう意味でね。こんなにも美しく、人に多くの物を与えてくれる花がだよ?」

 「だから僕は、魔術を志したんだ。人類のせいで絶滅寸前となり、手にするだけで争いの種となるだなんてそんなのあり得ない。だから僕は、魔術でこの花以上の鎮痛効果や回復効果を与えたいんだ。


 「そんな訳で魔術を研究してるんだけど、僕の研究の成果を君に語ったところで興味がないだろ?だからさ、僕なりにお礼を考えたんだ」と立ち上がり、珍しく携えていた二つの剣を取り出す。

 「僕はね、昔はそれなりに名の通っていた戦士の1人でね。君さえ良ければ、この剣技を受け継いでもらえないかな。見てのとおり、僕はもう戦場に立つような歳じゃないからね」と言って二つの剣を抜く。その刃には炎と雷が宿っていた。

 「ふふふ。これが君との研究の成果ってやつだ!これも見せたかったんだよね!」と満足そうに笑う。


 シュバルツはスピネルのない背後の広場まで後退し、剣を抜く。「お願いします」と両手で構え、フリッドに向かって地面を蹴る。


 日が暮れる頃、金属音が大きく響く。剣が地面に突き刺さり、シュバルツは跪いていた。


 フリッドは剣を地面に突き立て、「ここまでだね。大丈夫かい?」と息一つ上げずにシュバルツに手を差し出す。


 「ええ。本当にお強いですね。手も足も出ないとは…」と半ば落ち込み気味にシュバルツは手を取って立ち上がる。


 フリッドは優しく笑い、「落ち込む事はないさ。僕はこれでも最強だったんだから。二刀流。本来人間の筋力では扱うのが非常に困難なスタイル。でも、言い返せば使いこなせれば使い手のいないスタイル故にそれだけで有利となる。加えて、そのスタイルを極めていれば敵なしってね。僕は変わってるから、こういった変な事しか出来ないんだ。教えたりするのも得意じゃないもんで、荒いやり方でごめんね」とシュバルツに話す。


 シュバルツは首を横に振り、「いえ、勉強になりました。二刀流。研鑽してみます」と頭を下げる。


 フリッドは大きく笑い、「いいね!君もずいぶん変わり者だ。でも、視野が広いのは良い事だ。自分のやり方を極めるのも一つだけど、多くの経験から良いところを吸収していくのはもっと良い。何故かって?人類はそうやって先人の知恵の良いところを取り込み続け、進化してきたんだからさ」と明るく伝えてくれた。


 その日を最後に、フリッドは改めてスピネルの代わりを作るために研究に打ち込むと言ってシュバルツの前から姿を消した。シュバルツは彼の信念を学び、静かに帰路に着いた。



 旅が終わり、レオンハルト邸に着いた。静かに目を閉じ、跪きながら旅の話をするシュバルツの姿を優しく見つめながら、アストリッドは静かに息を引き取った。


 その後、シュバルツはアインツマイヤーの兵士達を鍛え直し、アインツマイヤー騎士団を設立。彼らとシュバルツに敵はなく、圧倒的な力を見せた。これにより、アーカム西部は平穏を取り戻していたが、各街との関係性はすべてが良好というわけではなくシュバルツは頭を抱えていた。


 そんな時、アーツバルトと呼ばれた街がアーカム中央に建った。アーツバルトはアーカム統治を宣言し、党首であるアーツが国王として君臨した。彼はその宣言の後、反発する全ての勢力と和解交渉を行い、街同士の同盟関係を作り上げた。

 彼の功績は計り知れず、アーツバルトを中心に、西のアインツマイヤー、東のハインドゴーンを右腕としてたったの数年でアーカムを統治した。街同士が表向きの完全同盟を結び、平和が訪れたと思われていた。

 しかし、人々は一枚岩ではない。血の気の多い勢力が集団となり、アーツバルト、アインツマイヤー、ハインドゴーンを幾度となく攻め立てるなど、小競り合いや戦闘が完全に途絶えることはなかった。だが、彼らの武力に敵うものはなく、表向きは同盟として、裏を見れば武力による支配として平穏が訪れようとしていた。


 そんな時、星の民が介入したのであった…



 宝石街オーブ 最前線 


 目を開ける。目の前には血に塗れた4人の騎士が立ち、彼らは歓声を上げることなく静かに前を見ていた。


 「流石だ。君たちなら成し遂げられると思っていたぞ」とシュバルツが口にした時だった。


 遠くから、「おいおい、4等級程度を相手にそのザマってマジか?俺の相手になる奴はいるのかよ?アインツマイヤーの最強さん方?」と明らかに大柄な男と雰囲気の違う兵士が2人続いていた。


