「愛」 -ai-
想いを寄せる相手に害を与える
――例えばヤンデレとか。
そういうのは、所詮「恋」止まりだ。
『俺に優しさなんてないで』
結局、自分を愛せないのでは、結局心は冷えたままじゃないだろうか?
なら俺が、その氷を融かす役をしてやりたかった。
「いくらでも慰めてやるよ」
でも、サーショの隣にはもう彼女がいる。しかも、サーショの本性を知る理解者として。
――俺は、一番の“存在”には成れない。
一番の“友達”として、その役を演ればいい。それが一番利口な選択なのは頭では解ってる。
だけど。
「この感情は恋じゃない」と決めつけたが、結局のところ――
サーショが俺に触れ、俺がサーショを熱く求める、その妄想。
サーショが欲しい、その欲。
――それを完全に捨てることは、難しそうだった。
俺はプラトニックには成り切れないし、かつそんな気持ちを生き腐れにしてしまうのも……自分に嘘をつくような、そんな気がして嫌だった。
もちろん、これは俺の想いのなかでも、危険域のものだ。常にこんなことを考えてるわけじゃない。
とは言え、仮にもしプラトニックに想う気持ちであったとしても、サーショが俺のこの感情を受け取るなどありえないし、あってはならないだろう。
だとして、俺とサーショが今後親友として付き合っていくことは疑う余地も無く、そんな距離感で居るのに、この感情を完全に捨て去って諦めるなど、無理な話ではなかろうか……。
つまり。
つかず離れずな距離に居ながら、絶対的な好意を抱いて、しかしそれ以上先には進めない。
(……地獄かな?)
また、サーショとのDMの画面を開く。
また、意を決して、送信する文字列を打ち込む。
(もうサーショには彼女が居る)
(俺みたいなロクデナシが隣に居ていいのだろうか)
(言っても大丈夫、なんて、都合のいい妄想も甚だしい)
(伝えたとしてその先は無い)
不安と猜疑を、決意と勇気で振り切って、送信ボタンを押した。
「久々に会って話さない?」
不思議な感覚があった。
一度吹っ切ってしまえば、「大丈夫だ、拒絶されはしない」と、サーショを信じることができた。
……もちろん、不安や俺のエゴも、未だ多少は残っている。
やがて、俺の気が変わってしまうかもしれない。
俺がただ、さみしかっただけなのかもしれない。
でも、それでよかった。
俺がサーショへ渡す想いは、たくさんある。
この想いと、これまで共有してきた時間を考えれば、サーショも俺自身も、信じることができる。
だって、親友だろ?
「俺→サーショ」の矢印がデカすぎるだけ。それにサーショが応えなかろうと、受け止めてくれるだけで充分。俺はこの想いを注ぎ続けるだけ。
そしてサーショは、受け止めてくれる。
この想いで、俺が知らなかった、サーショの心の氷を融かす手伝いをしたかった。
……解っている。その役割に最適任な人は、俺じゃなくて、彼女だろう。
だとしても、それがなんだと言うのだろうか。
ただ、「どうか、しあわせに」と、願うだけ。
ただ、必要そうなら、助けてやるだけ。
だから。
久々に会った、サーショへ。
「愛してる」
……恥ずかしくて、目を見て言うことはできなかったけど。
「ほかにも友達は居るけど「居るんだ……」ここまで大切に想ってくれるのって、お前だけだと思うんだよ。……はじめてのことだから、正直戸惑ってるけど」
そりゃそうだろう。同性の親友にこんな想いぶつけられて平然としてるようなら、それこそ心が凍り付いてる。
でも、サーショはそうじゃない。
「ありがとう。これからも変わらずやっていけたらって、そう思う」
「そりゃねぇ。俺がこんなだからさ、完全に変化ナシとはいかないだろうけどさ、俺も関係性を変えようとは思わないよ。だって、サーショには彼女が居るわけだし……」
「でも、お前はかけがえのない存在だよ」
その言葉が、俺にとって、どれだけの意味を持っただろうか。
俺の中の懊悩なんて、その一言ですべて片付いた。
「っ! ……ありがとう」
「でもさ、お前がそういう風に想うのって、周りに人いないからじゃないの?」
ピシ、と。
シリアスを破壊する一言だった。
「友達、いないの? 増やしなよ」
(気持ちはわかるんだけどなーんでそんなこと言うかな~~~~???)
「依存気味だって言いたいんでしょ? 可能性としてはゼロではないけど……できるかいな」
俺は笑って、そう答えた。
だって、今は。
サーショを超える、そんな相手は想像できないし、したくなかったから。
今、俺は、サーショだけを愛していたい。
まだまだ伝えきれていないけど、溢れ出す想いはどれも嘘じゃない。
サーショのしあわせを願う想いも、「俺なんかが……」なんて卑屈さも。
無理だと解っていてもサーショが欲しい、そんな醜悪な独占欲だって。
全部、俺の正直な想いだ。嘘偽りは無い。だから受け入れられる。
……まだまだ、俺の我欲がチラつく。それはきっと、一方的な恋情。
だけど。
俺にとって、サーショは、一番大切な存在。
なら、サーショのことを第一に想うのが、スジってもんだろう?
俺は、愛を見つけた気がした。
この愛がある限り、俺は俺を受け入れて、そしてサーショを愛していく。
Type2:■■■
どっかの玄関の扉を模したデザインをした表紙を持つ本。
その本から、破かれたページのような、差し込まれたルーズリーフのような、
そんな感じの紙が落ちた。
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