第9話 智の巻
『智の玉』を持つ八ニャン士のニャン蜜。
里見村4番地にある駐在所の家に住んでいる。
八ニャン士の中では一番賢く、猫アイドルと戦国武将の『軍師』に憧れているニューハーフ。
ものすごく聴覚は良いが、歌を歌うと音痴である。
右の二の腕に星の模様がある。
時は江戸幕府の末期。長年続く幕府に反旗を翻そうと、新政府軍は日本中を巻き込む大きな戦いを勃発した。そんな乱世の中、東野郡にある里見村と大和田村の間でも激しい戦いとなり、天下分け目の戦いと匹敵するくらい大きな合戦となっていた。この戦いに勝利した村が、東野郡を支配することができる重要な戦いでもあった。
そして八ニャン士隊を率いる里見村軍と宿敵の狸がいる大和田村軍との合戦が、東野川に架かる東野橋で行われようとしていた。
戦場の地でもある東野川の河川敷では、里見村軍と大和田村軍が長い時間睨み合っていた。里見村軍の八ニャン士隊に所属している女軍師のニャン蜜は、装飾された紫の甲冑を着て美しい白馬の上から遠くを眺めていた。その側には、甲冑を着たニャン太郎とニャン斗とニャン吉が家来として仕えていた。
里見村軍の数ある隊の中で先陣を任されたニャン蜜は、八ニャン士隊の旗を掲げ大きな声を上げる。
「時は今にゃん。 皆の者、この大事にゃ合戦で里見村軍は必ず勝利するにゃあ!」
「おお! 我々里見村軍が勝利するぞぉ!」
「皆の者、よく聞け! 里見村軍の先陣である我が八ニャン士隊が、先頭をきって自ら切り込まにゃければいけにゃい。 ところでニャン太郎、他の4人の八ニャン士はどこへ行ったにゃ?」
「はっ、他の4人は有休をとってるでござる」
「にゃにぃ? こんな大事にゃ合戦の時に有休とは、にゃにごとにゃん! まあいい、我々4人は戦う覚悟が出来ているにゃ」
ニャン蜜は家来たちに喝を入れるが、ニャン斗とニャン吉はテンションが下がっていた。それは2人とも合戦やケンカが苦手だからである。
「僕は戦いが嫌いなんだよなぁ。 争いごとは全部お金で解決すればいいんだよぉ」
「あ、僕もケンカが苦手です。 僕は早く家に帰りたいです」
「ニャン斗とニャン吉は本当にケンカが嫌いでござるね。 でも我が軍には素晴らしい女軍師ニャン蜜様がいるから、きっと大丈夫でござるよ!」
ニャン太郎が2人を励ますその言葉を聞いていたニャン蜜は、白馬の上から満足げに笑う。
「ハッハッハ、ニャン太郎よく言ったにゃん。 皆の者、私を信用してついて来れば大丈夫だにゃあ!」
いくらニャン蜜が檄を飛ばしても、小柄で弱気なニャン吉はまだブルブルと震えている。
「でもニャン蜜様、怖いものは怖いですよ」
「ではニャン吉に教えてやるにゃん。 あの有名にゃ『風林火山』は知ってるかにゃ?」
「風林火山って、もしかして甲斐の国の猫田信玄持ですか?」
するとニャン蜜は、まるで子供のお遊戯会のような演技をしながら風林火山について説明し始めた。
「そよ風のようにヒラヒラと〜」
「ヒラヒラと?」
「竹林のようにザワザワと〜」
「ザワザワと?」
「焚き火のようにパチパチと〜」
「パチパチと?」
「富士山を見にゃがら乾杯にゃん!」
ニャン太郎とニャン吉とニャン斗 コケる。
「そ、それを言うなら『疾きこと風の如く』でしょ? まさか軍師のニャン蜜様が、有名な風林火山を知らないとか?」
「ハッハッハ。 冗談はこれくらいにしておいてにゃ、今から合戦に備えて八ニャン剣で素振りをするにゃん!」
「ええ! これから戦いが始まるというのにぃ、今から素振りをやるんですかぁ?」
「ニャン斗、運動する前は軽く体操するって先生に習ったにゃん。 言われた通り、早く素振りをするにゃあ!」
