表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死の世界へようこそ  作者: 路明(ロア)
Episodio dopo 後日談:見えていない月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/75

Riunione di famiglia. 親族会議 II

「それは申し訳なかった」

 アルフレードは神妙そうにうつむいてみせた。

「私には叔父上がたは、あまり仲がよろしくないように見えていた。懇意(こんい)の方々同士がいたのか」

 叔父たちはたがいに顔を見合せていた。

 裏で足のひっぱり合いをしているなど親戚中が分かっていることだ。

 それでも(とぼ)けて反論してくるかと思ったが。

「あとはもうよろしいか」

 アルフレードは問うた。

「ではお(ひら)きにしても」

「アルフレード」

 四番目の叔父がゆっくりと右手を挙げる。

 アルフレードは内心で舌打ちした。

「何でしょう」

「最近、地下墓地に子供の骨を埋葬したそうだが」

 ほかの叔父たちが、それぞれの表情で目を丸くした。何人かが「ほう」と声を発する。

「どなたのお子だ」

「三百年まえのチェーヴァの先祖です。本邸の地下に遺骨が放置されておりました」

「なぜそれを今になって」

「先立ってぐうぜん分かったもので」

 アルフレードはそう答えた。

「なぜそれが三百年まえの先祖と分かる」

 三番目の叔父が横からそう問う。

 アルフレードはわずかに眉をよせた。

 本人の霊と、お伽噺(とぎばなし)の死の精霊から聞いたなどと言うわけにもいかんかと思う。

 乱心扱いされて足を(すく)われかねん。

「該当する記録をたまたま見つけまして」

「どんな記録だ」

「フィエーゾレの教会で見つけた覚え書き程度の記録です」

「なぜフィエーゾレなどに」

 べつの叔父がそう問う。

 アルフレードは背もたれに背をあずけた。

「私は三百年まえの人間ではないので、当時の詳細は分かりかねますが」

 そう前置きをする。

「三百年まえのバティストの時代に、チェーヴァはフィエーゾレのとある家と揉めた。その合間にチェーヴァでは産まれてすぐに死亡した子供がいたと。まあ、補足という程度の記録でしたが」

「なぜ地下に放置など」

 叔父の一人が眉をひそめる。

「さあ。揉めごとの最中で、埋葬にまで手が回らなかったのか」

 そうアルフレードは答えた。当時の先祖を気の毒がるような表情をしてみせる。

「マリア・チェーヴァと名があったが」

「そのとおり。マリア・チェーヴァです」

「洗礼は?」

「無論きちんと受けています」

 アルフレードは淡々とそう答えた。

「そうでなければ、教会に埋葬などできるわけがないでしょう」

「アルフレード」

 四番目の叔父が、スッと手を挙げる。

「おまえが教会と交渉し、少々の心づけを渡したという話を聞いている」

 教会にまで出向いて何を調べているんだか。足をすくう気満々だなとアルフレードは内心で毒づいた。

「三百年まえの遺体など、埋葬も通常とは勝手が違いますからな。手数をかける分、心づけくらいは当然でしょう」

「アルフレード」

 四番目の叔父は改まった口調になり切りだした。

「おまえがどこぞの女性に産ませた子では」

「失礼な」

 アルフレードは眉をよせた。

「遊ぶのはかまわんが、おまえにもし婚外子ができたら揉めることに」

「分かっております」

 そうアルフレードは返答した。

 そんなものができたら、まずはこの親戚どもがその婚外子を利用しかねん。

 よく分かっている。 

「そういえば、ヴェネツィアのどこぞの御家で最近ありましたな」

 いちばん離れた位置に座る親戚たちが、こっそりと会話し合う。

「当主が先代の婚外子を養子にしたとかいう話が」

「あれは稚児としてではないかとのウワサですがな」

 話しかけられた親戚が好色そうな笑みを浮かべる。

 いったいどこの醜聞だ。アルフレードは眉をよせた。

「雑談をしたいのなら、お開きにして別室でされては」

「いや、まだ」

 べつの叔父が食い下がる。


「もうよいであろ」


 ピストイアの叔父がゆっくりと立ち上がった。

「アルフレードは、健康上の問題はない。わしが保証する」

「叔父上」

 その場の全員を制するように見回した中年男性の顔を、アルフレードは見上げた。

 こうして口添えするために、わざわざ足を運んでくださったのだ。数少ないありがたい親戚だと思う。


「アルフレードはいたって健康じゃ。先立ってうちで(もよお)された会でなど、即興で見事なダンスを披露した上に友人と武闘の余興までやりおった」


「叔父う……」

 アルフレードは思わず顔を歪めた。

 どいつもこいつも、ほかに話題はないのか。

「余興のあとには、うつくしい令嬢と仲睦(なかむつ)まじく踊っておったし」

「なか……」

 アルフレードは複雑な心持ちで叔父の顔を見た。

「男子としても、きわめて健康じゃ」

「いや……」

 アルフレードは(ひたい)を押さえた。

 ピストイアの叔父が、不可解そうな顔でこちらを見る。

「しかしあれはどこのご令嬢じゃ。あちらこちらに聞き回ったが、みな知らんと言うのだが」

「いやその」

 アルフレードは努めて平静をよそおった。おちついて手を組む。

「えっらい美女じゃったが」

「それはともかく」

 アルフレードは大きく息を吐いた。


「お開きでよろしいか」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