第2話 志の巻
里見村1番地に住んでいるニャン太郎が里見神社へ行くと、そこにはクセの強い7人の猫たちが待っていた。
そして突然光る神社の中から出てきたのは、白装束を着て長い杖を持っている猫上様だった。
はたして、8人の猫がここに集められた目的とは?
光の中から現れた猫上様は、神社の上から8人の猫たちをじっくりと見下ろしていた。そして白くて長いヒゲをゆっくりと触りながら声高らかに笑う。
「ホーッホッホ! 皆の者、全員集まったかな?」
ドヤ顔をしながら笑みを浮かべている猫上様を、8人の猫たちはしばらく口を開けて見上げていた。すると気が短い暴れ猫のニャン丸が、早速猫上様にケンカを売る。
「チッ、何だぁこのヨボヨボで汚ねえ老猫は? てめぇ、ふざけてんのか?」
「ヨボヨボで汚い老猫とは無礼者! このワシを誰だと思っておる」
「誰って言われても、神社が光って出て来た怪しい老人猫にしか見えにゃいにゃ」
猫上様 コケる。
猫上様は長い杖でコンコンと床を叩き、ポカンと口を開けて見ている8人の猫たちに向かって叫んだ。
「ワシは怪しい老人猫ではない。 何を隠そう、ワシは猫の神様の猫山上王であ〜る!」
猫上様の言葉にシーンとする8人の猫たちは、目が点になりながら呟く。
「ネ・コ・ヤ・マ?」
「カ・ミ・オ?」
しばらく呆然とした8人の猫たちは、猫上様の名前の意味を全く理解していない。むしろ読み間違えた名前の方で全員大爆笑した。
「ガハハハハ! おいおい、ネコヤマカミオってダッさい名前っす。 腹が痛いっす」
「キャハハハ! お前さんカミオだなんて、随分と可愛い名前じゃないか〜い」
「ダマらっしゃい! ワシはネコヤマカミオではない。 猫山上王じゃあ!」
「ハハハハ! 面倒くせえから、お前は今日からカミオでいい!」
会ってからすぐ8人の猫たちにバカにされた猫上様は、イライラしながらまた長い杖をゴンゴンと床に叩いた。しかし8人の猫の笑いはまだ止まらない。
「うるさい、このバカ猫どもめ! ワシは昔から猫上様と呼ばれていて、里見村の人々からは猫の神様として崇拝されているじゃ!」
「ハハハハ! もうカミオったらさっきから猫の神様って言ってるけどにゃ、それはあくまで自称だにゃ?」
「ダマらっしゃい!」
「笑ったりしてスミマセン。 ところでカミオ、いや猫上様はどうして8人の僕たちをここに呼んだのですか?」
笑われて不機嫌な猫上様は神社の床にドンと座り、白いヒゲをゆっくりと触りながら語り始めた。
ちなみに猫上様の自慢の白いヒゲは、月一に理髪店でメンテナンスをしている。
「ここに集まったお前たちは、とてもお偉い猫から選ばれた8人の猫なのじゃ」
「とてもお偉い猫だってぇ? カミオさん、その猫さんは一体誰なのさぁ」
「ニャン斗、それは今は言えぬ。 そしてお前たちは、お偉い猫から選ばれた8 人の猫剣士なのだ!」
「8人の猫剣士?」
猫上様は長い杖で8人の猫たちに指しながら叫んだ。
「そう! その名も『里見八ニャン士』じゃあ!」
猫上様から突然言われた8人の猫は、意味が分からないまま大声で叫ぶ。
「ええ! 里見八ニャン士ぃ?」
「おいおいカミオん! 里見八ニャン士ってん、一体どういうことなんだよん?」
「そんにゃいきにゃり猫剣士って言われてもにゃ、今日まで猫飯を食べにゃがら普通に生きてきたから困るにゃあ」
8人の猫たちは気持ちの整理がつかずザワザワとしていると、猫上様は八ニャン士について語り始める。
「八ニャン士よ、これからあらゆる敵がこの里見村にやって来てもお前たちはこの村を守る使命がある。 だから子猫だったお前たちが大きくなるまで、ワシは今日までずっとここで待っていたのじゃ」
「え、あらゆる敵がやって来るのに、なぜ僕たちだけが村を守らなきゃいけないの? そんなの僕は嫌だから早く家に帰りたい」
「まぁ待てニャン吉。 今のお前たちでは自由きままの猫すぎて、性格や体力がバラバラじゃ。 だからこれからは八ニャン士の仲間として、早く8人の硬い結束をしてほしいのじゃ」
「猫上様、8人の硬い結束してほしいって、そんなことこのバラバラな性格の僕たちに出来るんですか?」
