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里見八ニャン伝  作者: ワタベミキヤ
風神雷神編
29/37

第8話 速の巻

風ニャン神によるスピード強化の修業は、いよいよ大詰めを迎えようとしていた。


これまでの稽古でニャン吉の走るスピードが速くなり、ニャン蜜の聴覚もパワーアップして的確に指示ができるようになっていた。


そして風ニャン神と八ニャン士は再び山頂へ戻り、これから恐ろしい稽古を始めようとしていた。

八ニャン士が横一列に並んでいる前に風ニャン神が腕を組みながら立っていると、なぜかそこには緊張感が漂う空気となっていた。そして風ニャン神はニヤリと笑い、最後の稽古について説明をした。


「フフフ。 スピード強化の最後の稽古は、実戦をイメージしながら剣術の稽古を始めるよ」

「へ? 今までの稽古も充分実戦的だったと思いますけど、これからもっと何かあるんですか?」

「ニャン太郎くん。 あれはまだまだ予行演習で、これから本番の稽古かなぁ」

「あれの稽古が予行演習かよ。 俺たちはこの稽古でマジで殺されちゃうのかな?」


最後の稽古に怖がっているニャン丸に、風ニャン神は大声で笑った。


「ハハハ! ニャン丸くん、さすがに殺しはしないよ。 お互いの頭の上にのせた風船を剣で叩き割る『風船スイカ割り』をやるだけさ」


爽やかな口調で残酷な話しをする風ニャン神に、八ニャン士は苦笑いしながら顔を引きつっていた。


「ハ・ハ・ハ。 頭にのせた風船を剣で叩き割るって、それは確実に死にますよね?」

「大丈夫だよ。 そして僕の風船を割ることが出来たなら、それでこの修業はすべて終了だよ」


今までの修業で全くご褒美を貰えないニャン蜜は、不貞腐(ふてくさ)れながら少しスネていた。


「風ニャン神様が強すぎて、全然ご褒美が貰えないにゃいよぉ。 もうダメなのかにゃあ」

「ニャン蜜ちゃん、僕の風船を割ったらほっぺにチューのご褒美があるよ。 それにニャン蜜ちゃんは可愛いから、次の稽古はちょっと優しくしてあげるね!」

「やったぁ♡ 私がんばるにゃん♡」


今度はニャン吉がモジモジと小声で言った。


「あのぉ師匠? 僕のご褒美はあるんですか?」

「もちろんニャン吉くんにはDVDをあげるよ。 しかも、もう一枚ついてくるボーナスチャレンジだ!」

「よしゃあ、DVD2枚ゲットだぜぇ! 次こそは絶対俺が勝ってやるぜぇ!」



そして、いよいよ風ニャン神の『風船スイカ割り』の稽古が始まった。


「ではぁ、八ニャン士風船スイカ割り始めっ!」


そう言いながら、風ニャン神はまたいつものように不意打ちでニャン太郎とニャン丸を殴ろうとした。しかし先を読んでいた2人は、風ニャン神の攻撃を八ニャン剣で受け止めた。


「フフフ。 やっと君たちも不意打ちに気がついて、僕の攻撃に追いついたみたいだね」

「さすがに師匠から何度も不意打ちで殴られると、イヤでも体が反応しますよ」

「へへへ、俺ももうこれ以上ボコボコやられたくねぇからな。 師匠、そろそろ反撃させてもらいますよ」

「2人ともその調子だ。 実はニャン太郎くんとニャン丸くんには、その『殺気(さっき)』というのを伝えたかったんだよ」

「殺気?」


ニャン太郎とニャン丸には意味が分からなかった。


「フフフ。 殺気というのは戦いの時にはすごく重要で、猫剣士というのは常に研ぎ澄まされた心がないと強くなれないんだよ。 だから普段の生活の時でも、すぐに剣を抜けるように心構えはしておいてね」

「意地悪な師匠の不意打ちには、そういう意味があったんですね。 師匠、分かりました!」


そして風船割りの稽古が始まると、さっそくニャン太郎が風ニャン剣で風船を割られて頭を殴られた。


「ギャ〜、頭イテ〜!」

「ニャン太郎くん、まだまだ隙があるね。 君は剣術が得意なはずだから、剣の無駄な動きを無くすんだ」

「イタタタ、剣は風を切るように円を描くんですね! それが難しいんだよなぁ」


性格の悪いニャン丸は、風ニャン神にいきなり砂をかけて風船を割ろうとした。しかしそれに怒った風ニャン神から大きな岩が飛んでくると、ニャン丸は必死で逃げていた。


「まったくニャン丸くんはいきなり砂なんかかけてくるなんて、いつもそんな汚いマネをするんだね。 君はその悪い性格からなおした方がよさそうだな」

「何言ってるんですかっ! 大きい岩を平気で投げ飛ばすあなたに、そんなこと言われたくないです! 本当にメチャクチャ性格悪い師匠だよ」


この風船スイカ割りの稽古は、食事している時も寝ている時も毎日24時間続いた。風ニャン神からいつどこで風船が割れるかもしれないという緊張感が毎日続く為、実は体力や精神的にもキツい地獄のような稽古だった。


