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【完結】死の世界へようこそ  作者: 路明(ロア)
Episodio sedici 仮面舞踏会

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Mascherata 仮面舞踏会 I

 陽が落ちる。

 広間とそこにいたる玄関ホール、階段、廊下にロウソクが灯される。

 日没後とは思えないほどに屋敷内は明るく、ロウソクの熱で心なし暑さを感じる。

 舞踏会の出席者がぼちぼちと訪れはじめ、玄関ホールが少しずつざわつく。

 それぞれが顔に仮面をつけている。

 通常の儀礼的な会とは違った雰囲気に、戸惑いと高揚の混じった感じでソワソワとしているように見えた。


「ほう。あれはロドリーニ家のご令嬢かな? 大人っぽくなりおったのう」


 目のみをかくしたマスカレードマスクをつけて叔父がはしゃぐ。アルフレードは横目で見た。

 広間を見下ろす吹きぬけの回廊。

 手すりによりかかり、叔父の横で招待客をながめる。

「ロドリーニ家の令嬢は輿入れ先が決まったとか聞いておったが、まだこちらにおるのか」

 叔父が手すりから乗りだす。

「おっ。あのお胸のご立派なご婦人はだれだ。オルダーニ家の奥方か?」

 叔父がこちらを見る。

「アルフレード、おまえも乗ってこんか」

「……けっきょく仮面をつけていても素性などバレているではないですか」

「とくに懇意の家ばかり呼んだからのう」

 しれっと叔父が言う。

「うちの親戚はだれも呼んどらん。おまえが安心してハメを外せんからのう」

「……とくに外す気はありません」

 叔父が、アルフレードの耳元に顔をよせる。内緒話のように口の横に手をあてた。

「聞いた話じゃが、ロドリーニ家のご令嬢は男嫌いで侍女とデキとるというウワサじゃ。ああいうのは手強いぞ」

「手を出す気はまったくありませんが」

 アルフレードは眉をよせた。

「まあ男なら、ここは男の良さを教えてやるという気概で行くのも悪くはないが」

「勝手に話を進めないでください」

「おまえもそろそろ仮面をつけんか」

 叔父がかまわずそう促す。

「積極的に参加する気はありませんので」

 アルフレードは、マスカレードマスクを手にもったままゆるく腕を組んだ。

「せっかくラファエレの服を着とるのに」

「てきとうなところで顔は出します」

「顔は出さんでいい。隠すんじゃ」

 うまいことを言ったと言うふうに、叔父はふくみ笑いをした。

 いまのは何だ。笑ってやればいいのかと目線を泳がせながら、アルフレードは手すりに背中をあずける。

 ホールの端のほうにある螺旋階段(らせんかいだん)が目に入る。

 サン・ジミニャーノの屋敷でのことを思い出す。

 ベルガモットがドレスをからげて階段を昇っていた。

 一瞬で移動することができるのに、なぜわざわざあんな大変そうなことをしていたのか。

 手を差しのべたら不満を漏らしていたが、かといってふり払うこともしなかった。

 分からんな、とアルフレードは顔をしかめた。

 ふと顔を上げる。

 吹きぬけの最上部にある小さな窓から、夜空が覗いていた。


「今日は月は?」


 アルフレードはそう尋ねた。

 叔父も同じように最上部を見る。

「出とったかな……」

 叔父は目をほそめた。

「きれいなのですか?」

「何が」

「月が」

 アルフレードは答えた。

「だから、出ていたかどうか分からん」

「そうですか」

 そう返してふたたび玄関ホールに視線をもどす

「月で口説くのか? なかなか古風だのう」

 叔父がニヤニヤと笑う。

「口説き文句なのですか?」

 やや人の多くなってきた玄関ホールにアルフレードは視線を移した。

「お、グエリ家の当主が来とる」

 叔父が玄関の大きな扉をながめる。

「あいさつしてくるか?」

「いえ……今日はちょっと」

 アルフレードは言葉を濁した。心にいまだある引っかかりで、とうぶんは愛想よくできそうにない。

「旅先でおまえが面会させろと息巻いとると聞いて、早々にもどったと聞いたが」

 早々だったのか、あれで。アルフレードは眉をよせた。

 あのときの経緯を思い出すと、いまなおスッキリとはしない。

「もどったら娘の葬式が終わっとったそうな」

「そうでしょうね」

 そばについている従者は、以前ナザリオにとり憑かれ私室にきた者だ。

 うすい色の金髪にはっきりとした目鼻立ち。目立つ整った容姿だ。

 あの出来事のあと、さぞや首をひねっただろうなとアルフレードは気の毒に思った。

 グエリ家の当主について歩く様子を何気なく目で追う。

 背筋を伸ばしたうつくしい姿勢で当主のそばに立つ様子は、こちらの家の従者と同じだ。


 おかしな感じはない。


 考え過ぎたかと思った。あの従者を見ると、つい中身はナザリオではないかと思うようになってしまった。

 グエリ家の当主に目線を移す。

 ほかの来客と談笑していた。

 ざわめきが大きくなり、玄関口からつぎつぎと来客が訪れだす。

「集まりだしたな。わしもあいさつしてくる」

 叔父が片手で仮面を直し、アルフレードの肩をたたく。

「ええ」

 そう返事をして、アルフレードは叔父を見送った。


 ふと視線を感じて、もういちど階下のホールを見る。

 例のグエリ家の従者が、じっとこちらを見上げていた。





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