八ニャン士は八ニャン剣をシュンと構え、ニャン蜜の号令とともに素振りを行った。
「イチ、ニィ、ニャン! ニィ、ニィ、ニャン!」
「イチ、ニィ、ニャン! ニィ、ニィ、ニャン!」
「サン、ニィ、ニャン! シィ、ニィ、ニャン!」
「サン、ニィ、ニャン! シィ、ニィ、ニャン!」
号令で気持ちが高ぶったニャン蜜は 急にマイクを持って『365肉球のマーチ』を歌い出す。
「幸せにゃあ♪ 歩いてこにゃい・・・ピー(放送禁止)」
するとニャン太郎とニャン吉とニャン斗は素振りを止めて、急いで耳を塞ぐ。機嫌良く歌っていたニャン蜜は、細い目をしながら3人を睨んだ。
ご存知の通りニャン蜜の歌声は放送禁止であり、本人は音痴である自覚が全く無い。
「バカ者。 お前たちはにゃぜ耳を塞いでいるにゃ?」
しばらく八ニャン士が剣を素振りが続いていたその時、ニャン蜜は大和田軍の大きな動きに気づいた。
「ん、待て。 敵軍に何か動きがあるにゃ!」
「ニャン蜜様、私たちには何も見えないでござるが?」
「フフフフ。 私は人より聴力がすぐれているから、私の耳に間違いはにゃい!」
「で? 何か聞こえるんでござるか?」
「シッ! 恐らく・・・」
ニャン太郎とニャン吉とニャン斗 息を飲む。
「狸たちは昼メシだにゃ。 あれは焼肉の音に間違いにゃい!」
ニャン太郎とニャン吉とニャン斗 コケる。
「ニャン蜜様は敵陣の昼メシの音まで聞こえるんでござるか? しかも焼肉でござるか?」
「ハッハッハ、私を誰だと思ってるにゃ!」
「そういえば僕たちもお腹が空いてきましたねぇ。 ニャン吉くんもそう思うでしょう?」
「あ、僕は食べたら、早く家に帰りたいです」
「よし、敵も昼メシにゃら我々も昼メシにするにゃん。 皆の者、昼メシの準備にゃあ!」
「ははっ!」
こうして八ニャン士隊は、焚き火をかこみながら昼メシにすることにした。八ニャン士は東野川で取れた川魚を塩焼きにして、それを食べながらしばらく雑談する。
「ムニャムニャムニャ、川魚の塩焼きは美味いにゃあ」
「ニャン蜜様ぁ。 僕だったら川魚の塩焼きより、川魚の蒸し焼きが好みだなぁ。 香草を入れて蒸すと、とてもいい香りがするのさぁ」
イケメンを売りにしているニャン斗はちょっとしたグルメであるが、八ニャン士の皆んなはそれを認めていない。
「川魚の香草蒸し焼きだとぉ? ニャン斗、いつも贅沢にゃことを言うんじゃにゃい。 お前は昔からお金持ちで贅沢に育てられているから、そんにゃヒョロヒョロした体をしてるにゃ」
「でもニャン蜜様、僕は川魚の塩焼きでもすごく美味しいでござる。 腹が減っては戦ができないでござるから」
「あっそ、じゃあニャン太郎はずっと塩焼きを食べるといいにゃ。 私は可愛い女軍師だから、今度はオシャレな川魚の香草蒸しを食べるにゃん!」
突然ニャン蜜に冷たく見放され、ニャン太郎は少しいじける。
「む、むごい。 僕だって本当は川魚の香草蒸しが食べたいでござるよ」
しばらく八ニャン士が昼メシを食べていると、3人は女軍師であるニャン蜜に問いかける。
「ところで、ニャン蜜様はどのようして女軍師になったのでござるか?」
「フッフッフ、ニャン太郎知りたいにゃ? 私のご主人様の先祖も軍師を務めていて、我が家にはたくさんの『兵法』の書があるにゃん」
「兵法? 兵法って何でござるか?」
「いわゆる戦術の学問みたいにゃものにゃん。 私はいろいろにゃ兵法書を読み、多くの戦術を学んだにゃ」
「おお、それは素晴らしい! して、その兵法とはどなたが書いたのでござるか?」
ニャン蜜は突然立ち上がり、ドヤ顔をしながら叫んだ。
「それは、中国で有名な軍師『諸葛猫明』様にゃん!」
「諸葛猫明?」
