第6話 変の巻
ニャン吉の家でDVDを見る為に集まったニャン助とニャン蜜とニャン平は、八ニャン士の中で猫アイドルオタクグループだった。
ニャン吉から出された知恵の輪の課題を乗り越え、いよいよ新作のDVDを見るはずだったのだが・・・
ニャン平は応援の時に使う3種の神器(ハチマキ・ハッピ・ペンライト)を忘れてしまった。
ニャン平が3種の神器を取りに行っている間に、部屋で待っている3人は一緒に話し始めた。八ニャン士を結成してからまだ間もない為、ニャン助とニャン蜜はこれを機にニャン吉と交流を深めようとしていた。
「ところでニャン吉にずっと聞きたかったことがあるんだどん、いいかなん?」
「え? ニャン助くん、急にどうしたの?」
「確かニャン吉のご主人様って奥様だけだよねん? ダンナ様はいないのん?」
ニャン助から突然家庭のことを言われたニャン吉は、急に暗い顔をして下を向きながら小声で話し始めた。
「う、うん、そうなんだ。 うちのご主人様は奥様だけなんだよ。 僕のダンナ様はね、僕が子猫の時に重い病気で亡くなったんだ」
ニャン吉の意外な事情を聞いて、ニャン助とニャン蜜も暗い顔をしながら下を向く。
「ホントにゃ? ニャン吉、なんか変なことを聞いちゃってごめんにゃあ」
「ううん、いいんだよニャン蜜ちゃん。 八ニャン士の皆んなが僕の家庭のことを聞きたがってるのは、ずっと前から気づいていたから」
「ニャン吉、もう分かったよん。 これ以上そのことを話さなくていいよん」
ニャン蜜とニャン助は気になって話しをやめようとしたが、なぜかニャン吉はダンナ様の話を続けた。
「まだ子猫だった僕を猫上様がこの家に連れて来た時、ここのダンナ様は快く引き取ってくれた。 ここの家は元々貧乏だったけど、優しいダンナ様と奥様は僕のことをまるで子供のように大事に育ててくれたんだ」
「ダメ、ニャン吉。 もう泣いちゃうにゃあ」
「分かったん、ニャン吉。 もう話さなくていいよん」
「僕は元々体が小さくて、そしてとても体が弱い猫だったんだ。 だからここまで成長できたのは、優しいダンナ様と奥様のおかげなんだよ」
「分かったにゃ、分かったにゃあ」
ニャン助とニャン蜜は必死で話しを止めようとしたが、ニャン吉は立ち上がり演技をしながら話しを進めた。
「ある日突然ダンナ様が病気で倒れてしまったから、僕は看病の為にずっと病院へ通い続けたんだ」
「そうだったのかん。 それは悲しいなん」
「その時、ベッドに寝ていたダンナ様は僕に小さな知恵の輪を渡してくれたんだよ。 僕の体が弱くても、少しでも知恵がつくようにって」
「もう話しをやめるにゃん、ニャン吉!」
「ダンナ様の病気が治るようにと願いをこめて、必死で知恵の輪を外そうと頑張った。 でもその知恵の輪が外れることがなく、ダンナ様は死んでしまったんだよ」
「ダメ〜! ストップ・ザ・ニャン吉ぃ!」
ニャン吉にスポットライトがあたり、まるで舞台で演技をしているかのように話しエスカレートしていった。
「もっと早く知恵の輪が外れたなら、もしかするとダンナ様の病気が治ったかもしれない。 その悔しさから僕はどんなに難しい知恵の輪でも外すようになり、そして知恵の輪アスリートになったんだよ」
「うぁぁん! ニャン吉のバカァ!」
ニャン吉の意外な事情を聞いたニャン助とニャン蜜は、とうとう抱き合いながら大声で泣いてしまった。
「ニャン吉先生の知恵の輪には、そんな悲しいエピソードがあったなんてん」
「なんて悲しい話だにゃ。 もう今夜は眠れないにゃ」
