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里見八ニャン伝  作者: ワタベミキヤ
猫剣士立志編
10/37

第10話 策の巻

いよいよ里見村軍と大和田村軍による天下分け目の戦いが、東野橋の上で始まろうとしていた。


里見村に住んでいる村民の運命は、里見村軍の先陣で構える八ニャン士隊に託された。


そして女軍師ニャン蜜が考えた『東野橋を封鎖せよ!』作戦が、速やかに実行された。


装飾された紫色の甲冑を着て白馬にまたがるニャン蜜は、向こう側の河岸にいる大和田村軍に向かって声高らかに叫んだ。


「皆の者、今から『東野橋を封鎖せよ!』作戦を開始するにゃん!」


と言われても、家来のニャン太郎とニャン斗とニャン吉はその作戦の内容を知らない。


「っていうか、早く作戦を僕たちに教えて下さい」

「本当に大丈夫なんですかぁ? だって敵の先陣は、僕たちより人数が多いんですよぉ」

「そうでござる。 あちらの先陣には7人もいて、僕たちは4人しかいないんでござるよ?」


3人が不安そうに聞くと、ニャン蜜は余裕の笑みを浮かべながら白馬の上から見下ろした。


「フッフッフ、心・配・御無用だにゃ。 もう策は頭の中に練ってあるにゃん」

「おお、そのこころは?」

「それは敵の先陣の人数が7人だってことだにゃあ!」


八ニャン士隊女軍師のニャン蜜の戦略とは、敵の先陣を狂わす作戦だった。しかし3人はまだピンと来ていない。


「へ? それがどうしたんですか?」

「敵の7人が2つに割ったら4人と3人に分けれるにゃ。 向こうが3人になった方と戦えば、私たち4人で勝てるわけにゃん!」

「まるで子供の算数みたいですね。 それで、一体どうやって2つに分けるですか?」

「フッフッフ、つまりこうにゃん!」


ニャン蜜は大きな地図を広げ、この作戦について詳しく説明を始めた。


「まず我々八ニャン士隊の4人が、ウサギ班とカメ班の2つに分かれるにゃん」

「ふむふむ、それでそれで?」

「すると、我々を見た敵の先陣も慌てて同じく2つに分かれるにゃん」

「ほうほう、それでそれで?」

「ここからが大事にゃ。 敵が4人と3人の2つに別れたその時、敵の間に火炎弾を投げて煙を出すにゃ!」

「火炎弾が出てきて話しが盛り上がってきたぁ!」

「煙が出て見えなくなっているその隙に、3人になった方へ我々が4人合流して敵を倒すっていう作戦だにゃ!」


それを聞いたニャン太郎とニャン吉とニャン斗は、スタンディングオベーションをしながら拍手喝采した。


「おおブラボー! さすが八ニャン士隊キューティー女軍師のニャン蜜様だぁ」

「残った4人も同じように火炎弾で2つに分ければ、2人と2人だからもう楽勝だにゃん!」

「素晴らしい作戦であることはよく分かりました。 で、ウサギ班とカメ班は誰にしますか?」

「それは私とニャン太郎がウサギ班、そしてニャン斗とニャン吉がカメ班だにゃ」

「えええ?」


ニャン蜜が出したその案にニャン斗とニャン吉は納得していない。なぜならやる気がないからである。


「ニャン蜜様ぁ、ケンカが苦手な僕とニャン吉くんのペアじゃあぜんぜんダメじゃないですかぁ?」

「そうですよ。 ニャン蜜様は白馬に乗ってるしニャン太郎くんは剣術が上手いから、なんかズルいでござる」

「フッフッフ、それもすべて計算済みにゃ。 私にはすでにニャン吉とニャン斗の情報が入っているにゃん」


まずニャン蜜は小柄のニャン吉に向かって、もったいぶるように()()()をチラリと見せた。


「ニャン吉、お前は今江戸で1番人気の『ニャン(やっこ)』の浮世絵が欲しくにゃいか?」

「うっ、その浮世絵は今話題のニャン奴ちゃん! 江戸の吉原遊郭で1番人気の女猫でござる」

「ニャン奴の浮世絵が欲しいかにゃ? ホレホレ!」


