0話 運命を握る者達
力無く微笑む。覚悟はしていた。彼女が元凶なら、こうなるんじゃないかって。でも、いざやるとなると怖いな…。はあ、彼らはこんな恐怖の中で私と共に歩み、道を切り開いてきたのね。今この時、本当に彼らを尊敬してしまうよ。絶望にあがき、どれだけ傷つき、泥を被ろうとも立ち上がり、抵抗する。その先に待つのは理想郷ではなく、ただただつらい現実であったとしても。私は、共にあってくれた彼らと同じように。彼らと共に並んで立つために、二度と後悔することのないように武器となりましょう。
目の前に立ち塞がる敵を前に、呟く。「貴方達の覚悟、見届けました。ここからは私の出番ですね。私の全てをもって、かの敵を打ち滅ぼしましょう。たとえ全てを失おうとも、貴方達を助けましょう。私はスターロード・ポラリス。星界を統べ、全てを見守る者。今ここに、その全てをもって地獄の使者を地に返しましょう」
手を伸ばし、詠唱する。最初で最後の全力。全てを捨て、目の前の人々を助けましょう。アレス、私はもう貴方のように見捨てることはしない。「スターコード・アクティベート。権能剥奪。星界航行能力消失。交信途絶。賢者の瞳、返還」目を開ける。「ロード・ノヴァ」
ポラリスの前に宇宙を連想させる銀河の光が広がり、音を消失させる。光は一点に収束し、ゆっくりと彼女の前に零れ落ちる。一瞬の無が過ぎ去り、解放される。轟音と衝撃波が轟き、世界が白く染まる。
私は、この銀河を観測する星の民の一人。私の名前はポラリス。アイオス様の規定に従い惑星トルンの小さな島、アーカムへ派遣された。規定により、星の民は観測の責務から外れて惑星の民として過ごすことが許されている。私はそんな星の民が著しく惑星に影響を与えてしまった場合に派遣され、問題を解決する存在である。
アーツバルト上空
惑星に到達。直下の状況を観測…。これは…。私の観測結果は絶望的なものだった。降り立った星の民はアーカムに住まう人類を標的として交戦していた。星の力を有する我ら星の民に対して、特別な力を有さない人類はあまりにも不利な状況だ。彼らが数十人束となってかかったとて星の民一人に手がかかるかどうかといった力の差…。口元に力が入る。なぜこのような状況になっているのだろうか…。瞳を閉じ、過去を探る。
遥か過去の情景が脳裏に浮かぶ。鳴り響く金属音。怒号。悲鳴。人類は、小さな土地の中で複雑に分裂し、集団を作って生活をしている。そして、集団の長達はさらなる土地の確保の為に他の集団を攻撃したり略奪を繰り返したりしているようだった。
島の中央には、その文明に見合わない塔が東西を分かつように土地の最北端、中央、最南端の三地点に築かれている。しかし、3つの塔が立ち並ぶ中央には人の姿はなく、忘れられたかのように静かに風化していた。
時間を進める。人類の文明レベルが上がり、大きな集団とレンガ調の家屋を建てるようになった。東西それぞれに5つの大きな街が作られ、先ほどより争いが減っている。平和な光景に見える。
だが、人々は武器、防具を着込み、戦闘に備えている。彼らは一際目立つ防具を着た者が馬と共に駆け出す。それに呼応するように相手の勢力が姿を現し、大きな戦闘が起きた。先ほどの小競り合いと違い、人々はより高度に陣形や戦術を用いた戦いを見せる。洗練された技術や戦術は、効率的に命を奪う。文明が進んだことで、失われる命は先ほどとは比べものにはならない。
時間を進める。人類はなお成長を繰り返し、集団に特色がみられ始めた。資源を活用し、周囲との関係性を保つ者達、人を集めて防衛に特化する者達。特殊な技術に特化する勢力。戦闘は劇的に減少し、明らかに平和に向かっているように見える。
そうして探っている時だった。動きを見つけた。明らかに島民とは一線を画す存在。星の民を。彼らはアーカム南中央付近に存在する塔に集結しつつあった。ある勢力は人類の街から。ある勢力は人類の存在しない場所から。様々な場所から少しずつ集結していく。
そして、彼らは動いてしまう。彼らは、終結に向かいつつあった人類の戦闘に武力的な介入行動を見せた。圧倒的な武力を見せる星の民の勢力に、人類は明らかな混乱を見せる。そして、多くの戦場を同時に瞬時に制圧し、多くの命を無差別に奪って撤退する星の民を睨んだ。
