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死の世界へようこそ  作者: 路明(ロア)
Episodio dodici 地下墓地の令嬢

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Nella sala da pranzo. 食堂広間で

 食堂広間に、やわらかい陽光が射しこんでいた。

 ここ数日は時間の感覚が曖昧(あいまい)だったが、ふいにまだ昼まえかとアルフレードは思った。

 目のまえで女中たちが食事の用意をしている。そのさまをぼんやりとながめていた。

 若い赤毛の女中が、スープ皿をテーブルに置く。

 ラファエレの一件以来、何かと話す機会のある女中だ。


「私は、まだ生きているか」


 頬杖をつきながら、アルフレードはぽそりと問いかけた。

「どうしたんですか、坊っちゃま」

 女中が心配げに尋ねる。

 ベルガモットにあそこまで言ったのだ。

 つぎの日にはもう、自分は冥界へと送られ代わりに母がこの屋敷にいるものと想像していた。

 それともとり消しはできないものなのか。

「坊っちゃまか」

 陽光を通すレースのカーテンをながめて、アルフレードはつぶやいた。

「おまえは年配の女中たちと同じ呼び方をするな」

「婆ちゃんがこちらに仕えてましたから。坊っちゃまのことは、ずっと “坊っちゃま” で話を聞いていたんで」

 女中は手を止め、アルフレードの顔を見る。

「やっぱ変えたほうがいいですか?」

「いや……べつに」

 家によっていろいろ考え方はあろうが、とくに気にしたことはない。

「馬丁は?」

「馬屋にいますよ」

 女中が仕事を再開する。

「いくらあたしたちだって、そうしょっちゅう一緒にいませんよ」

 女中が横目で遠慮がちにこちらの様子を伺ったのが分かった。

 クリスティーナが亡くなって以降、屋敷のどこに行ってもこんな視線を送られる。

 気を使おうとしているのは分かるが、こちらも自身の表情が気になって居心地が悪い。

「あの、おもしろいお話でもしましょうか」 

 女中がムリに作ったような笑顔を向けた。

「どんな」

「あたしの男友達の話なんですが」

「あの馬丁か」

「いえ、あれとはべつの男友達です」

 アルフレードは顔をしかめた。

「……あれは男友達だったのか」

 ええと……と女中は苦笑いした。

「というか、男友達とやらが何人いるのだおまえは」

「坊っちゃま、そういうこまかいことは考えず」

 女中がひらひらと両手をふる。

「その男友達がどうした」

「おとなりの家を覗いてまして」

「何か怪しいところでもある隣人だったのか」

「いえ、美人の未亡人がいる家で」

 すでにげんなりした。

 こいつらの人間関係は、すべてこんなやつばかりなのか。

「それで?」

「その家が漆喰(しっくい)を塗り直したばかりで」

「そうか」

 アルフレードは目を伏せた。

「……もういいんですか?」

「オチの予想がついた」

「それじゃ、べつの男友達の話で……」

「こんど聞く」

 アルフレードは席を立った。

 厨房へと行っていた執事が、ほぼ同時に入室する。

「出かける」

 ドアのほうにつかつかと向かいながらアルフレードはそう告げた。

「お食事は」

「いらん」

「きのうも召し上がっておられなかったのでは」

「……そうだったかな」

 アルフレードは答えた。

「どちらへ」

「安否不明の親戚の様子を見てくる」

「二件とも、東と西にかなり離れておりますが」

 執事が外をながめる。

「両方見てくる」

「今日中にですか」

「そうだな」

 アルフレードはそう返した。

「無茶です」

 執事がきっぱりと言う。

「片方くらいはほかの者に任せてください」

「私が行ったほうが話が早い」

「アルフレード様」

 執事が呼びかける。


「何か隠しておられるのでは」


 アルフレードは目を見開いて立ち止まった。

「サン・ジミニャーノのご親戚の件についても、何かご存知なのでは」

「……何かとは何だ。知るわけなどないだろう」

 アルフレードはかなり間を置いてそうと答えた。





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