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里見八ニャン伝  作者: ワタベミキヤ
猫剣士立志編
9/37

第9話 智の巻

『智の玉』を持つ八ニャン士のニャン蜜。

里見村4番地にある駐在所の家に住んでいる。


八ニャン士の中では一番賢く、猫アイドルと戦国武将の『軍師』に憧れているニューハーフ。

ものすごく聴覚は良いが、歌を歌うと音痴である。


右の二の腕に星の模様がある。

時は江戸幕府の末期。長年続く幕府に反旗を翻そうと、新政府軍は日本中を巻き込む大きな戦いを勃発した。

そんな乱世の中、東野郡にある里見村と大和田村の間でも激しい戦いとなり、天下分け目の戦いと匹敵するくらい大きな合戦となっていた。この戦いに勝利した村が、東野郡を支配することができる重要な戦いでもあった。

そして八ニャン士隊を率いる里見村軍と宿敵の狸がいる大和田村軍との合戦が、東野川にかかる東野橋で行われようとしていた。


戦場の地でもある東野川の河川敷では、里見村軍と大和田村軍が長い時間睨み合っていた。里見村軍の八ニャン士隊に所属している女軍師のニャン蜜は、装飾された紫の甲冑を着て美しい白馬の上から遠くを眺めていた。その側には、甲冑を着たニャン太郎とニャン斗とニャン吉が家来として仕えていた。

里見村軍の数ある隊の中で先陣を任されたニャン蜜は、八ニャン士隊の旗を掲げ大きな声を上げる。


「時は今にゃん。 皆のもの、この大事な合戦で里見村軍は必ず勝利するにゃあ!」

「おお! 我々里見村軍が勝利するぞぉ!」

「皆の者、よく聞け! 里見村軍の先陣である我が八ニャン士隊が、先頭をきって自ら切り込まなければいけにゃい。 ところでニャン太郎、八ニャン士の他の4人はどこへ行ったにゃ?」

