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里見八ニャン伝  作者: ワタベミキヤ
猫剣士立志編
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第4話 正の巻

急に家を出て行った村長の娘の伏夜を探す為に、ニャン太郎の家にはニャン丸とニャン子とニャン斗が集まった。


伏夜を探すはずの八ニャン士だったが、いつの間にか宿敵の大和田村の近くまで来てしまった。


そして橋の向こう側から、大和田村の怪しい狸たちがやって来た。


里見川の河川敷には何やら不穏な空気が漂っていた。しばらく八ニャン士と4人の怪しい狸がお互い睨み合うと、ガラの悪い1人の狸が声を上げた。


「ヒッヒッヒ。 おい、里見村のクソ猫ども! 俺たちの縄張りで一体何やってるんだよ?」


狸から言われたニャン丸の髪が逆立った。相手から売られたケンカを、あの極悪非道のニャン丸が黙っているはずがない。


「縄張りだぁ? この河川敷は里見村のフリースペースだから誰のものでもねぇだろ、コラッ!」

「バァカ。 俺たちがいる所が俺たちの縄張りなんだよ、このチンピラ猫!」

「チ、チンピラ猫だぁ? さっきらか毒グモ猫男だのチンピラ猫だの、ふざけたこと言いやがってぇ!」


するとニャン太郎は気が短いニャン丸の体をおさえて、慌ててケンカを止めに入った。


「ニャン丸、ケンカはやめて! 大和田村の狸の皆さん、今僕たちは人を探しているんです。 私の家人である伏夜様が、そちらの村に行ってないでしょうか?」

「伏夜だぁ? さぁな、誰か食っちまったんじゃねぇのか? ヒッヒッヒ!」


狸から大笑いされバカにされたニャン丸は怒り狂う。


「おい、大和田の狸ども。 俺様が怒らねぇうちに、さっさと村に帰るんだな!」

「はぁ? お前が家に帰ってろ、バァカ」

「もう我慢できねぇ、狸ども全員ぶっ殺してやる!」


怒りが収まらないニャン丸は八ニャン剣をシュっと抜くと、声を上げながら4人の狸に飛びかかった。


「うおおお、俺様の八ニャン剣をくらえぇ!」

「ヒッヒッヒ。 そんなお前のヘナチョコ模造刀など、俺たちに当たるワケねぇだろ!」


ニャン丸は必死で剣を振り回したが、4人の狸にあっさりとかわされてしまう。


「今度は俺たちの番だぜ。 ヒッヒッヒ!」


4人の狸たちは長い縄がついている酒壺をグルグルと振り回し、八ニャン剣で向かってくるニャン丸を攻撃した。狸の激しい酒壺の攻撃に耐えきれないニャン丸は、とうとう傷ついて倒れてしまった。


