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【完結】死の世界へようこそ  作者: 路明(ロア)
Episodio due 死の精霊

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Fata di morte. 死の精霊 I


「人のペットに危害を加えるでない」


 女が告げる。

 何のまえぷれもなく、あたりまえのようにその場の光景に加わっていた。

 艶のあるきれいな黒髪のうしろ姿。アルフレードは呆然と見つめた。

「アルフレード、おまえこいつのペットなのかい?」

 骸骨が笑いながら問う。

「そんなわけがあるか」

 アルフレードは眉をよせた。

 わけが分からなかったが、動揺より自尊心のほうがまさった。

 懸命に手がかりになりそうな記憶をさぐり、目のまえで起こったことを推測する。


 この女に平手打ちを食らわせられた記憶がよみがえった。


「……下僕と言わなかったか」

 アルフレードは尋ねた。

「下僕が嫌だと言うから変えてやった」

 女がこちらを振り向く。

 身長差のせいだろう、目尻のきつい黒目を上目づかいにした。

「優しいであろう?」

「何を言っているのだきみは」

 それよりも、とアルフレードは思った。

 あれは夢か何かではないのか。


「こいつは、古代(いにしえ)からこの地方にいる死の精霊だ。名を炬の如き花(ベルガモット)


 骸骨が女をさす。

「そしてこの吐き気をもよおす骸骨は、わりと最近死んだ悪霊のナザリオ」

 ベルガモットが、黒いレースの手袋をはめた手で骸骨をさす。

「これでも三百年は生きているんだよ?」

 ナザリオがククッと笑う。

「だまらんか、汚ならしい」

 ベルガモットが吐き捨てる。

 わずかも対等には考えていなそうな口調だ。

「ラファエレではないのか……?」

 アルフレードは問うた。

 ベルガモットが黒髪をしっとりとゆらしてこちらを振り向く。

「よろしい。ペットに発言をゆるす」

「いつもそんな話し方なのかきみは」

「それが質問か。答えは然り(S i)だ」

 答えるとベルガモットはふたたび骸骨のほうを向いた。

「そうではない! あれはラファエレではないのかと聞いているのだ」

 ベルガモットが見下すようにナザリオを見る。

「死体や生者にとり憑いては、目をつけた者を混乱させて面白がっている(ごみ)だ」

「なぜそんなことを」

「さあ。いきがいなのではないか?」

 ベルガモットが首をかしげる。

「いきがい? 死んでいるのだろう?」

 ベルガモットが甲高い声で笑う。

「そのとおりだ。このペットはおもしろい」

「そのペットはやめてくれないか」

 アルフレードは顔をしかめた。

「では下僕」

「その二択しかないのかきみは」


「アルフレードを捕まえて蘇生させるとは」


 ナザリオが含み笑いをする。

「蘇生?」

「下僕の願いを聞いてやった」

 ベルガモットが答える。

「ナザリオ、おまえもご苦労だのう。その身体が生きている時分から貼りついて、この下僕のことも見ていたわけか」

「生きていたときから?」

 アルフレードは問い返した。

「ラファエレが生きていたときからいたのか?」

 ベルガモットが視線をこちらへ向ける。

「発言をゆるす」

「いちいちきみの許可はいらん」

 アルフレードはそう返した。

「まさかとは思うが、ラファエレが死んだのは」

「どうなのだ? ナザリオ」

 ベルガモットが代わりに問う。

「どうだったかな」

 ナザリオが肩をすくめる。

「脳が溶けたので記憶ができないそうだ」

 ベルガモットが高飛車に笑う。

「あいつは脳が溶ける病気で死んだのだよ」

「……脳が」

 話が逸れていないかと思ったが、とりあえず聞き返す。

「そんな奇妙な病気があるのか」

脳髄(のうずい)に小さな生きものが入っておこる」

「虫か?」

「もっと小さなものだ。目も耳も手も足もなくて、グニャグニャと動く」

 ベルガモットが、ほそい指をウネウネと動かしてみせる。

 その生物が動くさまを表現しているのか。

「そんな生きものがいるのか? 本当に神が造りたもうたものか?」

「そんなことはおまえの神に聞け」

 ベルガモットがそっけなく答える。


「神か」


 ナザリオがあざけるような口調でつぶやく。

「冥王と交渉したのか」

 歯をカタカタと鳴らして笑う。

「アルフレードを蘇生させるために。それで、だれを引きかえにした」

「引きかえ?」

 アルフレードは骸骨の空洞の目を見つめた。





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