「はっ、他の4人は有休をとっております!」

「こんな大事な合戦の時に有休とはにゃにごとにゃん! まあいい、我々4人で戦う覚悟は出来ているにゃ」


ニャン蜜は家来たちに喝を入れるが、ニャン斗とニャン吉は合戦やケンカが苦手である。


「僕は戦いが嫌いなんだよなぁ。 争いごとは全部お金で解決すればいいんだよぉ」

「僕は家に帰りたいでござる」

「ニャン斗とニャン吉は本当にケンカが嫌いなんだね。 でも我が軍には素晴らしい女軍師ニャン蜜様がいるから、きっと大丈夫だよ!」


それを聞いていたニャン蜜は、白馬の上から見下ろし満足げに笑った。


「ハッハッハ、ニャン太郎よく言ったにゃん。 皆の者、私を信用してついて来るにゃあ!」


ニャン蜜が檄を飛ばしても、小柄で弱気なニャン吉はまだ震えている。


「ニャン蜜様、でも怖いものは怖いでござる」

「ではニャン吉に教えてやるにゃん。 あの有名な『風林火山』は知ってるかにゃ?」

「風林火山って、甲斐の国の武田信玄でござるか?」


まるで子供のお遊戯会のような演技をしながら、ニャン蜜は風林火山について説明し始めた。


「そよ風のようにヒラヒラと〜」

「ヒラヒラと?」

「竹林のようにザワザワと〜」

「ザワザワと?」

「焚き火のようにパチパチと〜」

「パチパチと?」

「富士山を見ながら乾杯にゃん!」


ニャン太郎とニャン吉とニャン斗 コケる。


「それを言うなら『疾きこと風の如く』でしょ? まさかニャン蜜様は風林火山を知らないとか?」

「ハッハッハ。 冗談はこれくらいにしておいて、今から合戦に備えて八ニャン剣で素振りをするにゃん!」

「ええ! これから戦いが始まるのに、今から素振りをやるんですかぁ?」

「運動する前は軽く体操するって先生に習ったにゃん。 言われた通り、早く素振りをするにゃあ!」


八ニャン士は八ニャン剣をシュンと構え、ニャン蜜の号令とともに素振りを行った。


「イチ、ニィ、ニャン! ニィ、ニィ、ニャン!」

「イチ、ニィ、ニャン! ニィ、ニィ、ニャン!」

「サン、ニィ、ニャン! シィ、ニィ、ニャン!」

「サン、ニィ、ニャン! シィ、ニィ、ニャン!」

「幸せニャン♪ 歩いてこニャい・・・ピー(放送禁止)」


気持ちが高ぶったニャン蜜は急にマイクを持って『365肉球のマーチ』を歌い出すと、ニャン太郎とニャン吉とニャン斗は素振りを止めて耳を塞いだ。機嫌良く歌っていたニャン蜜は、細い目をしながら3人を睨んだ。