ニャン吉が食事している時、風ニャン神が後ろからそっと近づいて風船を割った。


「ニャン吉くん、食事をしている時も油断しないでね」

「痛ぁい。 いくらなんでも、食事の時に風船を狙うなんてもうイヤだぁ! 僕は家に帰りたい」


そしてニャン蜜がスヤスヤ寝ている時に、風ニャン神がそっと近づいてデコピンした。


「はい、ダメェ。 可愛いニャン蜜ちゃんは風船割りじゃなく、デコピンでお仕置きだよ」

「いや〜ん、風ニャン神様ぁ♡ でも風ニャン神様だったら、いつでもデコピンされたいにゃあ♡」


こんな調子で風船スイカ割りの稽古が最終日まで続いていた。過酷な稽古でかなり疲労してきた八ニャン士は、なかなか風ニャン神の風船を割ることが出来ず苦戦していた。

風ニャン神は再び八ニャン士を集めて、今回の稽古について改めて説明した。


「さぁ皆んな、いよいよ今日が最終日だね。 君たちはなかなか僕の風船を割ることが出来ないけど、実はこれにはもう一つ目的があるんだよ」

「もう一つ目的? それはどういうことですか?」

「風船スイカ割りの本当の目的はただ風船を割ることだけではなく、剣の稽古をしながら君たちの体力を消耗させたかったんだよ」


八ニャン士 目が点になる。


「へ? 体力を消耗することが稽古なんですか?」

「誰だって最初のうちは体力あっても、長い戦いになると当然体力が消耗するでしょ? 気が抜けない実戦では、疲れてきてからの体力が1番重要なんだよ」

「確かに、ただでさえ体力が無い俺たちだもんな」

「フフフ、でも君たちは1週間前より少しは体力がついてると思うよ。 そろそろ背負っている重たい石を降ろして、パワーリストとパワーアンクルを外してごらん」


パワーリストとパワーアンクルとは、バンドの中に重り(おもり)が入っているトレーニングツールである。修業が始まる前、ニャン太郎とニャン丸には両腕に5kgのパワーリスト、そしてニャン吉には両足に5kgのパワーアンクルをつけてられていた。しかも重たい石を背負いながら鬼ごっこや空中戦ブランコの稽古をしていた為、八ニャン士は知らないうちに体が鍛えられていたのだ。

風ニャン神に言われるがまま重たい石を下すと、軽くなった体に八ニャン士は驚いた。


「うわぁ! なんか重たい石とパワーリストを外したら、物凄く体や腕が軽いよ」

「へへへ、あと何かパワーもついたような気がするぜ。 これなら早く八ニャン剣も触れそうだ!」

「俺もなんか足が軽くなって、これならもっと早く走れる気がするぜ! 早く家に帰りてぇ!」な

「確かに体は軽くなったけど、可愛いニャン蜜ちゃんはムキムキになりたくにゃい!」

「ニャン太郎くんとニャン丸くんはパワーリスト、そしてニャン吉くんはパワーアンクルを普段の生活でもずっとつけておいてね。 そして戦いで体力が消耗した時にこれを外すと、早く剣を振り回したり走ることができるよ!」


ニャン太郎とニャン丸とニャン吉は喜びながら風ニャン神に拍手する。


「おおブラボー! 風ニャン神師匠、ガーサスです!」


そして風ニャン神はニヤリと笑い、ニャン蜜の方に向かって爽やかに言った。


「さぁて、最後は八ニャン士の軍師であるニャン蜜ちゃんの出番だよ!」

「え? 何で私にゃん?」

「今日は最終日だから、これから君たちと僕とで一騎打ちしようじゃないか! 八ニャン士軍師のニャン蜜ちゃんには10分与えるから、どうやったら僕の風船を割ることができるか作戦を考えてごらん」


風ニャン神から課題を与えられたニャン蜜はしばらく考えると、何かの策がひらめいた。


「ひらめいた! ちょっと皆んな、集まってにゃん。 私が考えた策はにゃ、ボソボソボソ・・・」

「へへへ、ニャン蜜それはいい考えだぜ」

「女軍師のニャン蜜ちゃん、いつも頼りにしてるよ」

「よし、それで行こうぜ。 早くDVDが欲しい!」


コソコソ話しをしている八ニャン士を見て、風ニャン神は腕を組みながら笑った。


「フフフ、君たちは一体何をたくらんでいるんだい?」



風ニャン剣を構えている風ニャン神に向かって、まず最初にニャン蜜が大声を出しながら走った。ニューハーフで力の無いニャン蜜でも、重い石を外したことで前より速く走ることが出来た。