突然の無茶ぶりに騒然としている八ニャン士だが、やがて猫上様の話しに付き合いきれなくなってきた。
「ちょいとお前さん! 猫剣士とか敵とか結束とか、さっきから一体何の話だい? あたいはカミオの言っていることがさっぱり分からないよ〜」
「そうっす。 元々性格がバラバラの猫の俺たちが、今さら仲間になんかなれるわけないっす。 ああ腹減った!」
「イケメンでとても優しいこの僕も、ケンカが大嫌いなのでそれは難しいなぁ」
「ケッ、バッカバカしい。 皆んな、帰ろ帰ろ!」
しらけて里見村に帰ろうとする八ニャン士だが、なぜか1人だけメラメラと興奮しているニャン太郎が皆んなを止めた。
ちなみにこのニャン太郎、正義の為とか敵を倒すとかが大好きな猫である。
「皆んな待って! これを機会に仲間になってさぁ、大事な里見村を皆んなで守ろうよ」
「ケッ、俺はお前みたいにキラキラするヤツが1番大嫌いなんだよ」
「ニャン丸、そんなこと言うなよ。 まだ手紙に書いてあった首の玉について何にも説明してないしさ。 皆んな最後まで猫上様の話しを聞こうよ」
「おお、そうじゃそうじゃ。 お前たちが首につけている白い玉のこと説明するのを忘れとったわい」
ニャン太郎に言われ、猫上様は思い出したかのように首の玉について語り始める。一度は村に帰ろうとしていた八ニャン士だが、溜め息をつきながら猫上様の話しを聞くことにした。
「その首についている白い玉は『仁義八行の玉』と言って、猫剣士にとってとてもありがたい玉なんじゃよ」
「仁義なんちゃらん? カミオん、これが何がありがたいんだよん?」
「これずっと邪魔にゃんだよにゃあ。 白い玉の中に何か変にゃ漢字が書いてあってにゃ、ぜんぜん可愛くにゃい」
八ニャン士が首につけている白い玉の中には、8人それぞれに『仁義礼智忠信考悌』と書体の漢字が書いてあった。
ちなみにこの白くて柔らかい玉は、八ニャン士の誰もが気に入っていない。
「それは猫剣士の証でもあり、その玉にいろいろな機能があるのじゃ。 例えば話したい相手の名前を呼びながら玉をムニュっと握ると、その人と通信が出来るのじゃ」
「チッ、通信だと? こんな変な玉で話しが出来るのか?」
「そうじゃ、ニャン丸。 そして『皆んな』って呼ぶと、八ニャン士全員と通信が出来るんじゃよ」
「え、本当に? ニャン吉!」
ニャン太郎が自分の首についている『仁の玉』をムニュっと握ると、ニャン吉の首についている『義の玉』が光る。
「あ、ニャン太郎くん。 僕の声が聞こえるかな?」
「うん、ニャン吉聞こえるよ。 よし次は、皆んな!」
そしてニャン太郎がまた玉をムニュっと握ると、今度は八ニャン士全員の玉が光り出す。
「おやおや、あたいの『礼の玉」が光ったじゃないか〜。 光るとキレイなもんだね〜」
「おお、これでお互い自由に通信ができるのかん。
すげぇ便利だなん!」
「これはすげぇっす。 最初は変な漢字が書いてあるダサい玉だと思っていたけど、そんな機能があったんすね」
すると、ニャン斗が呆れた顔をしながら首を振る。
「でもさぁ、皆んなぁ。 この玉で通信っていうけどさぁ、通信なら別に携帯電話でもよくないかぁい?」
空気の読めないニャン斗がそう言うと、八ニャン士の顔が一斉に凍りつく。そしてニャン斗に変な事を言われた猫上様は冷や汗をかき、焦りながら慌てて言った。
「ニャン斗、それを言うでない。 村を守る猫剣士が携帯電話を使って連絡をしてしまうと、いまいちこの物語が盛り上がらんじゃろ? 演出が大事なのじゃ!」
「ケッ、この物語の盛り上がらないって、一体何の物語のことを言ってるんだよ?」
「おやおや。 やっぱりあたいには、さっきからカミオの言っていることがさっぱり分からないね〜」
「ホーッホッホ。 よしっ、もう1つ猫剣士の君たちにはとっておきのコレを渡してやろう!」
猫上様は自慢げに8本の模造刀を八ニャン士の前に並べた。その剣の柄には、それぞれ玉と同じ『仁義礼智忠信考悌』の漢字が彫ってある。
「さあさあ、自分の玉と同じ漢字が書いてある剣を持ちなさい」
「僕は『仁』って書いてあるからこれだね」
