第13話 信の巻
『信の玉』を持つ八ニャン士のニャン丸。
里見村6番地にある中華食堂の家に住んでいる。
暴れ猫の異名を持ち、性格と口が悪く短気でケンカが好きな極悪非道。
唯一の弱点は泳げないことだが、本人はそれを認めていない。
右頬に星の模様がある。
里見村のほぼ中央にある『ウラオモテヤマネコ公園』で、ニャン太郎とニャン平が八ニャン剣の稽古をしていた。いつ敵が襲って来てもいいように、八ニャン士の猫剣士として剣の技を磨いていた。
しかしそれは稽古という大げさなものではなく、もはやヒーローごっこのような子供のお遊びである。
「出たなぁ、大食い男ニャン平星人。 今日こそお前をやっつけてやる。 正義は僕だ!」
「何をぉ、この浦島ニャン太郎怪人。 お前こそ、俺がペシャンコにして食べてやるぜ。 ああ腹減った!」
「トウッ、太郎キ~ック!」
「やるなぁ、ニャンペ~イダイナマイト!」
なんともおそまつな2人である。
そこへ偶然通りかかったニャン丸は、そのニャン太郎とニャン平のヒーローごっこを見て呆れていた。
「おい、ニャン太郎とニャン平。 お前ら公園で何遊んでいるんだよ?」
「ニャン丸、遊びじゃないよ。 いつ敵が来ても村を守れるように、ニャン平と八ニャン剣の稽古をして鍛えているんだ。 なんせ僕は里見村のヒーローだからね!」
「おい、ニャン丸も一緒にやらんか。 お前はとっても弱いんだら稽古した方がいいぞ、ガッハッハ!」
ニャン太郎とニャン平はドヤ顔をしながらヒーローのポーズを決めると、それを見たニャン丸は深い溜息をついた。
「はぁ、この俺様がヒーローごっこなんかやるかバ~カ! お前ら2人を見てると頭痛いよ」
そんな2人に呆れたニャン丸は公園から離れ、またどこかへと歩いて行った。ニャン太郎とニャン平は、公園でヒーローごっこを続けていた。
ニャン丸は口笛を吹きながらしばらく歩いていると、向こうの方からトボトボと歩いている小柄のニャン吉を見かけた。ニャン吉を見たニャン丸は、村中に響き渡るように大声を出した。
「おおい、ニャン吉ぃ! こんな所でお前と会うなんて偶然だなぁ。 何やってるんだよぉ?」
「ニャ、ニャン丸くん、こんにちは。 ではさよなら」
ニャン丸 コケる。
「おいおい、いきなり会ってすぐにさよならかよ。 それにしても相変わらず小声だなぁ、お前は」
「ニャン丸くんの声が皆んなより大きいんだよ。 そんなに大声出さなくても十分聞こえるよ」
「あと噂には聞いていたけど、ニャン吉はいつも知恵の輪をしながら歩いてるんだなぁ」
説明しよう。
ニャン吉は『知恵の輪を普及させる会』のプラチナ会員であり、知恵の輪大会で何度も優勝している知恵の輪アスリートである。
突然ニャン丸に言われたニャン吉は、慌てて知恵の輪をサッと後ろへ隠した。
「べ、別にいいでしょ。 ニャン丸くん、さよなら」
「ちょっと待てよ、別にいいじゃねぇか。 たまには一緒に帰ろうぜぇ。 同じ八ニャン士なんだからよ!」
苦手なニャン丸から離れたいニャン吉は諦めて、しばらく一緒に歩くことにした。
「あとお前、それ何持ってんだよ? また猫アイドルのグッズか何かのDVDか?」
「別にいいでしょ、ニャン丸くんには関係ないよ」
「おいおい、なんかさっきから俺に冷てぇな。 俺は別に猫アイドルなんかに興味ないから安心しろって」
ニャン吉は止まってニャン丸に言った。
「たぶん気が弱い僕とケンカの強いニャン丸くんとは話しが合わないと思うし、これから八ニャン士の仲間としても一緒にやっていけないと思う」
「あらぁ、意外と君はストレートに言うのね。 暴れ猫のニャン丸ちゃんはとっても傷ついちゃう」
ニャン丸は可愛い顔をしながら、目をウルウルさせる。
しばらくニャン丸とニャン吉が歩いていると、向こうから大和田村の怪しい狸たちが3人やって来た。ご存知の通り、里見村と大和田村の関係は猫狸の仲、ではなく『犬猿の仲』である。
「おいおい、里見村のバカ猫じゃねぇか。 またお前らをイジメてやろうか? ヒッヒッヒ」
「チッ、大和田村のクソ狸どもめ。 何で里見村の中をウロチョロ歩いてんだよ!」
「ニャン丸くん、ケンカはやめて!」
ケンカ嫌いのニャン吉は必死で止めたが、短気のニャン丸は怪しい狸たちにイライラしていた。
「おめぇが暴れ猫のニャン丸ってやつか? ずいぶんイキがってる猫だそうじゃねぇか。 ヒッヒッヒ!」
「なんだと、コラッ! やっちまうぞっ!」
「ニャン丸くん、ケンカはやめて早く家に帰ろ」
「ほら、そこの小さい猫ちゃんが家に帰ろうって言ってるぞ。 帰れ帰れ! ヒッヒッヒ!」
「クソ狸どもめぇ、もうゆるさん!」
ニャン丸は怒りに震えながら八ニャン剣をシュンと抜くと、狸たちはニャン吉が持っているDVDに目をつけた。
