第5話 義の巻
『義の玉』を持つ八ニャン士のニャン吉。
里見村2番地にある小さい古民家に住んでいる。
小柄で声が小さく、比較的大人しい。 ケンカが大嫌いで、すぐ家に帰りたがる。
趣味は猫アイドルオタクで、猫アイドルのDVDコレクターでもある。
背中に星の模様がある。
ある日のこと、ニャン助とニャン蜜とニャン平の3人は整列して歌を歌いながら歩いていた。緊張感などまるで無いその姿は、もはや里見村を守る猫剣士とは全く思えない。
「プ〜ルプ〜ルニャンニャンニャン♪ 私のシッポでアイラブニャン♪」
八ニャン士が歌っているこの歌は、村で1番流行っている『シッポで告っちゃって♡』である。
3人はご機嫌に歌いながらニャン吉の家にやって来て、何の恥じらいもなく大声で叫ぶ。
「ニャ~ン吉せんせ〜い!」
すると家の2階の窓からニャン吉がひょっこりと顔を出し、いつものように小さな声で囁いだ。
「やぁ、君たち。 また来たんだね」
「にゃにゃ、声小っちゃいにゃん」
「ニャン吉先生、またアレをお願いしますよん」
「俺はもう待てないっす。 ああ腹減った!」
実はこの4人の八ニャン士は、猫アイドルの大好きグループ『猫アイドルオタク』である。猫アイドルとは猫が多い里見村で活躍している猫のアイドルのことで、この3人は定期的にニャン吉の家に集まり、猫アイドルの歌やダンスについて熱く語り合っていた。
特にニャン吉は猫アイドルオタクを極めている為、皆んなはニャン吉のことを『ニャン吉先生』と崇拝している。
「ねぇ、皆んな。 いいかげん『ニャン吉先生』ってやめてくれる? 僕、とっても恥ずかしいんだけど」
「にゃあに言ってるの、ニャン吉先生! 恥かしがらないで早く家に入れてにゃ」
「ニャン蜜ちゃん、分かったよ。 でも夕方にはご主人様が帰ってくるからそれまでならいいけど、それでもいいかな?」
「オッケーン。 夕方までなら大丈夫でしょん!」
「ダイジョブデスデス、ニャンペイデス!」
「じゃあ皆んな、家に上がって来て」
「ヤッホ~!」
里見村2番地にあるニャン吉の家はやや古めの木造の建物で、正直あまり裕福な家庭ではなく、主である奥様と2人暮らしをしていた。それを他の八ニャン士は何となく気にはなっていたが、ニャン吉の家庭の事情は誰も話そうとはしなかった。
猫アイドルオタクの3人はそんな古い家を遠慮なくドタバタと入り、ニャン吉の部屋へ急ぎ入る。そしてニャン吉の部屋の扉をバタンと開くと、そこにはあらゆる猫アイドルのポスターやフィギュアやDVDがたくさんあった。
「おおお! ゴートゥーヘブン!」
ニャン吉の部屋は猫アイドルオタクたちにとって、まるでパラダイスのような聖地なのである。
「毎回毎回ここに集まって、皆んなもよく飽きないね」
「ニャン吉先生、俺は毎日でもここに来るっす」
「ニャン平くん、毎日は来なくていいから。 ところで皆んな、今日は何のDVDが観たいの?」
「やっぱりん、アレアレっすかねん」
「アレだにゃ、アレアレにゃんにゃん!」
「アレアレって・・・これだね」
ニャン吉がDVDコレクションの棚から取り出したのは、今里見村で1番人気の猫アイドル『ニャニャイロXYZ』の新作DVDだった。
「出たぁ、ニャニャイロの新作DVDだよ~ん!」
ニャン吉が持つDVDが太陽の光りでキラキラと輝くと、それを見たニャン蜜とニャン助とニャン平の目もキラキラと光り輝いた。
「さすがぁニャン吉先生、購入が早いにゃあ!」
「俺は楽しみを通り越して腹が減って、昨日の夜も眠れなかったっす」
ニャン吉はDVDを高く持ちながら、普段なかなか見せないドヤ顔でフッと笑う。
「フフフ、今回のDVDはすごいよ。 なんせニャニャイロのメンバー1人1人のインタビュー付きだからね」
