Signora delle Catacombe. 地下墓地の令嬢 II
気の渦がやみ、静かになる。
アルフレードは、クリスティーナの埋葬された場所をぼんやりとながめた。
二人の墓掘り人夫が、穴を埋めている。
周囲の参列者は、そわそわと立ち去るタイミングを伺っているように見えた。
土を平らにならし、墓掘り人夫がグエリ家の使用人に「こんなもんですか」というような視線を送る。
きれいに着飾り花に囲まれたクリスティーナの最期の姿を思い浮かべ、アルフレードはふたたびうつむいた。
コツ、コツ、と優雅なヒールの靴音が近づく。
「気の毒ではあったが」
ベルガモットがそう声をかけてくる。
「あのような禁忌の行為をやりはじめた時点で、こうなることは決まっておったようなものだ」
「禁忌の……」
アルフレードは顔を上げた。
「あのまじないを知っているのか?!」
「まじないなどであるものか。あれは人がやれば気が触れると言われておる行為だ」
ベルガモットが肩をすくめる。
アルフレードは、許嫁の埋葬されたあたりをもういちど見た。
「知っていたのか……？」
「古来から禁忌とされておる行為だからな」
ベルガモットが答える。
アルフレードは大きく目を見開いた。
危険を知っていた者がこんなに近くにいたのに、なぜこうなった。
「きみは……クリスティーナがあれをやっていた場にいなかったか？」
「おったが？」
ベルガモットが淡々と答える。
「なぜ教えてくれなかった」
「おまえがやっていたわけではないからだ」
ベルガモットが平然と答える。
「それでも教えてくれても……！」
「なぜだ。あの女はわたしの下僕でもなんでもない」
アルフレードは、呆然とベルガモットの顔を見つめた。
出逢いのときの態度に反発はあったものの、いつの間にか彼女とは心が通じ合っているかのような錯覚を起こしていたことに気づいた。
だが違うのだ。
ナザリオの言うとおり、やはり彼女は生身の人間とは相容れない人外の者なのだ。
「……それがきみの価値観か」
ベルガモットが眉をよせる。
こうして責める意味も察してはもらえないのか。
アルフレードは、それ以上は追及せず背を向けた。
離れた場所で、従者がこちらの様子を伺うような向きで立っている。
アルフレードは、従者に向けて「帰る」と動作で示した。先に墓地の出入口に向かって歩きはじめる。
「悪いが……とうぶんきみの顔は見たくない」
アルフレードはそうベルガモットに告げた。
「主と会う会わないの選択の自由など、下僕にあると思っておるのか？」
ベルガモットが背中に向けて答える。
「そもそも主従など承知した覚えはない。承知する理由もない」
アルフレードは、できうる限り感情をおさえて続けた。
「それで蘇生をとり消すというなら、そうしてくれ」
「ふん……」
ベルガモットが、小さく鼻を鳴らす。
アルフレードがかまわず歩を進めると、ベルガモットは背後から吐き捨てるように言った。
「とうぶん顔は出さん。気がすむまで泣き暮らしておれ」