「おい小僧。 お前が持っているそれは、里見村の猫アイドル『猫目坂321』の新しいDVDじゃねぇかよ。 それをちょっと俺たちに貸せよ、ヒッヒッヒ!」
「イヤだよ。 大切なDVDをお前たちに貸すもんか」
「おい、てめぇら。 これ以上ふざけてると、本当に俺様がぶっ殺すぞ!」
「ニャン丸くん、いいから早く家に帰ろ」
ニャン吉はニャン丸の服をつかみ無理矢理帰ろうとした。
「じゃあなチンピラ猫。 今度は俺たちに絡まれないように気をつけろよ、ヒッヒッヒ!」
「チッ! おめぇらこそ、吐いたツバ飲まんとけよ」
3人の怪しい狸たちは不気味な笑いをしながら、その場をアッサリと帰った。そして狸とケンカをしているニャン丸のことを、あの小声で大人しいニャン吉が珍しく顔を真っ赤にしながら怒った。
「だから僕はニャン丸くんとは性格が合わないって言ったんだよ。 僕はケンカや争い事が大嫌いなんだ! 今度こそ本当にさよなら」
ニャン吉は泣きながら急ぎ走って行くと、ニャン丸は八ニャン剣をおさめて溜息をついた。
「ふぅ、ったくなんだよ。 あのクソ狸といいニャン吉といい、どいつもこいつも!」
それからニャン丸はイライラしながら、草原で八ニャン剣をシュンシュンと音を立てて振り回していた。
「うぉりやぁ! ああ、ケンカして〜ぜぇ」
すると、ニャン丸の首についている『信の玉』が突然光り出した。それはニャン吉の首についている『義の玉』からの連絡だった。
「ん? ニャン吉から連絡だ」
「ニャ、ニャン丸くん、助けて!」
「おい、どうしたニャン吉! 何かあったのか?」
「さっきの3人の怪しい狸たちに・・・」
「なぁにぃ? 大和田村のクソ狸だぁ? 待ってろ、今すぐそこへ行くからな!」
突然の連絡を受けたニャン丸は慌てて走っていると、ボロボロになって道に倒れているニャン吉を見かけた。ニャン丸はニャン吉を抱きかかえながら大声で叫んだ。
「おい、ニャン吉。 どうした、しっかりしろ!」
「ニャン丸くん、来てくれてありがとう。 ニャン丸くんと別れた後に、僕はすぐあの狸たちに囲まれて殴られたんだ。 それで僕のDVDを持っていかれちゃった」
「なにぃ、あいつらぁ。 絶対ボコボコにしてやる!」
「最初は僕も抵抗して頑張ったんだけどね、やっぱりダメだったよ・・・ガクッ!」
「おいニャン吉ぃ、しっかりしろ! とりあえず、こいつの家まで早く運ばなきゃ」
ニャン丸は気を失ったニャン吉を背負い、里見村2番地にあるニャン吉の家まで必死に走った。
しばらく寝ていたニャン吉がゆっくり目を覚ますと、そこはニャン吉の猫アイドルオタクの部屋だった。ケガを心配していたニャン丸は、気絶していたニャン吉の側でずっと看病していた。
「ニャン丸くん、こ、ここは?」
「おお、ニャン吉気が付いたか? 安心しろ、ここはお前の猫アイドルオタクの部屋だよ」
「ニャン丸くんが気絶した僕を運んでくれたんだね。 あと看病もしてくれてありがとう」
「しかしあのクソ狸どもめ。 俺がいない隙にニャン吉を狙いやがって、絶対許さねぇ!」
ニャン丸は3人の狸たちのやり方に怒りで震えていたが、ニャン吉はそれを止めた。
「もういいよ。 僕、DVDはあきらめるから」
「そんな訳にはいかねぇよ。 俺が必ずお前のDVDを取り返してやるから、お前は安心して寝ていろ」
「待ってニャン丸くん、大和田村には行かないで!」
八ニャン剣を持ち立ち上がったニャン丸の服を、ニャン吉は手を伸ばして強く握った。
「ニャン丸くんだけ大和田村に乗り込んでは危ないよ。 せめて八ニャン士の皆んなに知らせようよ!」
「うるせぇ、ニャン吉をこんなひどい目に合わせたのは俺のせいなんだ。 だから俺のこの手で、あいつらをボコボコにしてやる!」
「僕がこうなったのは、別にニャン丸くんのせいじゃないよ。 だからケンカはやめて!」
しかし怒りがおさまらないニャン丸はニャン吉の手を払い、部屋の扉を開けながら言った。
「いいかニャン吉、このことは八ニャン士の皆んなには絶対に言うんじゃねぇぞ。 じゃあな!」
怒り狂ったニャン丸は、慌ててニャン吉の家を飛び出して行った。
ここは東野川にある東野橋の上。
ニャン丸はハチマキとタスキ掛けという武装をして、八ニャン剣を持ちながら仁王立ちをしていた。川上から吹き付ける強い風が、頭に縛っているハチマキをバタバタと揺らしている。
「ニャン吉、お前の仇は俺が必ずとってやる!」
ニャン丸の鋭い目がキラリと光った。
ニャン吉くんがやられたのは自分のせいだと思い、たった1人で大和田村に乗り込んで行ったニャン丸くん。
はたしてニャン丸くんは、怪しい狸からDVDを取り戻すことができるでしょうか?
2人がこんな大変な時に、ニャン太郎くんとニャン平くんはまだ公園でヒーローごっこしてましたよ。
次回「仇の巻」をお送りします。
暴れ猫のニャン丸が八ニャン士に込める意外な想いとは?
お楽しみニャン!