「いやぁぁぁ、風ニャン神様ぁ。 覚悟だにゃあ!」


すると走るニャン蜜の背後に隠れていたニャン丸が飛び上がり、空中から風ニャン神の風船を襲った。しかし、ニャン丸の上からの攻撃は風ニャン神にバレていた。


「おりゃあああ、師匠の風船は俺がもらったぁ!」

「フフフ、バレバレだよ。 ニャン丸くん、そんな子供騙しにこの僕が倒せるかな?」


風ニャン神がニャン丸の風船を殴ろうと上を向いていたその時、大きな岩に隠れていたニャン太郎が下から風船を襲った。


「師匠ぉ、その風船は僕がいただきます!」


パワーリストを外したニャン太郎とニャン丸は今までより見えないくらいのスピードの剣さばきで、2人で風ニャン神の風船を襲った。しかしニャン太郎とニャン丸の剣は、風ニャン神の素早い剣に交わされた。


「フフフ、2人とも八ニャン剣のスピードがすごく速くなったじゃないか。 しかし上下で攻めても、まだまだこの僕には勝てないよ!」


しかし、ニャン蜜の目が光った。ニャン太郎とニャン丸は、風ニャン神の剣をしっかり抑えていた。


「フッフッフ、風ニャン神様やぶれたり。 私の策を見くびるにゃよ!」

「へ?」


ニャン丸とニャン太郎の2人の剣で風ニャン剣を抑えられていたその時、後ろからもの凄いスピードで走るニャン吉が風船を襲ってきた。

ニャン蜜が考えた作戦とはニャン太郎とニャン丸が風船を割ることでなく、初めから風ニャン神の剣を抑える事だった。2人に風ニャン剣を抑えられ、しかもパワーアンクルを外し豹変したニャン吉の走るスピードには風ニャン神も追いつけなかった。


「猫アイドルのDVD2枚は、この俺がもらったぁ!」

「うっ、しまったぁ!」


パーン!


見えないくらいのスピードで走ってきたニャン吉は、やっと風ニャン神の風船を割ることが出来た。


「やったぁ! DVDいっただき!」

「フフフ、とうとう皆んなにやられちゃったね!」



1週間の修業を終えた八ニャン士は、風ニャン神の前に整列していた。


「1週間よく頑張ったね。 とりあえず今回のスピード強化の修業はこれで終了だよ!」

「師匠、これで僕たちは強くなったんですね!」

「ハハハ。 ニャン太郎くん、それはあまいよ。 今回は猫剣士の修業1000あるうちの、まだ3つしか教えてないんだから!」

「猫剣士修業1000って・・・俺たち本当に死んじゃいますね」

「今回は修業はとりあえずあの大トカゲのペロンチョ対策だけだから、後は君たちだけで普段から毎日稽古することが大切だよ」

「は~い、分かりましたぁ!」


風ニャン神はニャン吉にDVD2枚渡し、微笑みながらポンと肩を叩いた。


「ニャン吉くん、約束のご褒美のDVDだよ。 最後に見せた走るスピードは、僕の剣より早かったよ!」

「やったぁ、やっと猫アイドルのDVDもらえたぁ! 師匠、ありがとうございます!」


DVDをもらって喜んでいるニャン吉を見て、ニャン蜜はガッカリしていた。


「にゃんだよ、にゃんだよ。 結局私にはご褒美のチューが貰えにゃいじゃないか」

「そうそう、ニャン蜜ちゃんも最後の作戦は見事だったね。 さすが八ニャン士女軍師のニャン蜜ちゃん、これからも頼りにしてるよ!」


風ニャン神はそう言いながら、ニャン蜜のほっぺにチューをした。


「いや〜ん、風ニャン神様ぁ♡ ありがとうございますにゃあん♡」



そして風ニャン神は八ニャン士に最後の言葉を贈った。


「今回のスピード強化の修業で僕が伝えたいことは、普段の稽古というのは技や体を鍛えるだけでなく『よく考える』ということだね」

「よく考えること?」

「いくら剣術の技を鍛えて力をつけたとしても、体力が消耗したり敵が強すぎてピンチになることがある。 だからその時その場所でよく考えて、的確に判断するいうことが大事なことなんだよ」

「なるほど、よく分かりましたぁ!」


たった1週間の修業だが、怠け者の八ニャン士は何かを掴んだ気がしていた。


そして風ニャン神は華麗な風ニャン剣を前にかざすと、八ニャン士も八ニャン剣を前にかざしてお互いの剣を重ね合わせた。


「里見八ニャン士、これからも頑張ってね。 皆んなの健闘を祈っているよ!」


「風ニャン神師匠、修業ありがとうございました!」

とりあえず風ニャン神による1週間のスピード強化の修業は終了しました。


皆んな少しはスピード強化したし、ニャン蜜ちゃんもニャン吉くんもご褒美も貰えて良かったですね。


だけど猫剣士修業1000って、他の稽古は一体何があるんでしょうね?


次回「電の巻」をお送りします。

パワー強化最後の修業は、雷ニャン神の奥義『雷電』!


お楽しみニャン!

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