光り輝くDVDを見た3人は、ニャン吉をまるで神を見ているかのように拝んでいた。
「ニャン吉先生、それはすごいっす。 俺、鼻血が出るっす」
「見たいにゃ、見たいにゃ、見たいにゃあ!」
「ニャン吉先生、早くDVDを見ようよ〜ん!」
しかしさっきまで笑顔だったニャン吉の顔が急に変わり、そのニャニャイロのDVDをスッと棚に戻す。
「やっぱりや〜め〜た」
ニャン蜜とニャン助とニャン平 コケる。
「へ、どうしてなん?」
「そんなぁ、殺生だにゃ!」
「頼むっす、ニャン吉先生!」
「だってこれはかなりレアなDVDだからねぇ。 そう簡単には皆んなに見せれないよ」
するとニャン吉は急に後ろを振り向き、3人に背中を見せながら不気味に笑った。
「フッフッフ! では今日君たちに、僕が愛する『知恵の輪』をやってもらおうかな?」
「へ? 知恵の輪?」
ニャン蜜とニャン助とニャン平 目が点になる。
ニャン吉の部屋には猫アイドルグッズだけではなく、知恵の輪大会の賞状やトロフィーが数多く飾られていた。猫アイドルのことしか頭にない3人は、そのことに全く気づいていない。
「僕はね、実は知恵の輪大会で何度も優勝をしている知恵の輪アスリートなんだよ。 そして『知恵の輪を普及させる会』のプラチナ会員でもあるんだ」
「知恵の輪を普及させる会って何?」
「プラチナ会員って、そんなに偉いのかにゃ?」
「そもそも知恵の輪アスリートってあるん?」
そしてニャン吉はまたドヤ顔をしながら、キランと1つの知恵の輪を取り出す。
「この知恵の輪を外した者だけに、ニャニャイロの新作DVDを見せてあげようではないか!」
「うっ! 普段は小声で大人しいニャン吉なのに、なんてえげつないヤツっす」
「知恵の輪なんてん、そんなのしばらくやってないから分かんないよん」
「恐るべしだにゃあ、ニャン吉先生」
「それじゃあ皆んなで知恵の輪をやろうねぇ。 知恵の輪を普及させる会のプラチナ会員の僕は、皆んなが知恵の輪をやってくれるなんてとても嬉しいよ」
ニャン吉はそう言って珍しくニコニコしながら、知恵の輪を1人1人に渡していった。
「へ? 今からこの知恵の輪をやるのん?」
「そうだよ、ニャン助くん。 でもこの知恵の輪は初心者用で、知恵の輪レベル100のうちレベル2くらいだからとても簡単だよ」
「ちにゃみに、ニャン吉先生はにゃにレベルにゃ?」
「そうだなぁ、今の僕はレベル93くらいかな?」
その数字を聞いた3人は意味もなく驚く。
「ギョエ〜、レベル93! そのレベルが凄いんだか凄くないんだか、よく分からんっす」
そんな3人のリアクションを無視して、ニャン吉はタイムウォッチを掲げていきなり知恵の輪を開始した。
「タイムは10分間だよぉ。 はい、スタート!」
急にスタートと言われたニャン蜜とニャン助とニャン平は、慌てて知恵の輪を外し始めた。
「にゃにゃにゃ。 いきなりスタートかにゃん!」
「ヤバイヤバイ。 どうしよん、どうしよん!」
慌てながら知恵の輪を外すニャン蜜とニャン助だが、余裕のニャン平は笑いながら叫んだ。
「ガッハッハ! こんなヘナチョコ知恵の輪なんぞ、俺様の力で・・・ウォォ!」
「あ、ちなみにニャン平くん。 その知恵の輪を強引に曲げたりしたら即アウトで退場だよ」
「あ、バレたっす。 俺は細かい作業が苦手っす」
八ニャン士の中で体が大きいニャン平は、里見村で1番の怪力猫である。しかしニャン吉に叱られたニャン平は、大きい体を小さくしながら知恵の輪を始めた。
しばらくして、ニャン助とニャン蜜は何とか知恵の輪を外した。
「よし、俺の知恵の輪が取れたよん!」
「あ、私も知恵の輪が取れたにゃ。 にゃんだか、意外と簡単だったにゃん!」