するとニャン吉はニャン奴の浮世絵が欲しいあまり、八ニャン剣をシュンと抜いて豹変した。


「テメェ、その浮世絵を俺によこせぇ!」

「ほ〜ら豹変した。 私の思った通りにゃん!」


続いてニャン蜜はニャン斗に向かって叫んだ。


「おい、ニャン斗。 お前はいつもヒョロヒョロしていて、キモくてブサイクにゃあ!」


するとニャン斗も目の色が変わり、八ニャン剣をシュンと抜いて豹変した。


「ああ? テメェ2枚目で色男の俺に向かって、何言ってんだこのヤロウ!」

「こいつも分かりやすい性格だにゃあ、よしよし」


説明しよう。

ニャン斗はキモイとブサイクと言われると豹変し、ニャン吉は好きな猫アイドルのことを邪魔されると豹変してしまう、2人とも二重人格なのだ。


「うおおお、大和田村の狸どもをぶっ倒してやる!」


急に豹変してやる気が出たニャン吉とニャン斗を見て、ニャン太郎は目が点になる。


「うん・・・今のは見なかったことにするでござる」



そしていよいよ『東野橋を封鎖せよ!』作戦が実行された。八ニャン士隊が東野橋をゆっくり渡ると、橋の中央には敵である7人の狸が待っていた。


「ヒッヒッヒ、バカな猫たちがやって来たぜ。 早く降参して里見村をよこせ!」

「大和田村の狸どめ、私の策を見くびるにゃよ!」


白馬に乗ったニャン蜜が手を上げると、まずカメ班のニャン吉とニャン斗が左に動いた。 それにつられて狸も2つに分かれると、ニャン蜜は狸の間に火炎弾を投げた。


「ハッハッハ! 私の作戦に引っ掛かったにゃあ!」


火炎弾の煙がモクモクと立ち上がり見えにくくなると、ウサギ班のニャン蜜とニャン太郎は急いでカメ班と合流した。


「八ニャン士隊よ、煙で見えないうちに3人の狸を一気に倒すにゃあ!」


4人の八ニャン士隊は、3人になった狸の方へ走った。しかし、八ニャン士隊の目の前に現れたのは6人の狸だった。狸たちは4人と3人に別れたのではなく、6人と1人で別れたのだ。


「ヒッヒッヒ、猫どもがたった4人で俺たち6人に勝てると思ってんのか?」

「あわわわ! ニャン蜜様、どうするんですかぁ?」

「3人の狸が6人いるなんて、話が違うでござるよ!」

「ここはまずい。 皆の者、いったん引くにゃあ!」


慌てふためいた八ニャン士隊は、また里見村まで引き返した。それを見ていた大和田軍の狸は、首をかしげながら呆れている。


「ヒッヒッヒ、何やっているんだあのバカ猫たちは?」



再び八ニャン士がニャン蜜を囲んで緊急会議が始まった。ニャン蜜はアゴに手を当て、大きな地図を見ながら呟いた。


「あの状況で4人と3人で別れるはずが、まさか6人と1人で別れるとは敵ながらアッパレな狸だにゃあ」

「アッパレなんて言って感心している場合じゃないですよ。 これからどうするんですか?」

「フフフ、そう慌てるなニャン太郎。 そんなこともあろうかと、私は次の作戦を考えていたにゃん」

「おお、さすがニャン蜜様です。 その作戦とは?」


ニャン蜜は立ち上がり、地図に向かって指をさした。


「それは『東野橋を解放せよ!』作戦だにゃあ!」


ニャン太郎とニャン吉とニャン斗 コケる。


「また『ナメる大猫捜査線』ですかぁ?」

「ニャン蜜様が男優の織田裕ノ助に見えるでござる」


ニャン蜜はまた地図を広げ、この作戦について詳しく説明を始めた。


「戦は算数にゃあ! まずカメ班のニャン吉とニャン斗の背中に、八ニャン士隊の旗を立てるにゃん」

「ふむふむ、それでそれで?」

「ニャン吉とニャン斗の両脇に人形をつけ、その人形にも旗を立てるにゃん。 すると敵陣はカメ班が6人いるように見えるにゃ?」

「ほうほう、それでそれで?」

「ここらか重要だにゃん。 まず最初に火炎弾を投げて煙を出し、見えにくくなったところでカメ班が一気に動き出すにゃ。 敵の先陣は7人だから、さっきみたいに6人が6本の旗を狙って動き出すはずにゃん!」