 2人の兵士は徐に手を前に出し、空中に丸い光を出す。その光が静かに収束し、静かに放たれる。シュバルツ達の背後に…。


 シュバルツは咄嗟に振り返り、「逃げろ!」と叫ぶ。しかし、その声が届くよりも早く、光はアインツマイヤーの弓兵達に届き、大きな丸い光となり、彼らを飲み込んでいった。


 光が収まり、抉られた崖があらわになる。そこには人がいた影などなく、ただ抉られただけの地面が残されていた。



 シュバルツは怒りを露わにし、3人の方へ向き直る。「俺があいつを相手するッ!ジンとイルノートは左の兵士を、トールスとヒバナは右の兵士を頼む!行くぞッ!」と形相を変えて地面を蹴る。


 中央に立っていた大男はニヤリと口角を上げ、肩に乗せた大斧を手に取る。


 シュバルツは勢いを乗せて大男に斬りかかる。大男は余裕の表情で大斧を片手で振い、簡単にその攻撃を止めてしまう。


 徐々に力を入れていき、形勢を逆転させながら「おいおい騎士団長さん。こんなへぼっちいんじゃ話に何ねえぞッ!」と力を入れてシュバルツの剣を地面に叩きつける。そして、荒々しく足を振り上げ、シュバルツを蹴り飛ばす。


 シュバルツはとてつもない威力に吹き飛び、意識を一瞬飛ばす。そしえ、薄まる意識をすぐさま掴み、懸命に立ち上がる。近くに転がる鉄の剣を手に取り、余裕の表情で立ち尽くすゲイルを睨む。


 ゲイルはその様子を見てニヤリと笑い、「そうでなくっちゃな。人類最強とやらはディオスに取られちまったからよ。ショックだったんだぜ?こんな奴らしかいねえのかってさ」と徐に右側に大斧を投げる。その先には、甲冑の兵士に苦戦するトールスとヒバナの姿があった。


 直後、ヒバナの甲冑を大斧が深く抉る。グッタリと項垂れ、兜が地面に転がる。突発的な出来事にトールスの動きが一瞬止まり、甲冑の兵士はすぐさま低い姿勢でヒバナの横を通過する。直後、ヒバナの甲冑から鮮血が飛び散り、ゆっくりと膝をついて倒れる。


 その様子を、何もできない距離でシュバルツは見てしまう。「そ、そんな…」とただその一言だけが零れ落ちる。


 近くに立っていたトールスはすぐさま盾を構え、剣を振るう。戦友の死に動揺を見せず、体に染み込んだ慣れた戦術で強敵に挑む。


 甲冑の兵士は静かに剣を握り直し、トールスの猛攻を軽やかな身のこなしで容易く回避していく。そして、彼の猛攻を学習したかのように隙をついた反撃を開始する。


 ゲイルはその様子をゲラゲラと笑い、「見ろよ、騎士団長様!あんたのお友達は大変そうだぜ?助けに行かないなんて薄情なやつだなあ!ああ、行けねえのか!ハハハ」とシュバルツを嘲笑う。


 シュバルツは唇を噛み締め、ゲイルを睨みつける。その時、脳裏に少女の言葉が蘇る。「シュバルツ様。この力を貴方に。これは、星の民の力です。この力は貴方を助け、皆を助ける力となるでしょう。きっと、貴方ならこの力を正しく使えるはずです。今すぐに受け入れてくださらなくても大丈夫です。その時が来たら、迷いなく引き抜いてください。万物の剣を。」と。シュバルツは少女がしていたように、手を心臓に当てる。そして、静かに目を閉じて集中する。すると、心臓に当てていた手に柄の感触が触れ、促されるようにそれを自らの体から引き抜く。目を開け、右手に握った獲物を認識する。柄の部分は水晶のような半透明の水色となっている。鍔の部分には金の装飾が施され、刀身は鏡のように光を反射する。鍔から刀身の中央にかけて、微かに水色の光が漏れ出ていた。


 シュバルツは水晶大剣と自らの鉄の剣を構える。脳裏にフリッドの剣捌きを思い出しながら。「力を抜いて。大丈夫、君ならできるさ。さあ、構えて」とフリッドの声が頭に響く。シュバルツはフリッドと同じ構えを取り、地面を蹴る。