するとニャン蜜は急に緑色した大きな羽織りを着て、何か変なモノマネをし始める。
「戦いはお城の中の軍議で起きてるんじゃにゃい。 戦場で起こっているにゃあ! 里見村駐在所のショカツをニャメるにゃよぉ!」
ニャン太郎とニャン吉とニャン斗 目が点になる。
「ニャン蜜様ぁ? それって『諸葛』でなくて、ひょっとして『所轄』のことじゃないですかぁ?」
「しかもそのセリフって、猫歌舞伎で人気の演目『ナメる大猫捜査線』ですよね?」
ニャン斗とニャン吉に鋭い突っ込みをされて、嫌な冷や汗をかくニャン蜜はパタパタと扇子をあおぐ。
「ハッハッハ、冗談にゃん!」
ニャン太郎とニャン吉とニャン斗 コケる。
そしてニャン蜜はまた興奮しながら、話しがエスカレートしていく。
「そして、私には目指す女猫戦士がいるにゃあ!」
「おお、その戦士の名は?」
「女猫にゃがら勇敢に戦った、あの世界的有名にゃ『ニャンヌ・ダルク』だにゃあ!」
「おお、それはフランス革命で勇敢に戦ったあのニャンヌ・ダルクでござるな。 女猫で戦士だなんて、まるでニャン蜜様と同じでござる!」
「でしょでしょ、私かっこいいにゃん!」
すると空気の読めないニャン斗が、浮かれているニャン蜜に禁断の言葉を言い放つ。
「あれぇ? 確かニャン蜜様は、可愛い男の子のはずじゃなかったっけ?」
それを聞いたニャン蜜は耳をピクリと動かし、鬼の形相でニャン斗をジロリと睨む。
「男の子だあにゃあ? てめぇ、今にゃんて言ったにゃ?」
ニャン太郎は慌ててニャン斗の口を塞ぐ。
「バカ、ニャン斗! ニャン蜜様は可愛い可愛いキューティー女軍師でござるぞ!」
「はっ、失礼しました。 可愛い可愛いキューティー女軍師のニャン蜜様!」
「分かればいいにゃん。 私は勇敢に戦った女猫戦士のニャンヌ・ダルクを目指して戦っているにゃ。 皆の者、分かったかにゃあ!」
「ははっ!」
八ニャン士隊がそんなバカバカしい話をしていると河川敷の向こうからホラ貝が鳴り、いよいよ里見村軍と大和田村軍の戦いが始まろうとしていた。
しかしまだニャン斗とニャン吉は戦う気がなく、小さくなりながらウジウジしていた。
「ニャン吉くん、やっぱり合戦が始まるみたいだねぇ。 どうしよぉ」
「ニャン斗くん、僕はやっぱり早く家に帰りたいです」
「皆んな、大丈夫でござるよ。 僕たち八ニャン士隊で里見村を守るでござる。 正義は僕たちでござるよ!」
「正義が好きなニャン太郎くんは、いつもキラキラした目でそのセリフを言うんだねぇ」
「あ、ところでニャン蜜様。 天下分け目のこの戦いで何か策はあるのですか?」
すると、ニャン蜜は怪しい笑みを浮かべながら立ち上がった。
「フッフッフ、策はあるにゃん!」
「おお! その策の名は?」
ニャン蜜は再び白い馬にまたがり八ニャン剣をシュンと抜くと、前に突き出しながら叫んだ。
「名付けて、『東野橋を封鎖せよ作戦』だにゃあ!」
ニャン太郎とニャン吉とニャン斗 目が点になる。
「それって、絶対『ナメる大猫捜査線』ですね?」
ニャン蜜は東野川の風にあおられながら、まるで戦いに勝利したかのように微笑んだ。
「フッフッフ、私の策を見くびるにゃあ。 このニャン蜜様は、完璧で可愛いキューティー女軍師だにゃん!」
さあ、いよいよ里見村軍と大和田村軍との戦いが始まりました。
女軍師のニャン蜜ちゃんが考えた『東野橋を封鎖せよ!』作戦とは、一体どんな作戦なんでしょうか?
ちなみに『ナメる大猫捜査線』はフィクションであり、実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
次回「策の巻」をお送りします。
女軍師ニャン蜜の作戦とは・・・「算数」?
お楽しみニャン!