「く、くっそぉ!」

「ヒッヒッヒ、それで里見村で一番の暴れ猫かよ。 意外と大した事ねぇな!」


すると今度はニャン子が前に出て、狸を睨みながら仁王立ちしていた。


「ちょいとアホ狸のお前さんたち。 あんまりあたいらをナメんじゃないよ!」

「おっと、こちらのセクシーな女猫ちゃん。 逆に俺たちがお前をナメてやろうか? ヒッヒッヒ!」

「ピクッ、イラッ! これでもくらいなっ!」


実はニャン子もニャン丸に似て、少々短気なところがある。怒ったニャン子は4人の狸に向かって、得意の飛び蹴りを連発した。


「いよ〜っ! ほれほれ、ほれ〜!」

「ヒッヒッヒ、セクシーで美味しいそうな白い足だなぁ。 皆んなで食べちゃえぇ!」


4人の狸は鋭い歯でニャン子の足に嚙みついた。


「イタタタ、あたいのセクシーな足を食べるんじゃないよ。 このエロダヌキがぁ!」

「ヒッヒッヒ。 セクシーな女猫ちゃんを大和田村に持ち帰って、皆んなで食べちゃうぞ!」


ニャン丸とニャン子が狸たちにやられているのを見ていたニャン斗は、オロオロしながら震えていた。自称イケメンのニャン斗は、平和主義者でケンカが嫌いな猫なのである。


「もう、皆んなやめようよぉ。 このイケメンニャン斗さんはケンカが嫌いなんだよぉ」

「自分でイケメンって、このヒョロヒョロした猫は何だ? お前は超キモいんだよ! ヒッヒッヒ」


すると、狸にキモいと言われたニャン斗ブルブルと体が震えながら顔が豹変し、目が鋭く光った。


「キ、キモイだとぉ? てめぇら誰に向かって言ってんだ、このヤロウ!」


ニャン太郎とニャン丸とニャン子 目が点になる。


「へ? イケメンニャン斗くんが豹変した?」


説明しよう。

村1番のイケメンを売りとしているニャン斗だが、『キモい・ブサイク』を言われると体が豹変し、まるで別人になるという二重人格であった。


「キモいはテメェらだぁ! ぶっ殺してやる」


突然怒り狂ったニャン斗は八ニャン剣をシュンと抜き、叫びながら狸に襲いかかった。それは普段穏やで平和主義者であるニャン斗とは違い、ものすごいスピードとパワーだった。


「なんだ、こいつは? さっきのヒョロヒョロ猫とは違うじゃねぇか」

「俺は村で1番イケメンのニャン斗様なんだよ!」

「よし、こうなったらアレでやっつけてやる!」


意外な攻撃に慌てた4人の狸は丸いお腹を大きく膨らませ、ニャン斗を四方八方に挟んで押しつぶした。狸の丸いお腹でまったく身動きが取れないニャン斗は、気を失いそうになっていた。


「く、苦しい。 それ以上押しつぶすと、僕のイケメンが台無しになるからやめてくれぇ」


ニャン丸とニャン子とニャン斗は必死で闘ったが、4人の狸にあっさりとやられてしまった。1人でオロオロしているニャン太郎は、八ニャン士を連れて村へ帰ろうとしていた。


「だ、大丈夫? 皆んな!」

「ヒッヒッヒ、里見村の猫なんて弱い弱い。 これじゃあ全く相手にならねぇよ」

「皆んな、ケンカはやめようよ。 伏夜様を探しに皆んなを誘った僕が悪いんだから、早く里見村へ帰ろう。 だから大和田村の狸さんたちもやめて下さい」

「ああ、早く帰れ帰れ。 どうせお前ら猫たちは、昔から悪者なんだからな。 ヒッヒッヒ!」


その時、狸の『悪者』という言葉でニャン太郎の耳がピクリと動き、目が鋭く光った。


「なぁにぃ? おい狸ヤロウ、今何て言ったぁ?」

「何だ何だ、こいつ? こいつまで豹変するのか?」


ニャン太郎はライダーや戦隊のヒーローに憧れている為、自分が悪者になるのは絶対に許せないのである。プライドを傷つけられたニャン太郎は怒りが込み上げ、ブルブルと体が震え髪の毛が逆立った。


「この僕が・・・ヒーローのこの僕が悪者だとぉ?」


ニャン丸とニャン子とニャン斗 目が点になる。


「あれ? いつもキラキラしたニャン太郎くんはどうしちゃったのかな?」


ニャン太郎は八ニャン剣を高く掲げた後で前に振り下ろし、狸たちに向かって声高く叫んだ。



「我ら里見八ニャン士!

   里見村を汚すお前たちを絶対に許さない! 