そんな時、その混乱を治めるように一つの集団が目立つ動きを見せた。古から存在する3つの塔の中央地。アーカム中央で構築していた守備の街から。中央の場所からの人の動きがあった後、人類は星の民の勢力を睨むように集団を移動させ始める。人類は、誰かに纏め上げられる形で同時多発的に襲撃を開始した星の民を共通の敵と認識し、備え始めた。星の民は、さらなる戦闘に備える人類に対して武力を行使する。彼らは、備え始めた人類の拠点を、人類の武器を手に取って強靭な肉体を用いて蹂躙し始めた。
少し時が経過した頃。敗北を続ける人類の中に、星の民と互角に渡り合う人間が生まれた。人類の勇士とも呼べる存在。彼らは長きにわたり星の民と戦いを続け、敗走しながらも生き残った英雄。彼らはいつしかその力を振るい、一方的な蹂躙を変え始めた。彼らは下位等級の星の民と互角以上に渡り合い、上位等級の民にも抵抗を見せ始める。どれほど願ったとしても叶うはずのない力の会得…。戦況を変えた英雄達。
目を開ける。私は、まず人類側の戦士と話す必要がある。
アインツマイヤー レオンハルト邸
静かに地表に降りる。そして、目の前で鉄の剣を振るう男に話しかける。
「少し、話をしてもよろしいですか?」
男は驚く素振りを見せずに静かに振り返り、剣を収める。「ええ。もちろんです、お嬢さん」と微笑む。
私は頬を膨らませ、「お嬢さんではありませんっ。それより、貴方の持つその力は?」と尋ねる。
男は驚いたように目を見開き、「申し訳ありません。力…とおっしゃいましたか?私は見ての通り兵士ですので、剣術には自信がありますが」と困ったように答える。
ポラリスは首を横に振り、「そうではありません。貴方は、手に持つその剣と違った特別な力を有していますね?」と質問を変えて尋ねる。
男は明らかに驚いた表情を見せ、「驚きました。私の力を知っているのは戦場に出ているものでもごく一部です。貴方は何者ですか?」と静かに尋ねる。
「私はポラリス。この戦闘を終わらせるために来た者です。もう一度聞きます。その力は何処で手に入れましたか?」と再度尋ねる。
男はふふっと笑い、「面白い事をおっしゃられますね。いいでしょう。私のこの力は、ある少女から賜ったものです。名をライエと申しておられました。彼女は、「この戦闘を終わらせるのは人類によるものでなくてはならない。だから、この力を託すわ。貴方ならきっと正しく使ってくれるはず」と告げて」と淡々と答える。
私は驚きながら「ライエ…。そう…彼女がこの地に居るのですね…」と咄嗟に漏らす。
男は微笑みながら「お知り合いの方でしたか。ライエ様は三人の賢者にこの力を託すと仰っておられました。後のお二人を私は存じ上げませんが、そちらの方に彼女はおられるかもしれませんね」と優しく伝える。
私は頷き、「そうですね。2人を探すことにします。ありがとうございます」といって立ち去る。
男はその様子を静かに見つめ、ポラリスが去った後「変わったお嬢さんだったな。さて…。今度の作戦は…」と鉄の剣を抜いて独り言をつぶやく。
アーツバルト イージス邸
ポラリスは先ほどと同じように邸宅の前に降り立ち、警戒する素振りも見せずに中に入る。そして、邸宅の前の広間に座る二人の男女を見上げる。
「すこし、話をしてもよろしいでしょうか?」
二人の男女はポラリスを見つめ、「構わんよ。麗しいお嬢さん」「ええ。もちろんです」と快諾する。
ポラリスはもう表情を変えず、「単刀直入にお聞きします。ライエという少女が貴方達に力を渡しませんでしたか?」と尋ねる。
二人は驚いたように目を合わせ、「ああ。君くらいのお嬢さんが私達に力を託してくれたよ。これのおかげで彼らに対抗することが出来てるんだ」と男が答える。
「そう…ですか…。力を託された方がおられて、戦況はどうなっているのですか?」と続けて尋ねる。
男は静かに紅茶を啜り、「戦場の事などをお嬢さんに話したくはないのだが、ライエ君の事を知っているということは訳があるのだろう」と言って立ち上がり、邸宅から巻物を取ってくる。