 ゲイルはその光景を喜ぶかの如く目を見開き、「面白え!やってみろよ!」と地面を蹴る。


 シュバルツはゲイルの豪快な一撃を間一髪のところで避け、彼の懐を二刀で斬り抜ける。直後、ゲイルの一撃が地面に打ち出され、扇状に後方が砕け散る。


 シュバルツはすぐさま反転し、ゲイルの背後を斬りにかかる。しかし、ゲイルの反応速度は彼の速度を超えており、転身しながら荒々しく振り上げられた大斧に弾かれてしまう。そして、ゲイルは勢いのままに大斧を振りかぶり、シュバルツの脳天に勢いよく振り下ろす。


 シュバルツはゲイルに弾かれた瞬間に動きを予知し、大きく後ろに飛び退く。直後、ゲイルの大斧が振り下ろされ、シュバルツを衝撃と突風が襲う。


 地割れが起き、バランスを崩したシュバルツの元へ地面を蹴り、大斧を横薙ぎする。シュバルツは咄嗟に二刀で受け止めるが、力の差は圧倒的でそのまま矢の如く吹き飛ばされてしまう。


 意識がハッキリするよりも早く、シュバルツは石壁を離れる。直後、数秒前にシュバルツが項垂れていた場所に大斧が突き刺さる。前方には、楽しくてたまらないといった様子で、ゲイルがゆっくりと歩いてくる。


 「いいねえ騎士団長。久しぶりに面白えぞ、ハハハッ!でも、こんなんじゃ足りねえな。全力で来いよ。まだ出せんだろ?力をよ」と不気味に笑う。


 シュバルツはヨロヨロと起き上がり、ゲイルを睨む。



 その時、ふと懐かしい声が響く。

 「いいですか、シュバルツ様。圧倒的な強者と戦う時、一番してはいけないことがあります。それは、心を乱すことです。相手は強い。そう自覚した時、私達は勝つビジョンというものを失います。あの人には勝てないと思考が止まり、勝つための道筋を構築できなくなるのです。そして、二つの選択を選びます。敗北を受け入れるか自暴自棄に戦うか。これは、選択ではありません。なぜなら、どちらも負け方を選んでいるのですから」

 「シュバルツ様。どのような強敵が相手となったとしても、思考を止めずにあらゆる道筋を作り上げるのです。どの選択も、終着点は勝利。その事を頭に留め、相手の勢いに飲まれずに平静を保つのです。私はずっとそうしてきました」と初めに出会った師匠であるロムラの声が蘇る。


 シュバルツは深呼吸し、頭を冷やす。そして、怒りを鎮め、静かにゲイルを見据える。剣を取り、構える。


 いつの間にかゲイルは大斧を型に乗せ、シュバルツの方へ迫ってきていた。「いいねえ、本気ってやつか。かかってこいよ騎士団長!その力を見せてみなッ」と地面を蹴る。


 シュバルツも静かに地面を蹴り、左手に持った鉄の剣をゲイルに突き出す。ゲイルはすぐさま剣に大斧を振るう。しかし、手応えなく吹き飛ぶ鉄の剣に気を取られ、一瞬の隙を晒す。


 シュバルツはゲイルに弾かれる瞬間に鉄の剣を手放していたのだ。シュバルツはすぐさまガラ空きとなったゲイルの胴を水晶大剣で斬りつけ、振り上げた剣を両手で握り直し、斬り下ろす。


 鮮やかな剣捌きによってX字に斬りつけられたゲイルだったが、その傷を気にする素振りも見せずに荒々しく大斧を振り下ろす。


 シュバルツは斬り下ろした瞬間に転身しながら姿勢を低くし、勢いよく地面を蹴る。そして、ゲイルが大斧を振りかぶった時には、彼の背中にシュバルツは到達していた。


 ゲイルは大斧を地面に叩きつけ、シュバルツの方へ振り返る。「いいじゃねえか、人間ッ!小細工なんぞ使いよったのは残念だが、俺に傷をつけた奴は初めてだ。褒めてやるぜ」といって傷口を撫でる。

 「だがまあ、浅いな。こんなんじゃ致命傷なんかにはならねえ。せいぜいかすり傷ってとこだ。でも筋はいい。俺はお前に可能性を見るぞ。お前を絶望させればさせるほど、お前は強く輝く。そして、お前が絶望する要因はすぐそこにある。よく見ろよ?ハハハッ」とゲイルは右を見つめる。