「おお、なるほどなるほど!」

「敵の6人が動き出して残り1人になった狸を、ウサギ班の私とニャン太郎で速やかに倒すにゃん。 それを繰り返して次々と1人づつ消していく作戦だにゃあ!」


その作戦を聞いたニャン太郎とニャン吉とニャン斗は、スタンディングオベーションしながら拍手喝采した。


「おおブラボー! さすが八ニャン士キューティー女軍師のニャン蜜様だぁ!」

「ホーッホッホ、算数を制する者は戦を制すにゃあ!」

「でもこの作戦が失敗して、もし負けてしまったら僕たちはどうなるんですか?」


ニャン太郎が不安になって問いかけるとニャン蜜は颯爽と白馬に乗り、遠く空を見上げながら言った。


「ニャン太郎、勝つことばかりが戦ではにゃい!」

「え? そのこころは?」



「例え戦に負けたとしても、人はそこで何を得たかで価値が決まるというものにゃのだ!」



ニャン蜜は八ニャン剣をシュンと掲げ、そして前方に突き出した。


「責任は私が持つにゃあ!」

「おお!」

「皆の者、私を信じて敵陣に向かって突撃にゃあ!」


八ニャン士隊は作戦通りにカメ班に6本の旗を立て、そしてニャン蜜が勢いよく火炎弾を投げようとした。


「大和田軍の狸ども、これでもくらうにゃあ!」


シーン


ニャン蜜が火炎弾を投げようとしたが、反対側の敵陣にはもう誰1人いなかった。そして東野橋の中央には、何か文字の書かれた旗が風で揺れていた。



『夕飯だから大和田村に帰るよ バ〜カ!』



それを見たニャン太郎とニャン斗とニャン吉は、ポッカリと口を開けていた。


「へ? これはどういうことでしょうか?」

「狸たちは何でいつも夕飯で帰っちゃうのかなぁ?」

「ならば、僕も家に帰りたいでござる」


このあり得ない状況の中、ニャン蜜はニヤリと笑う。


「フッフッフ、思った通りにゃ。 我々がダラダラと時間を使えば、狸どもが夕方5時になると夕飯で村へ戻ることは私も知ってたにゃん。 これが本当の私の作戦だにゃん!」


ニャン太郎とニャン吉とニャン斗 コケる。


「まぁとにかく敵は大和田村へ去ったことだし、これは我々里見村軍の大勝利ということだにゃあ!」

「そ、そうですね。 ニャン蜜様、我々も富士山を見ながら乾杯しましょう!」

「これぞまさしく風林火山だにゃん!」

「ハハハハ!」


こうして八ニャン士隊の活躍により大和田村軍との戦いは終結し、里見村はいつまでも平和な日々が続いた。


兵法「算数戦略法」 終わり



机に向かって読書をしていたニャン蜜は、静かに兵法書を閉じた。そして少し背伸びをした後、読んでいた兵法についてしみじみと語った。


「なるほどにゃあ。 時間や算数をうまく使うのは戦略の基本だにゃん。 兵法は本当に勉強になるにゃあ」


ニャン蜜が住んでいる家には駐在所があり、警察官であるダンナ様の先祖は戦国の軍師だった。それでこの家には代々伝わる兵法書が数多くあり、八ニャン士の軍師としてニャン蜜は兵法を学んでいたのである。

すると、外から八ニャン士の大きな聞こえてきた。


「お〜い、ニャン蜜ちゃ〜ん! 早くスーパーのバーゲンに行くよぉ!」


ニャン蜜はイスから降りて窓を開けると、そこにはニャン太郎とニャン吉とニャン斗が笑顔でならんでいた。


「ダンナ様のシャツを買ってこいと伏夜様から頼まれたんだよ。 だから早くバーゲンに行こうよ!」

「僕はファンクラブの女猫ちゃんたちにプレゼントを買うんだよぉ。 だから女軍師のニャン蜜ちゃんの作戦を、早く教えてくれよぉ」

「僕は早く家に帰りたいです。 スーパーのバーゲンなんて行きたくないよ」


ニャン蜜は部屋の窓から3人に向かって指をさし、八ニャン士の女軍師として作戦を告げた。


「よし、今から『スーパーのバーゲンを解放せよ!』作戦を実行するにゃん。 私の策を見くびるにゃよ!」

兵法書が役に立つか立たないかはさておいて・・・


これから八ニャン士の女軍師として、ニャン蜜ちゃんの活躍を期待していますよ!


『スーパーのバーゲンを解放せよ!』の作戦やいかに!


次回「忠の巻」をお送りします。

あのニャンスケベが教える忍術の極意とは?


お楽しみニャン!

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