男は巻物を開き、「これがこの島の地図だ。ここが私達の居る場所」と島の中心地を指さす。「それで、もう一つの勢力が居るのがここだ」と今度は西側の中心地付近を指さす。「ここは、西側を統べるアインツマイヤーという大きな街がある場所なんだ。東側にもハインドゴーンという大きな街が中心地にあるんだが、そちらは全く動く素振りを見せてくれていない。あちらには、ミーティアが見出した青年が一人いるんだがね。彼は立場上、先導することが出来ないようでね。今度、私が話に行こうかと思っているよ」と続ける。
ポラリスは首を傾げ、「見出した?彼女はその力を誰かに渡したのかい?ライエは君らにこの島の運命を託したのであろう?」と尋ねる。
男は顔を上げ、「そのようだね。だがね、彼女は他の人に力の譲渡が出来ることを私達に告げ、その上で私達に与えた。これは、私達が人類側の勇士を選定して立ち向かえるようにという事だと受け取ってね。それで、ミーティアは一人の青年にその力を与えた。」と淡々と答える。
ポラリスは一瞬驚いた後、すぐに表情を戻し「彼女が贈った者たち以上に優秀なものが…?」と呟き、「貴重な情報をありがとうございます。これで色々と掴めました」とポラリスはすぐに立ち去る。
二人はその姿を見つめ、「彼女は…。まあいい。さて、そろそろ時間だ」と立ち上がる。
ポラリスは宙に戻り、即断する。「スターロードが絡んでいてこの状況。何かがおかしい…。スターコード・アクティベート。ホープ・フィリア」そう呟いた途端、彼女を中心として複雑な魔方陣が形成される。魔方陣は球体を描くように形成され、ポラリスが目を閉じるのと同時に眩く発光する。
最南端 破壊の塔
白いローブを纏った男が周辺に集まる星の民に指示を出す。「諸君、聞いてくれ。我らは指揮の塔の奪還を目指す。我らの怒りを見せつけ、最高位の存在であると勘違いした人類を地に落とす。そして、高度な知性を持ちながら同族を傷つけあう愚かな人類を、上位種である我らが先導する。無意味な争いのない理想郷を、我らの手で作り上げて見せようではないか」と高らかに語る。
星の民たちは大きな歓声を上げ、「やってやりましょう!」「人類には痛い目を見せなくてはいけません!」と口々に告げた。
男は静かに剣を掲げ、「ディオス・アルマータがここに宣言する!上位種である我らが人類に裁きの鉄槌を下し、彼らを平和に導くと!」と宣言し、眼前に建つ指揮の塔へ向けて、数百の星の民を連れて歩き出す。
アーツバルト 南街道
ポラリスと会っていた時とは違い、男は真剣な表情を見せながら眼前に並ぶ歴戦の戦士達を見つめる。
「皆、よく集まってくれた。我らはこれより迫る、星の民を名乗る者共を迎え撃つ。奴らは我らと違い、一人一人が一騎当千の英雄だ。我らに勝ち目などないのは火を見るよりも明らか。だが!敗北しか結末が待っていないとしても、抵抗もせずに殺されるうな我らではない!今日この時、敗北が決まったこの戦をすると私に告げられた時、君らは誰も絶望したりしなかった!たとえ死するとも、その瞬間まで我らは戦士としてこの地を守護し、人類を勝利に導く!地獄が待っているからと言ってその到来を恐れて自害するような愚か者などこの地にはおらんのだ!」と士気を上げるように高らかに告げ、静かに振り返る。そして、視界の遥か先に映る塔を見つめ、「行くぞ友よ!人類に栄光あれ!」と告げて走り出す。
戦士達が去るのを静かに城内から見つめていたミーティアは、「アーツ様。どうか神の御加護を…。」と呟き、城内で待機していた幾千もの女子供の元に付く。「では、参ります。ホワイトアーツへ」と告げ、静かにアーツバルト北側の街道へ歩き出す。
行軍が始まり、数時間が経過した後。アーツは視界に映る死屍累々の惨状に胸を痛めていた。
白銀の大剣を握り、静かに地面を蹴る。目前に控えるのは数十の星の民。たとえ星の民の力を譲渡されても、アーツの力は星の民が束となれば遠く及ばない。だが、類稀なる剣術を有したアーツはその戦力差を一人で覆していく。
星の民は一騎当千ともいえる活躍を見せるアーツに驚きながらも、「なんだあいつはッ!」「調子に乗るなよ人類!」と勇猛果敢に突撃していく。
アーツは一言も発することなくただひたすらに剣を振るい、迫り続ける星の民を始末し続けた。アーツバルトの軍勢は、出発時の十分の一にも満たない少数と成り果て、残された戦士達は傷つき、疲弊していた。
