Corridoio con persone morte. 死者のいる廊下 II
「まさかと思うが、おまえら全員で共謀して母を」
「そんなまさか!」
つい言ってしまった臆測にたいして、二人の使用人は声を上げた。
「おお大奥さまにそんなことしたって、俺ら何にも得しないですよ」
「そそそうですよ。あんなお優しい方を……!」
アルフレードは自身を落ち着かせた。
さすがにこれは突飛だったか。まあ動機はなさそうだ。
アルフレードは二人に背を向け、ベッドに座った。
考えをまとめようとしたが、何からまとめたらよいのか。
「坊っちゃま……えと、あたしたちあとどうしたら」
女中がおずおずと尋ねる。
「つかあの……本当にアルフレード様で?」
馬丁が問う。
「それ以外の何に見えるんだ!」
アルフレードは声を荒らげた。
何かを忘れている気がしていた。
一ヵ月まえに亡くなったという母、二ヵ月まえに死んで埋葬されたという自分。
そこまで考えてアルフレードはおもむろに顔を上げた。
「いまこの屋敷をとりしきっているのはだれだ?」
二人の使用人に問いかける。
ここの当主はアルフレード自身、当主の家族は母のみだ。
父は十年まえに亡くなり、アルフレードはまだ少年だったころに跡をついだ。
母も自身もいなかったとなれば、だれが屋敷の主人を務めていたのか。
「ラファエレ様ですが」
馬丁が答える。
「ラファエレ?」
アルフレードは眉根をよせた。
「坊っちゃまの従兄さまと聞きました。大奥さまが亡くなられたつぎの日にいらして、自分がこの屋敷の主人とチェーヴァの当主を務めることになったからと」
「そんなわけが」
アルフレードは声を上げた。
「従兄のラファエレなら、八年前に死んでいる」
アルフレードはベッドから腰を浮かせた。
二人の使用人が、座った格好で後ずさる。
これは何だ。
いったい何が起こっているのか。
「流行り病だ。私は葬儀にも出ている」
十七歳のときだ。
感染のおそれがあるので棺に近づくことはできなかったが、遠目で別れを告げた。
十歳ほど歳上の兄のような存在だった。
「遺体はたしかに見た。埋葬されるところも。間違えるわけはない」
アルフレードは顔を上げた。
「ラファエレを名乗る者は、いまどこにいる」
「え、えと」
女中はおろおろと廊下のほうを見た。
「執務室ではないかと」
「執務室だな」
アルフレードはベッドから立ち上がり、出入口に歩みよった。
いまだ腰を抜かしたように出入口に座りこむ使用人二人のまえを通りすぎ、廊下へと出る。
「どこの不届き者だ。伯爵家の当主に成りすますなど」
この屋敷が当主不在だと知った不埒者か、それとも何かと一族の主導権を握ろうとしている叔父たちの手の者か。
「とっちめてやる」
アルフレードは吐き捨てた。
カツカツカツと廊下にひびいた自身の靴音に、すぐにゆっくりと歩く靴音が交じったのに気づいた。
廊下のつきあたりから、長身の男がこちらへと歩みよる。
「騒がしいね。また怪異でも起こったの?」
男がそう尋ねる。
古い造りの屋敷だ。廊下はきわめて窓が少なく、うす暗い。
男はつきあたりの大きな窓を背にしていたため、顔が逆光で見えづらかった。
「貴様か。ラファエレに成りすましている不埒者は」
「おや、アルフレード」
男が答える。
こちらの顔を知っているのか。アルフレードは目を眇めた。
「元気だったのかい。死んだと聞いたんだが」
男が肩をゆらして笑う。
男の頬にうすく外光が当たり、かなり痩せこけた顔らしいのが分かった。
「どうしたのアルフレード。こちらに駆けよってきてくれないのかい?」
男が、抱擁をうながすように両手を広げる。
「少年のころはあんなに慕ってくれたじゃないか。しょっちゅうピストイアの屋敷をたずねてきて、私の私室でいっしょに過ごした」
私的なことまで把握しているのか。アルフレードは警戒をつよめた。
「使用人らの言うことによれば、母が亡くなったつぎの日におまえが現れたそうだが」
「おや、勝手にしゃべったのか」
男は使用人らのほうを見た。
「そこらの部外者には分からんだろうが、跡継ぎのまだいない当主の後継問題など、つぎの日に簡単に決まるものではない。少なくともチェーヴァはそうだ」
アルフレードは言った。
「はたで見るほど旨味もない当主の座に、なぜかどんな手を使ってでもなりたいという馬鹿が多い」
男が、ククッとかすかな声で笑った。