 シュバルツもゆっくりとその光景を眺める。そこには、ゲイルの配下である甲冑騎士1人だけが立ち、その足元には3人のアインツマイヤー兵の甲冑が転がっていた。


 シュバルツはその光景に涙を流す。「ジン…トールス…イルノート……ヒバナ…。そんな…」と呆然と立ち尽くし、1人立つ甲冑騎士を見つめる。


 ゲイルは斧を地面に突き立てたままシュバルツを見下ろし、「お前らの精鋭ってやつはこんなもんか。まあ、仕方ねえな。あいつは2等級。俺よりも少々劣るが、仮にも2等級だからな。お前らは束になっても3等級程度の能力ってこったな。本当に人類ってやつは弱っちいな。残念だ」と憐れむように告げる。


 その時、甲冑騎士の足元に転がっていたアインツマイヤー兵が動く。「俺達はまだ、負けてねえッ!こんな顔も見せねえ雑兵なんかに負けて…たまるかってんだッ!」と盾を突き立て、ヨロヨロと立ち上がる。


 甲冑騎士は驚く素振りも見せず、静かに剣を握り、立ち上がるトールスに剣を振り下ろす。


 その直後、甲冑騎士は何かの衝撃を受けて吹き飛ぶ。シュバルツはすぐさまオーブ側の崖を見上げる。そこには、見知った戦友が立っていた。


 「お!しっかり当たったな!流石はニックだぜ!よう、シュバルツ!大丈夫か?」といつものように大きく笑うキースが立っていた。

 

 「当然です。こんな時に外すバカなんていませんよ。でも、遅かったようですね。彼らは重傷です。キースさん、さっさと行きますよ。ここから先、今生きている者はもう誰も死なせません。シュバルツさん、貴方も自分の責務を全うなさい」と凛と佇み、優しいながらも厳しい言葉を使うニックが立っていた。


 二人は崖を飛び降り、よろよろと立ち上がる甲冑騎士に迫る。


  ゲイルはその様子を面白そうに見守り、「たった二人であいつに挑もうってか?面白え。人間如きが2人増えたところであいつは倒せねえよ。残念だったな、騎士団長さん?」と近くで立ち上がるシュバルツに告げる。


 シュバルツはゲイルを睨み、「そうやって人を見下して、お前は常に勝った気でいる。だが、残念だったな。お前はもう、私には勝てない」といって静かに剣を握る。水晶大剣は顕現した時とは違い、明らかに刀身の輝きが増していた。シュバルツは活力に満ち、剣はそれに呼応するように輝きを増す。まるで繋がっているかのようだった。

 「さあ来い、雑兵。お前が到達できない領域ってやつを見せてやるよ。絶望させてやる?やってみろよッ!」といって地面を蹴る。


 ゲイルはその様子を見て口角を大きく上げ、「いいぜいいぜ!そうでなくっちゃな!」と大斧を構え直し、地面を蹴る。


 2人の光が交差し、金属音が響く。火花が散り、剣戟の軌跡が幾重にも描かれ、その激しさを表現する。


 ゲイルはシュバルツと全力でぶつかりながら、「もっと!もっとだ!上げてけよ、シュバルツ!人類の最高点ってやつを!見せてみろよッ!」と狂気の笑顔を見せながら語りかける。


 シュバルツは平静を保ったまま、無限に剣戟を刻む。そして、ゲイルの隙を見極める。そして、少しずつ、少しずつ彼に傷を負わせていく。

 だが、ゲイルも一筋縄では鎮まりはしない。彼もまた、シュバルツにかすり傷をつけていく。


 そして、無限に思われた剣戟にも終わりが見える。大きな金属音が響き、衝撃が轟く。直後、2人は大きく飛び退き、深く構える。



 地面を蹴り、2人は交差する。



 数秒の沈黙の後、シュバルツが膝をつく。


 

 「なかなか…やるじゃねえか…。人間…如きが…」と呟き、直後にゲイルが初めて膝をつく。そのまま力なく地面に伏す。側に落ちた大斧は淡く輝き、少しずつ霧散していく。


 その音を聞いた時、シュバルツは笑みを溢しながら倒れ込む。その体を優しく支え、「よくやった。シュバルツ。流石は俺達の戦友だ」とキースが呟く。


 その背後に立ち尽くすニックも口角を少しだけ上げ、「成長したようですね。シュバルツさん」と嬉しそうに呟く。



 事後報告


 アインツマイヤー騎士団は壊滅。残された兵士はシュバルツ・レオンハルト騎士団長、トールス・アノ、イルノート・マリスの3名のみ。


 ジン・クルセイド、ヒバナ・アール、以下兵士百名が戦死。


 ゲイル率いる星の民は壊滅。ゲイルは死に、甲冑騎士もアリシアとアインツマイヤー騎士団の活躍により消滅。西部の戦線は守られ、事態は終息に向かってきている。


 だが、傷も癒えないこのタイミングで一通の文書が届く。

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