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「心」 -shin-

 (俺はサーショのいちばんではない)

 ――ただの事実だ。俺に不都合なだけの。


 (サーショは俺を見ているのか?)

 (俺はサーショを見れてるのか?)

 ――わからないことだ。そうであると信じているだけで。


 (その感情は本当に在る?)

 事実と不明が、俺の心を揺るがしていく。




 (なにもサーショのこと、知らないくせに)

 ――知ればいいだけの事だ。


 そうだ。ただそれだけだ。






 あのDMのやりとりから数日。

 6年間の隙を埋めるために、思い切って、またサーショとのDMの画面を開いた。




 「サーショってさ、SNSで感情が全然出てないよな」

 気になっていたことだった。

 もちろん、俺とサーショは違う人間で、俺の行動原理が当てはまるわけじゃない。俺のように何でもかんでも表に出す方もおかしいのは確かだ。

 ……だが、それにしたってどうにも無機質だったのだ。どの投稿も、ただ、たまにあった出来事を書くだけで、それに対する感情というものが、いまいち読み取れなかった。


 「現実との棲み分けができてる結果なのか? それとも?」

 俺の知らないサーショは、心を失くした冷たい人間なのか?


 果たして、サーショの返事は――

 『中学の頃は出てたけどね……感情を出すのが恥ずかしくなった、というか』

 「ありゃ、俺と行き違いかぁ」

 どうにも掴み所の無い応答だった。だが。


 『たまにどうしてもネジが外れて感情的になることあるけどね』

 「そのようで。ゲームしてるとき、たまに荒れてるもんな。意外だった」

 ……そうなのだ。

 サーショは、ゲームでミスや敗北が積み重なると、どうにも自分を責めるきらいがあった。それも、過度に。


 『それが本性やで』

 (ほら、また自分を責めてそんなことを言う)


 「本性じゃないでしょ。荒れてるのが本性だったら彼女なんてできないでしょ」

 よりによってサーショが、そんな風に自分を卑下しているのは、見てられなかった。


 「やっぱり意外なんだよ。俺の知ってるサーショは「自分を責めすぎたり豆腐メンタルだったりするけど、底抜けに優しい」って奴だったからさ。あくまで最近の傾向でザックリ分析した結果だけどね」

 俺の中で出来上がってきていた、ここ最近のサーショ像を伝えてみる。サーショはそんな悪い人間じゃないって、伝えてやりたかった。


 『何か揉め事があってイラついても、自分が悪者になって、それで事が収まるんだったらそれでいいと思ってるんだよ』

 ……つまり、「あーハイハイ俺が全部悪かったよ」を何度もやってきたということだろうか。


 『揉め事が長引くの、自分は嫌だからさ。その気持ちを相手にさせたくないだけ。実は結構俺一人でイラつき抑えてたりするんやで?』

 ……なんだか、いたたまれない。


 「これまた俺の知らなかったサーショだなー」

 『俺の事知ってる人の方が知らないと思うよ』

 「隠してたか」

 『自分が感情任せに言われたら嫌だから他人にそれを押し付けないように心掛けてるつもり。正直、お前も俺と同じ感じやと思ってた』

 「いやー、全然違うなー。……底抜けの優しさだよねソレ」


 本心だった。常日頃からトラブルに巻き込まれているわけでは勿論ないだろうが、「揉め事をの苦しみをお互い味わうことが無いように自己犠牲を選ぶ」というのは、尊い行いと思えた。




 だからこそ。


 『俺に優しさなんてないで』


 その一言の返信は、氷のようだった。




 「そんな……」

 『面倒事にしたくないっていう堕落した心を持ってるだけ』


 「はは、そこまで言われちゃ擁護(ようご)はできないけども」

 本人がここまでハッキリと言い切ってしまうと、何も言えなくなってしまう。


 「………それでサーショがズタボロになっていくのは見てられん」

 俺の知らないところでイザコザが起きるたびに、心を犠牲にしてきたのかもしれなかった。

 「その様子じゃ見せてないだけで、きっとお前は……」


 『そこは多分大丈夫だから気にすんな。そういう心配されるだろうから言ってないんだって』

 (頼む、もっと自分を大事にしてくれ)


 「……愛情、ある? あるんだろうけどさ」

 『彼女への?』

 「そうでもある。他者への、でもあるし自分にも向けてる? ってことも訊きたいな」

 『自分のこと嫌いだから、自分にはあんまり愛情とかは無いかも』

 (だと思った)


 「他者へは? 彼女には?」


 『友達に対しては、愛情というか、いつも親切にしてくれてありがとう、みたいな、そんな感謝があるかな』

 眩しい心掛けだ。俺が一番に想うひとだから、という補正を抜きにしても間違いなく尊い心掛けのはずだ。


 『彼女のことはもちろん第一に思ってるよ、自分の本性を知ってる数少ないひとりだから愛情は注ぎまくってる』

 安心したと同時に、また目が緑色になってきた。


 「よかった、この流れのままだと「全部うわべだけ」とか言い出しそうだったから安心した」

 『それどんな薄情者だよw』

 「それくらい俺の知らなかったサーショが冷たく見えたんだってば」

 『そっか、ごめんな』

 「ほんとだよ!w」

 とりあえず、心を失くしてしまったわけではないようだった。


 『最近感じてるのは、自分が嫌いだから他者への感謝が尽きないってこと。こんな自分に親切にしてくれてありがとうって思ってるよ、思うだけだけど。だからお前に冷たい奴だと思われてたんだなって』

 「SNSにはその冷たさすら出てこなくて、なにも分からなかったんだってば!」

 『そっか』

 サーショの言う「本性」に触れられて、サーショのことがわかった気がする。

 だからこの遣り取りは、とても価値ある事だったと思う。


 「やっぱりサーショは冷たくなんかないよ」

 他者への感謝が尽きないのなら、冷たくは無いだろう。


 「自己犠牲しても和を保つって俺には真似できないし」

 これは間違いなく尊敬できるところだった。


 そしてなにより……。

 「俺みたいなのを一番の友達って言ってくれたんだから」

 ……気恥ずかしさと悔しさで、送信ボタンを押すのを躊躇った。


 「心配してるというか、しあわせになってほしいんだな」

 これが、俺の本心だ。






 今すぐにでもこの心を曝け出してしまいたかった。

 が、今一度その衝動を抑えて、あらためて、俺の心を整理してみる。


 (俺はサーショのことが好きなのか?)


 (勘違いだ)

 (「男を好きな男」って自分に酔ってるだけじゃない?)

 根絶できない、自分への猜疑心。


 (彼女居るんだし、この感情はどうせ受け取ってもらえない)

 (そもそも俺はサーショとは釣り合わないんじゃないのか?)

 拭えない、自己嫌悪。


 自分で自分を疑っていく。

 自分で自分が信じられなくなっていく。

 自分で自分が分からなくなっていく。




 でも、感情を否定すればするほど、感情が浮き彫りになっていく。




 『サーショはそんな悪い人間じゃないって、伝えてやりたかった。』

 『(頼む、もっと自分を大事にしてくれ)』

 『しあわせになってほしい』


 コレだって、本心だろう。

 この感情は、嘘じゃない。


 そう思いたかったし、そう思った。




 これは、恋じゃないと。

 そう、思いたかった。

Theme:愛に至るまで

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