そんな時だった。白いローブを纏った金髪の男がアーツの前に立つ。男は二つの剣を握り、四本の剣を浮遊させながら静かに佇む。「人類の中にはここまで勇猛な戦士がいるのだな。たとえその力を得たとて、結局はすべての能力で勝る我々の脅威とはなり得ない。だが、それを凌駕するどころか一人で拮抗させるとは。だが、その勢いもここまでだ。この私、ディオス・アルマータが相手してやろう」
アーツは口角を上げ、「まさか親玉に出くわすとはねえ。私も長い人生を送ってきたがここまで嬉しい事はそうないものだ。では、一つ手合わせ願おうか」と傷ついた体を気にせず、静かに剣を構えなおす。
ディオスはニヤリと笑った後、地面を蹴る。直後、金属音が辺りに響き、続けて衝撃波が辺りを薙ぐ。ディオスはすぐさま一歩後退し、手に持った剣をアーツに向ける。直後、浮遊していた剣がアーツの方へ剣先を向け、音速で突きこまれていく。アーツは勘を頼りにその攻撃を回避し、続けて迫るディオスの攻撃を剣で受け止める。直後に体を転身させ、低い姿勢となって斜めに斬り上げる。しかし、周囲を浮遊していた剣の一つがその攻撃を受け止めてしまう。
ディオスは、目の前で動きを止めたアーツに向かって剣を突き入れる。アーツは咄嗟に回避行動をとり、間一髪でディオスの攻撃を避ける。ディオスはすぐさま浮遊剣に追撃の指令を下すが、左右にブレながら後退するアーツには届かなかった。アーツは浮遊剣を避け切った直後に地面を蹴り、ディオスに斬りかかる。ディオスは立ち尽くしたまま片手の剣で簡単にそれを受け止め、そのまま連撃を続けるアーツの攻撃を簡単に受け止め続ける。そして、視界を一瞬動かし、アーツの背後に突き立っていた浮遊剣を操作する。アーツはその動きをすぐさま察知し、ギリギリまで剣戟を続けたのちに回避行動を行う。直後、天から4本の剣がディオスの目の前に突き立てられ、地面を大きく抉る。
アーツはすぐさま振り返り、悠々と見下すディオスを見上げて冷や汗を流す。剣を浮遊させるディオスに向かい、更に剣戟を打ち込んでいく。しかし、その剣が届くことは一度もなく、アーツの体力は徐々に削られていく。
ディオスはそんなアーツを見下しながら、「どうしてそこまでして戦う?」と冷酷に告げる。
アーツは手を緩めず、「負けられない理由があるんでね。それを話したらあんたらは退いてくれんのかい?」と尋ねる。
ディオスは軽蔑の眼差しを向け、「ありえんな。上位種である我らが人類なぞに敗北することはなく、戦いをしなければ生きていけぬような貴様らのような愚か者共に撤退なぞせん。いままで攻め入る事をしなかったのは、貴様らが理解すると思っていたからだ。だが、違ったようだな」と告げ、浮遊剣を用いてアーツの剣を叩きつける。
アーツは圧倒的な膂力に負け、大きく体勢を崩す。すぐさま大剣から手を離し、後退しようとするが、そこで動きが止まる。視界をディオスに向けた時、そこにはアーツの目の前に剣を突き出した彼の姿があった。
ディオスは完全にアーツの動きを制し、「ここまでだ。人類の勇士。貴様はよく戦った。一つ提案をしてやろう。私の眷属として、星の民に加わらないか?貴様のような勇士は人類を束ねるのに必要な存在だ。今も東西の勢力を静かに援助し、貴様を中心としてこの島の人類は団結しておる。貴様を失った人類は、昔のように争い合う事であろう。どうだ?我らに付き、人類の統制に力を貸さないか」と告げる。
アーツは口角を上げ、「それはお断りさせていただくよ。我ら人類は、星の民などという別の種族の手を借りなくてはならぬほど愚かではない。確かに昔は争いの絶えない地獄のような地であった。しかし、今はこうして少しずつ平和の道を歩んでいる。私なぞ居なくとも後の世は平和であろう」と告げる。
ディオスは溜息を吐き、「残念だ。貴様ほどの勇士もそのような妄想にとりつかれているとは。断言しよう。人類という種族は自らの力だけでは平和などにはたどり着けぬ。高度な知能を持ちながら、欲深く、戦闘などという愚かな方法ばかり選び続ける貴様らなぞにはな」と告げ、剣を掲げる。
アーツは静かに目を閉じ、最後の時を待った。