「バカ者。 お前たちはなぜ耳を塞いでいるにゃ?」


ご存知の通りニャン蜜の歌は放送禁止であり、本人は音痴である自覚が全く無い。



しばらく八ニャン士が剣を素振りをしていたその時、ニャン蜜は大和田軍の大きな動きに気づいた。


「ん、待て。 敵軍に何か動きがあるにゃ!」

「ニャン蜜様、私たちには何も見えませんが?」

「フフフフ。 私は人より聴力がすぐれているから、私の耳に間違いはにゃい!」

「で? 何が聞こえるんでござるか?」

「シッ! 恐らく、アイツらは昼メシをしてるにゃ」


ニャン太郎とニャン吉とニャン斗 コケる。


「ニャン蜜様は敵陣の昼メシまで聞こえるんですか?」

「ニャン太郎くん、そういえば僕たちもお腹が空いてきましたねぇ。 ニャン吉くんもそう思うでしょう?」

「拙者も食べたいでござる」

「よし、敵も昼メシなら我々も昼メシにするにゃん。 皆の者、昼メシの準備にゃあ!」

「ははっ!」


こうして八ニャン士隊は、焚き火をかこみながら昼メシにすることにした。東野川で取れた川魚を塩焼きにして、それを食べながらしばらく雑談した。


「ムニャムニャムニャ、川魚の塩焼きは美味いにゃあ」

「ニャン蜜様ぁ。 僕だったら川魚の塩焼きより、川魚の蒸し焼きが好みだなぁ。 香草(ハーブ)を入れて蒸すと、とてもいい香りがするのさぁ」


イケメンを売りにしているニャン斗はちょっとしたグルメであるが、八ニャン士はそれを認めていない。


「ニャン斗、いつも贅沢なことを言うんじゃにゃい。 お前は昔からお金持ちで贅沢に育てられているから、そんなヒョロヒョロした体をしてるにゃ」

「でも僕は川魚の塩焼きでもすごく美味しいなぁ。 腹が減っては戦ができませんからねぇ」

「あっそ、ニャン太郎はずっと塩焼きを食べるといいにゃ。 私は可愛い女軍師だから、オシャレな川魚の香草なんちゃらを食べたいにゃん!」


ニャン太郎とニャン吉とニャン斗 コケる。


しばらく八ニャン士が昼メシを食べていると、3人は女軍師であるニャン蜜に問いかけた。


「ところで、ニャン蜜様はどのようして女軍師になったのですか?」

「フッフッフ、ニャン太郎知りたいかにゃ? 私のご主人様の先祖も軍師を務めていて、我が家にはたくさんの『兵法へいほう』の書があるにゃん」

「兵法? 兵法って何ですか?」

「いわゆる戦術の学問みたいなものにゃん。 私はいろいろな兵法書を読み、多くの戦術を学んだにゃん」

「おお、それは素晴らしい! そして、その兵法とはどなたが書いたのですか?」


ニャン蜜は突然立ち上がり、ドヤ顔をしながら叫んだ。


「それは、中国で有名な軍師『諸葛猫明しょかつにゃんめい』様にゃん!」

「諸葛猫明?」


するとニャン蜜は急に緑色した大きな羽織りを着て、何か変なモノマネをし始めた。


「戦いはお城の中の軍議ぐんぎで起きてるんじゃにゃい。 戦場で起こっているにゃあ! 里見村駐在所のショカツをニャメるなよぉ!」


ニャン太郎とニャン吉とニャン斗 目が点になる。


「ニャン蜜様? それって『諸葛』でなくひょっとして『所轄しょかつ』のことですよね?」

「しかもそのセリフって、猫歌舞伎で人気の演目『ナメる大猫捜査線』のことですか?」


ニャン太郎とニャン斗に鋭い突っ込みをされて、嫌な冷や汗をかくニャン蜜はパタパタと扇子をあおいた。


「ハッハッハ、冗談にゃん!」


ニャン太郎とニャン吉とニャン斗 コケる。


そしてニャン蜜はまた興奮しながら、話しがエスカレートしていった。


「そして、私には目指す女猫戦士がいるにゃあ!」

「おお、その戦士の名は?」

「女猫ながら勇敢に戦った、あの世界的有名な『ニャンヌ・ダルク』だにゃあ!」

「おお、それはフランス革命で勇敢に戦ったあのニャンヌ・ダルクでござるな。 女猫で戦士だなんて、まるでニャン蜜様と同じでござる!」

「でしょでしょ、私かっこいいにゃん!」


すると、空気の読めないニャン斗がニャン蜜に言った。


「あれぇ? 確かニャン蜜様は、可愛い男の子のはずじゃなかったっけ?」


それを聞いたニャン蜜は耳をピクリと動かし、鬼の形相でニャン斗を睨んだ。


「男の子だにゃあ? てめぇ今なんて言ったにゃ?」

「バカ、ニャン斗! ニャン蜜様は可愛い可愛いキューティー女猫の軍師なんだぞ」

「はっ、失礼しました。 可愛い可愛いキューティー女軍師のニャン蜜様!」

「私は勇敢に戦った女猫戦士のニャンヌ・ダルクを目指して戦っているにゃん。 分かったかにゃあ!」

「ははっ!」



しばらくすると、河川敷の向こうから大和田村軍のホラ貝が鳴った。そして、いよいよ里見村軍と大和田村軍の戦いが始まろうとしている。

しかしまだニャン斗とニャン吉は戦う気がなく、小さくなりながらウジウジしていた。


「ニャン吉くん、やっぱり合戦が始まるみたいだねぇ」

「ニャン斗くん、僕はやっぱり家に帰りたいでござる」

「皆んな、大丈夫だよ。 僕たち八ニャン士隊で里見村を守ろう。 正義は僕たちだよ!」

「正義が好きなニャン太郎くんは、いつもキラキラした目でそのセリフを言うんだねぇ」

「ところでニャン蜜様、天下分け目のこの戦いで何か策はあるのでござるか?」


すると、ニャン蜜は怪しい笑みを浮かべながら立ち上がった。


「フッフッフ、策はあるにゃん!」

「おお! その策の名は?」


ニャン蜜は再び白い馬にまたがり八ニャン剣をシュンと抜くと、前に突き出しながら叫んだ。


「名付けて、『東野橋を封鎖せよ!』作戦だにゃあ!」


ニャン太郎とニャン吉とニャン斗 目が点になる。


「それって、絶対『ナメる大猫捜査線』ですね?」



ニャン蜜は東野川の風にあおられながら、まるで戦いに勝利したかのように微笑んだ。


「フッフッフ、私の策を見くびるにゃよぉ。 ニャン蜜様は完璧で可愛いキューティー女軍師だにゃん!」

さあ、いよいよ里見村軍と大和田村軍との戦いが始まりました。


女軍師のニャン蜜ちゃんが考えた『東野橋を封鎖せよ!』作戦とは、一体どんな作戦なんでしょうか?


ちなみに『ナメる大猫捜査線』はフィクションであり、実在の人物や団体などとは一切関係ありません。


次回「策の巻」をお送りします。

女軍師ニャン蜜の作戦とは・・・「算数」?


お楽しみニャン!

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