              正義は僕たちだぁ!」



それを見た狸たちは口をポカンと開けていた。


「へ?」


しかしニャン太郎は、自分で言った決めセリフに深く感動して泣いていた。


「ジーン、決まった。 正義のヒーローの僕はやっぱりカッコいい!」


ニャン丸とニャン子とニャン斗 ポカンと口を開ける。


「なんだかお前だけピントがズレてね?」

「はぁお前さん、エライことやっちまったね〜」

「僕よりニャン太郎くんの方がクセ強いと思うよ」


ニャン太郎のバカバカしいパフォーマンスを見た狸は、だんだんイライラして爆発した。


「何だかいろいろめんどくせぇヤツらだ。 あの猫どもを全員やっちまえ!」


他の八ニャン士も立ち上がり、八ニャン剣をシュンと抜いて叫んだ。


「上等だぁ、皆んなクソ狸どもをやっちまえ!」

「うあああ!」


こうして八ニャン士と4人の狸の激しい闘いが始まった。


ニャン丸とニャン斗はシュンシュンと八ニャン剣を振り回し、ニャン子は連続で飛び蹴りをした。

ニャン太郎はまるで満月のように円を描きながら剣を回し、怪しい狸を上から素早く斬り裂いた。


「必殺、ニャン太郎満月斬り!」

「ギャアアア!」



1時間後。夕陽が山の向こうに落ちようとしていた頃、八ニャン士はトボトボと歩きながら里見村へ帰っていた。


「あのクソ狸たちめ、今度会ったら絶対ぶっ殺してやる! イテテテ」

「あのエロダヌキは何であたいのセクシーな足ばかり嚙りやがるんだよ〜! イタタタ」

「だから僕はケンカが嫌いなんだよ。 イケメンの僕の顔が台無しじゃないかぁ。 トホホホ」


大和田村の狸に散々やられた八ニャン士は、服も体も激しく傷ついてヨロヨロと歩いていた。


「皆んな、僕の為にゴメンね。 始めは伏夜様を探しに出かけたのに、何か変なことになってしまって」

「ところでニャン太郎、あの満月斬りって何だよ?」

「へへへ、僕の必殺技はまだまだいっぱいあるんだよ。 今度皆んなに見せてあげるよ」


ニャン太郎が爽やかな笑顔で言うと、ニャン丸とニャン子とニャン斗は嫌そうに首をふる。


「ニャン太郎、それは結構です」


するとニャン丸は顔の傷をおさえながら、急に狸の闘いのこと思い出した。


「それにしてもあのクソ狸たち。 俺たちと闘っている途中で『5時になったから晩御飯の時間だ!』なんて言って、さっさと大和田村に帰って行きやがった」

「まったく、本当にスケベでふざけた狸たちだよ〜。 今度会ったら連続飛び蹴りしてやる」

「だいたいさぁ、晩御飯が5時ってちょっと早くないかい? 狸さんって何を食べるんたろうねぇ」


いろいろグチを言っている八ニャン士だが、なぜかニャン太郎だけがニヤニヤしていた。


「フフフ、でも僕は嬉しいなぁ。 何だかんだ、あの狸たちを大和田村へ追い返したんだ。 僕たちは里見村を守ったヒーローなんだね!」

「だからお前のキラキラしたのは俺は大嫌いなんだよ」

「またこうして八ニャン士の皆んなで集まって、里見村のヒーローになろうね!」


ニャン丸とニャン子とニャン斗は、また嫌そうに首を振る。


「ニャン太郎、それも結構です」



すると、向こう側から家を出た伏夜が機嫌よく鼻歌をしながら歩いて来た。


「ああっ、伏夜様!」

「あらぁ、ニャン太郎じゃない! あと八ニャン士の皆んな、どうしたのそのケガ?」

「どうしたもこうしたもないですよ! ダンナ様から伏夜様が家出をしたから探してくれって頼まれて、八ニャン士が一緒に探してくれたんです!」

「家出? 私が? 私はただスーパーに行って、夕飯の買い物をしただけよ?」

「だって伏夜様の手紙に『家でします』って?」


ニャン太郎が出した手紙を読むと、伏夜は声高らかに腹を抱えて笑った。


「ハハハ、それは違うわよ! その家でしますって『家でご飯を食べます』っていう意味なのよ」

「へ?」

「お父さんが『今日お前は外で食べるのか?家で食べるのか?』ってあまりにもしつこいから、わたしは家でしますって手紙に書いたのよ」

「えええ!」


八ニャン士 コケる。


「な〜んだ! この手紙ってそういう意味だったんですかぁ。 ずっとおかしいって思っていたんですよ」

「もうお父さんったら早とちりしてぇ。 だからニャン太郎、早く家に帰って夕飯にしましょ。 八ニャン士の皆んなも、じぁあね。 フ〜フフ〜フ〜♪」


伏夜はまた機嫌よく鼻歌をしながら歩いて行った。

手紙の真実を知ったニャン太郎は、後ろから八ニャン士の冷たい視線を感じる。


「ハハハ、皆んなゴメンね。 また八ニャン士でヒーローになろうね!」


「おい、ニャン太郎! いいかげんにしろ!」

何ともお騒がせなニャン太郎くん、いや1番ややこしいのは伏夜さんでしたね。


今回は大和田村の狸たちに惨敗した八ニャン士ですが、本当にこれから里見村を守れるでしょうか?


ここだけの話、あの後ニャン太郎くんは皆んなからボッコボコにされたそうですよ。


次回「義の巻」をお送りします。

あの小柄で小声のニャン吉が『ニャン吉先生』って、どういうこと?


お楽しみニャン!

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