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第弐話:靖国神社

さすが世界一の乗降客数を誇る駅というべきか、新宿駅はたくさんの人でごった返していた。


そして、やたら目に付くのは戦争反対を掲げる人たちの声だ。


例の戦争が起きて早3年、こっちにも戦争を仕掛けた当事国が攻めてくる危険性が昔以上に迫っているのにご苦労なことだ。


「せんそうほーう!はんたーい!」


「せんそうほうはんたーい!!」


「子供たちを殺す政治家を許すなー!」


「ユルスナー!!」


たまにいるんだよな。ああいうの・・・。


俺も戦争は好きじゃない。だが、この平和が続いているのは四方に潜む敵と同程度の力を有しているからだと俺は思う。


絡まれると面倒なので、彼らの間を早足で抜けつつ総武線のホームまで急いだ。


市ヶ谷駅に着いた。俺はそこから靖国神社へと向かった。


俺の曾爺さんがそこに祀られていて、学生のころは毎年8月15日にそこに参拝する決まりがあった。


ただ、ブラック企業に勤務していた時は忙しすぎてなかなかこれなかったが・・・。


よく虐められることが多かった学生時代だが、ここに来るとなぜか気を引き締められて明日も頑張ろうという気分になった。


だから、ここに来た。しばらく帰らずに自分の力で生きて行ける勇気をもらうためにここに来た。しかし・・・・。


「あちぃ・・・。」


最近、どんどん夏が熱くなってきている気がする。スマホの温度計を見ると気温が40度を超えていた。


「ニートにこの気温はきついぜ。」


そうつぶやきながら威圧感を放つ右翼街宣車の車列を横目に南門までたどり着いた。


ふと、前方を見ると猫を抱いた女の子が横断歩道の方を向いてじっと立っていた。


「大丈夫、お母さんは待っているわよ。」「うん!」「にゃー。」


どうやら横断歩道が、女の子が渡ろうとする前に赤になってしまったようだ。


少しばかり癒されていると・・・。


「ガピー!!!」


けたたましい音割れが横に止まっていた右翼街宣車のスピーカーから鳴り響いた。


「にゃにゃ!!」


驚いた猫が女の子の腕から飛び降りて、まだ赤なのに女の子の母親の方へ駆け寄ってしまった。


「あっ!めめちゃん、待ってー!!」


すかさず女の子が走り出す。


「あゆちゃん!だめ!!」


母親が女の子の名前を叫ぶ。


俺は、気が付くと女の子を引き戻そうと腕を伸ばしていた。


そして運悪く、猛スピードで走ってくる別の右翼街宣車が迫って来た。


このままじゃ女の子が死んじゃう!


そう思った俺は、ようやくつかんだ女の子の腕を思いっきり引っ張り、車を背にして女の子を守ろうとした。


お腹に女の子の匂いと暖かさが来たと同時に背中に大きな衝撃が来た。


俺が見えている景色がゆっくりになり、今までのろくでもない思い出がふいに次々とよみがえって来た。


「あ・・・俺・・・死んだかも。」


女の子だけは傷つけまいと俺は体を丸めた。


コンクリートに体がぶつかった衝撃で少しせき込んだ。


それと同時に肺が傷ついたのか口から血反吐を吐いた。


心臓の鼓動も聞こえるが、鳴るたびに胸のあたりに激痛が走る。


「あゆちゃん!大丈夫?」


「大丈夫だよ!痛くないよ!でも・・・おじさんが!!」


少女は泣きそうな顔で俺を見つめる。


「心配するな。・・・おじさんはお前が助かっただけで十分だ。」


体中がすごく痛い。何より少女と母親の声がぼんやりとしか聞こえなくなってきた。


俺は南門の方を向いて精一杯の笑顔でつぶやいた。


「曾爺さん。見ているかい?俺・・・人生の最後に女の子だけは守れた・・・ぜ。」


俺の意識はそこで途絶えた。

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