「ここはお金がなくて貧乏でも、奥様は1人で僕のことを一生懸命に育ててくれたんだ。 この部屋にあるすべてのアイドルグッズはね、僕が毎日自転車で新聞配達して稼いだお金で買っていたんだよ」
「うぁぁん、それ以上言わないでぇ!」
ニャン助とニャン蜜は号泣する。
一方、3種の神器を取りに行っているニャン平は、村で人気の『ニャニャイロ XYZ』の新作DVDを見る為に8番地にある自分の家まで必死に走っていた。
ちなみに体の大きいニャン平は怪力猫であるが、走るのは亀のように遅い。
「ニャニャイロ、待ってろよぉ。 ああ腹減った!」
そしてやっと家にたどり着き、ニャン平は3種の神器を手に取った。しかし今からニャン吉の家に戻ったら日が暮れてDVDが見れないと思ったニャン平は、ニヤリと笑いながら目をキランと光らせた。
「よし、ここは秘密兵器だ。 この危機的状況を乗り越えるには『鉄平牛』を使うしかない!」
ニャン平は家は酪農をしており、牛舎には多くの牛がいた。その中でも一際大きく力強い牛が、ニャン平の秘密兵器の鉄平牛である。大事に育てきた鉄平牛にニャン平はまたがり、八ニャン剣をシュンと掲げながら叫んだ。
「行け、鉄平牛! 俺をパラダイスまで連れて行けぇ!」
「モーーーッ!」
「コラッ、ニャン平! お前は牛になんかまたがって、一体どこへ行くんだ?」
「すみません、ダンナ様。 今は大事な時なんで、鉄平牛をちょっとお借りしま〜す!」
ニャン平を乗せた鉄平牛は、猛スピードで里見村を走っていた。そのニャン平の姿を見た里見村の人々は、まるでお化けを見るかのように悲鳴を上げた。
「キャー! なにぃ、あの大きな牛と大きな猫はぁ?」
「そりゃそりゃそりゃあ。 そりぁ行けぇ、鉄平牛!」
「モーーーッ!」
ニャン平を乗せた鉄平牛は、まるでスペインの荒れ狂う闘牛のように走り去って行った。
一方深刻な話しをしていた3人は、ニャン吉の部屋で静かになっていた。
「毎日新聞配達をして遊ぶ時間が無かったから、僕は友達が1人もいないんだよ」
「ニャン吉、そんなことないにゃ。 八ニャン士の皆んなはニャン吉のことを仲間だと思ってるにゃ」
「そうだよん、ニャン吉。 俺たち猫アイドルオタクの友情は永久に不滅だよん」
それを聞いたニャン吉は、2人の嬉しさに目をウルウルとさせる。
「ありがとうニャン助くん、ニャン蜜ちゃん。 君たちは僕の猫アイドル友達だよ!」
「うぁぁん、猫アイドルだ〜い好き!」
今度は3人で抱き合いながら大声で泣いた。
3人で重たい話しをしているその時、仕事を終えたニャン吉の主人である奥様が家に帰って来た。
「ニャン吉、ただいまぁ。 今帰りましたよぉ」
「あ、奥様が仕事から帰って来た。 じゃあ皆んな、ニャニャイロのDVDはまた今度にしようね」
「いいにゃいいにゃ。 また今度にしようにゃ」
「今日はニャン吉の話しを聞けただけで十分だよん。 ニャン蜜ちゃん、帰ろうん!」
ニャン吉は家の玄関の前で大きく手を振りながら笑顔で2人を見送った。自分の家族のことを初めて友達に話したことが、ニャン吉はとても嬉しかった。ニャン助とニャン蜜は家に帰りながら、苦労しながら生きているニャン吉について話しをしていた。
「ニャン吉って偉いんだにゃあ。 新聞配達で稼いだお金で猫アイドルオタクをやってるなんてにゃあ」
「本当にそうだよねん。 ニャン吉の話を聞いてん、俺もこれから知恵の輪をやってみようかなん」
「そうだ、ニャン吉は知恵の輪を普及させる会のプラチナ会員って言ってたにゃ。 だったら苦労しているニャン吉の為に、知恵の輪を里見村の皆んなにもっともっと広げようにゃ!」
「ニャン蜜ちゃん、それはナイスアイデアん。 八ニャン士の皆んなにも広げようよん!」