「ニャン蜜ちゃんとニャン助くんは合格。 残るはニャン平くんだけだね。 5・4・3・・・」
カウントダウンに焦ったニャン平は、顔を真っ赤にしながらやっと知恵の輪を外した。
「ウォォォ! よし、俺も知恵の輪が取れたっす!」
「あれあれ? 何だかニャン平くんの知恵の輪が曲がってない? ひょっとしてズルしてない?」
ニャン吉とニャン蜜とニャン助 冷たい目で見る。
「ノーノーノー!」
ニャン平は首をブルブル振りながら、慌てて知恵の輪を体の後ろに隠した。
「ま、いいか。 今日は知恵の輪やってくれてありがとう。 では皆んなでニャニャイロのDVDを見ようか」
「ヤッホー!」
「ところで、いつものアレを持ってきたよね?」
「ニャン吉先生、もちろん持ってきたにゃ。 いつもの3種の神器だにゃん!」
ニャン蜜が言っている3種の神器とは、猫アイドルの応援には欠かせない『ハチマキ・ハッピ・ペンライト』のことである。ニャン吉の家でDVDを見る為に必要なこの3種の神器は、猫オタクにとって必ず守らなければいけない鉄の掟だった。
そして早速ニャン吉とニャン蜜とニャン助はその3種の神器を身につけ、ドヤ顔をしながら猫アイドル応援スタイルになった。
「猫アイドルオタク! 準備オッケー!」
しかし、ニャン平だけが大きい体を小さくしながらモジモジしている。
「あ、ごめんっす。 3種の神器忘れちゃったっす」
ニャン吉とニャン蜜とニャン助 コケる。
「はいアウト。 ニャン平くん、それは猫アイドルとして失格だね。 この部屋から退場してもらおう」
「ガーン! ニャン吉先生、かんべんしてっす」
怒り狂ったニャン助とニャン蜜は八ニャン剣をシュンと抜き、ニャン平に向かって大声で叫んだ。
「お前何やってんだよん。 3種の神器は持って来ないし、知恵の輪はグニャグニャ曲げちゃうしん。 早く家に帰って取ってこいよん!」
「もぉ、ニャン平ったら。 私は早くニャニャイロの新作DVDが見たいにゃあ!」
「すまんっす! 謝るから八ニャン剣は出さないでくれっす。 今すぐ取ってくるからちょっと待ってくれっす!」
ニャン平は慌ててニャン吉の家を飛び出し、もの凄いスピードで走って行った。
ちなみにニャン平の家は里見村で1番遠い8番地にあるから、ニャン吉の家がある2番地からほど遠い。
「あぁあ。 ニャン平くんの家は遠いから、DVDを見るのは随分と遅くなってしまうね」
「ったく、ニャン平は一体何やってんだよん!」
「まぁまぁ、ニャン助もいつまでもニャン平のこと怒らにゃいでにゃ。 それにゃらばぁ・・・」
怒っているニャン助をなだめながらニャン蜜は急にマイクを取り出し、突然可愛いアイドルの洋服に着替えて歌い出した。
「ニャン平が来るまで〜 ♪ 可愛いニャン蜜ちゃんの歌でも〜♪ 聞きたい人いるかにゃあ〜♪」
「いや、ニャン蜜ちゃんそれはちょっと待って!」
ニャン蜜が歌おうとすると、ニャン吉とニャン助はそれを必死で止めた。なぜなら猫アイドルに憧れているニャン蜜は歌うことが大好きなのだが、実はものすごく音痴なのである。
「ニャ~ニャニャニャ~♪ ニャ~ニャニャニャ~♪」
ニャン蜜が歌いながら勝手に踊り出すと、ニャン吉とニャン助は急いで耳を塞ぐ。
「ニャン蜜ちゃん・・・もう結構です」
「へ? ニャンで?」
知恵の輪を曲げたり3種の神器を忘れるなんて、今日は何やってもダメダメなニャン平くんでしたね。
はたしてニャン平くんは夕方までに戻って来て、皆んなでDVDを見れるんでしょうか?
ちなみに『知恵の輪を普及させる会』を調べてみたら、今のところ里見村だけみたいですよ。
次回「変の巻」をお送りします。
ええ? 実はニャン吉先生にもう1つ秘密が?
お楽しみニャン!