「私は『智』だからこれにゃ。 これもにゃんだか可愛くにゃい」
「剣って言ってもっす、ただの模造刀だっす。 ああ腹減った!」
「ケッ、模造刀ってなんかダセエなぁ。 もっとカッコいい日本刀とジャックナイフとか無いのかよ!」
「ニャン丸、日本刀を持ってはダメだよん。 日本では警察に捕まっちゃうよん」
猫上様が作った模造刀が配られると、八ニャン士はそれぞれ自由に振り回す。すると、剣はシュンシュンと風を切るような音が鳴った。
「やったぁ! なんか剣からかっこいい音が鳴って、いかにも早くて切れそうだよ」
「ニャン太郎、これはわざと音が鳴るように作ってあるんじゃ。 その方が、これから始まるこの物語がとても盛り上がるじゃろ? 演出が大事なのじゃ!」
「またそれだん! だからこれから始まるこの物語ってん、一体何の物語のことを言ってるんだよん?」
「ホーッホッホ! そしてこれは『八ニャン剣』と言って、ワシが魂を込めて作った剣なのじゃ」
「へぇ。 猫剣士のニャン剣だなんてさぁ、まるでこのイケメンの僕みたいにイケてる剣だねぇ!」
「あ、僕はこんな危ない剣よりも、早く家に帰りたいです」
「そしていざという時はその八ニャン剣の剣先を8本合わせると、八ニャン剣からは物凄くパワーが出るんじゃ」
「物凄いパワーが出るんすか? どれどれ、早速皆んなでやってみるっす!」
猫上様が言うものすごいパワーというのが気になった八ニャン士は、円陣になって八ニャン剣の剣先を合わせる。しかし、八ニャン剣はうんともすんともニャンとも言わない。
「あれ? 猫上様、何にもならないですよ?」
「ニャン太郎、だからいざという時だけって言うたではないか。 お前たちが危険な時に八ニャン剣の剣先を合わせないと、剣のパワーは出ないのじゃ。 修業もしていないお前たちが、いつでもパワーが出たら危険じゃからな」
「ケッ、使えねぇな。 だったらさっさと相手を殴った方が早いぜ。 俺は強えからな!」
「結局白い玉も何ちゃら剣も、カッコ悪くて邪魔なだけっす。 ああ腹減った!」
猫上様は神社の上に立ち、長い杖をビッとさしながら改めて八ニャン士に叫んだ。
「よいか里見八ニャン士、お前たちの首についている玉と八ニャン剣は猫剣士の証じゃ。 志しを高く持ち、8人で里見村を守るのじゃあ!」
それを聞いてますます興奮し始めたニャン太郎も神社の上に立ち、八ニャン剣をシュンと振り掲げながら叫んだ。
「よぉし、皆んなぁ! このカッコいい八ニャン剣で、僕たち八ニャン士が里見村を守ろう!」
「ケッ、お前が勝手に決めんじゃねぇ! だから俺はお前みたいにキラキラしたやつが1番大っ嫌いなんだよ!」
「おやおや。 1番地のニャン太郎ちゃんは、こういうヒーローっぽいのが好きなんだね〜。 そんなお前さんのことが、あたいは嫌いじゃないよ〜」
「シッシッシ、これから俺の忍術を試せるのが楽しみだなん!」
「にゃんだか、面倒くさいことににゃってきたにゃあ。 もっと可愛いのがいいにゃあ」
「ガッハッハ! そんな八ニャン士より、皆んなでメシでも食おうっす。 ああ腹減った!」
「ケンカなんてさぁ、だいたいお金で解決できるんだよぉ。 だから皆んなで仲良くやろうよぉ」
「あ、僕はケンカが嫌いです。 早く家に帰りたい」
そんな八ニャン士を見た猫上様は、神社の上から高笑いする。
「ホーッホッホ! まぁ、とりあえずしばらく皆んなで仲良くやってくれ。 じゃ、バイビ〜!」
猫上様はそう言ってさっさと神社の中へと入ってしまう。そしてさっきまで光り輝いていた神社は扉がバタンと閉まると、また暗い神社に戻った。
言いたいこと言ってさっさと逃げる猫上様の素早さに、八ニャン士は目が点になっていた。
「バイビ〜って・・・カミオ、軽っ!」
とりあえずカミオ、いや猫上様から猫剣士の軽い説明があった里見八ニャン士。
これから八ニャン士は猫剣士として硬い結束ができ、そして里見村を守ることがでしょうか?
ところであの八ニャン剣の剣先を合わせると、一体どんなパワーが出るんですかね?
次回「仁の巻』をお送りします。
ええ? 里見村の村長の娘が家出をした?
お楽しみニャン!