「ハハハハ!」
ニャン蜜とニャン助は知恵の輪について話しが盛り上がり、笑いながらしばらく歩いていた。
すると、遠くの方からゴゴゴゴと地響きのような大きな音が聞こえて来た。それは土煙りを上げながら、ものすごいスピードで走っている1台のド派手な自転車だった。そして自転車に乗っている者は、気でも狂ったかのように大声で叫んでいた。
「うぉぉぉぉ!」
「ん? ニャン蜜ちゃん、あの土煙りは何だん?」
「奇声を上げて暴走する派手な自転車はにゃんだ?」
時間は少し前に遡る。
2人を笑顔で手を振りながら見送っていたニャン吉は、急に顔の色が変わって目と牙がキラリと光らせた。そして不気味な笑みを浮かべながら着ていた服を破り捨て、猫アイドルの3種の神器であるハチマキとハッピに着替え、ペンライトを頭のハチマキにさした。
そして家の小屋のシャッターがガラガラっと開くと、ニャン吉は猫アイドルオタク用に改造された自転車『ネコオタッキー』に飛び乗った。ネコオタッキーのボディーは眩しいくらいキラキラと派手に装飾され、サドルの後ろには『猫アイドルLOVE』と書かれた旗とラッパがついていた。
「行くぜぇ、ネコオタッキー! 今日は大事な猫アイドルのDVD発売日だぜぇ」
するとニャン吉の細くて短い足がムキムキと太くなり、ペダルを一気に漕ぎ始めた。そして旗をなびかせながら、ド派手な自転車を全速力で走らせた。
ニャン助とニャン蜜が見た暴走している自転車とは、さっきまで一緒にいたあのニャン吉先生だった。普段は小声で大人しいあのニャン吉とは、まるで別人のように顔も体も豹変していた。
「うぉぉぉぉ! まったく、あいつらぁ!」
「あれ? あれはニャ、ニャン吉先生?」
「ちょっと、これはどういうことだにゃ?」
「今日は猫アイドル『ニャンケービー99』の新しいDVD発売日なんだよ。 これじゃあ時間に間に合わね〜じゃねえかぁ! うぉぉぉぉ!」
説明しよう。
いつも小声で大人しいニャン吉だが、自分がまだ持っていない猫アイドルのDVDやグッズを見ると恐ろしく豹変してしまう性格だった。特に大事なDVD発売の日は、かなり豹変してしまうという二重人格なのだ。
「うぉぉぉ! ったくあいつらぁ、いつまでも俺の家でダラダラダラダラしやがってぇ! だから俺はあいつらを家に上げたくなかったんだよぉ! パフッパフッ!」
豹変したニャン吉は大声で叫び、自転車のラッパを鳴らしながらハイスピードでどこか遠くへ消えて行ってしまった。それを見ていたニャン助とニャン蜜は、目は点になり絶句していた。
「うん・・・今のは見なかったことにしよう」
一方大きな鉄平牛に乗ったニャン平は、やっとの思いでニャン吉の家へ戻ってきた。
「はぁはぁ、やっとニャン吉の家に着いたぜぇ。 ニャニャイロ〜、待たせたなぁ!」
すると家の玄関からニャン吉の奥様が出てきて、軽い声でニャン平に言った。
「あら〜ニャン平くん、もう皆んな帰って今は誰もいないわよ? ってか、その大きな牛は何?」
「ガーン! ああ腹減った!」
ニャン平はあまりにもショックが大きすぎて、口から泡を吹きながら倒れてしまった。
あの小声で大人しいニャン吉くんが、実は猫アイドルのことになると豹変してしまう二重人格でした。
八ニャン士の皆さん、猫アイドルDVD発売日の時はニャン吉くんに気をつけましょうね。
ショックで倒れたニャン平くんは、鉄平牛の背中に乗ってトボトボと家に帰ったそうですよ。
次回「礼の巻」をお送りします。
セクシーニャン子とキューティーニャン蜜の女猫の闘い?
お楽しみニャン!