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「友」 -yuu-

 〈202X年、日本〉


 大学生になった俺たち。

 真面目なサーショと不真面目な俺、その間にある隙は広がってく一方だ。予定も合わないし。

 それでも、時間が合う時に通話しながら例のゲームするくらいはできた。






 そんな、日々が始まって早や1ヶ月、五月のこと。

 その日も、つながった人たちと、通話しながら例のゲームをプレイしていた。


 「いってー! いや、サーショ……ホントにふつーにいい腕してるよ、うん」

 サーショが、ゲームでの俺の操作キャラを遠距離キル。


 『えー? そうなの?』

 どうにもゲームで知り合った人たちは懐疑的だった。というのも……


 『ウワアッ!?!?』

 サーショが操作ミスで、地形の奈落へ落ちていく。いわゆる自滅というヤツだ。

 ……これがサーショのいつものプレイのようだった。

 そう、どうにも自滅が多いと評判なのだ。


 「褒めたらコレだよもー……これだからサーショはー」

 ついつい、仕方ねぇ奴だなって感じの声色で追い打ちをかける。

 シリーズ累計プレイ時間は、どう考えても俺よりサーショのほうが長いはずで、それなのにこの体たらくなのである。そりゃ多少なりの嘲笑は出てしまう。


 『愛情たっぷりに言うなって』

 スピーカーの奥のフレンドがツッコミをかけてくる。


 「いやぁ~……」

 (愛情……愛情、か)

 「愛情ありますんでアタシ」

 それに俺はおちゃらけて返していく。


 思考を掠めた“愛情”という言葉は、慌ただしいゲームスピードにさらわれるかに思えたが――




 『や、マジで俺……お前の事、愛情無い人間だなと思ってた』

 サーショがそんなことを、呟いた。




 「えぇ!? そんな……」

 また、心が引っ搔き乱されるようだった。

 「そんなことサーショに言われるの嫌なんだけど!?」

 もう思うままの言葉が出ていた。


 動揺がモロに出たか、俺はまたキルされてしまってリスポーンに戻る。


 「えーちょっ……えーちょっと、あの、サーショにそんなこと言われるのすげーショックなんだけど! 悲しんだけど!」

 もちろん他の人も居る通話環境だ。ガチのトーンじゃなくて、いつもの軽い口調だが、それでも動揺は隠せていたか……わからない。


 『だって、性格がそっけないじゃん』

 笑いを含みながら、サーショは言う。

 不意に俺が必死の訴えをしたことが可笑しかったらしい。


 「『そっけない』?」

 脳内で瞬時に、これまでのサーショへの態度を反芻する。


 ……日常的に接していた最後の日々は中学生のときだ。

 一~二年生のときはクラスが別だったから、印象が残っていると思えない。

 そして三年生の時には、性格の荒んだ(状態から復帰しつつある)俺がサーショに接していたことになる。


 とはいえ、高校三年間の間に、荒むような出来事は無かった。

 今の俺なら、サーショに対して、そっけない態度をとることは、きっと無いと思うのだけど……。

 だが、今のサーショがソレをわかるわけがない。


 「中学生の頃はそもそもクラスが違いすぎて会わなかっただけじゃないの~」

 自分でもびっくりするくらい早口だった。


 『そうだろうか?』

 「だって中二……痛ってー! ほらいい腕してるって」

 話の腰を狙撃で折ってきた。


 『それは、狙われやすいんじゃないの? キミが』

 俺の動きの悪さを見兼ねたか、フレンドが揶揄ってくる。


 「たしかにそうかも? 愛ゆえに?」

 搔き乱された心が“愛情”という言葉を放さなかったせいで、ガラにもなくそんなことを言ってみた。


 『体出し過ぎなんじゃない?』

 当然、俺の気持ちなど知る由もなく、サーショは真面目にゲームのセオリーを返してきたのだった……。






 夜も深まり、日付を跨ぐくらいでそのゲームはお開きになる。いつものことだった。




 でも、落ち着かない。眠れない。気になってしまう。


 『お前の事、愛情無い人間だなと思ってた』


 サーショにそんなこと言われたくなかった。

 サーショにだけは、そんなこと、言われたくなかった。




 ぐるぐると思案して、スマホの画面上部に表示された時間は午前1時。

 それでも意を決して、サーショとのDMの画面を開き、送信ボタンを押す。


 「俺そんなに愛情ない奴だと思われてた?」


 意外なことに、返信は1分後だった。

 なんでこんな時間まで起きてるんだとか、考える余裕は無かった。

 『中学んときは無感情やと思ってたな』


 (……やっぱりそうか)


 「中学の時はでしょ」

 『今日はちょっと言い過ぎた、すまん』

 「いやそこまでは。問題は今どう思われてるかだわ」


 ショックではあったが、怒るようなことじゃない。それは俺の本心だった。


 『SNSのお前を見てたら感情丸出しやな』

 「良くも悪くも?」

 『俺の知らなかったお前って感じ』

 「知らなかった? ……確かにそうなのかも。でも、人前だと沈静化するだけで、サーショとかの前でならありのままに振る舞うと思うぞ」


 中学の時の、いつ投げ飛ばされるかわからない異常な環境が、対面した他者からの悪意を嗅ぎ取る感覚をつくってしまっていて、それが警戒心となり、そっけない態度となって表出していたんだろう。

 だが――虚空に独り言を発するような、そして誰かに届いたとしても画面の向こう――SNSなら、他者からの唐突な悪意を気にする必要はさほど無い。

 だからこそ俺は悠々自適に好きにものを言って過ごしていた。そしてもちろん、そこに現れる態度は、俺の高校3年間の、比較的穏やかな生活が反映されていたことだろう。

 それを見て、サーショは「知らない俺」を知ったのだ。


 そう、つまり……


 『小学校以来全然遊んでなかったからね』

 「そうだわ、中学~高校はだいぶ距離ができてしまってる」

 離れてしまったなと感じているのはお互い様だということだ。


 『ゲームがあったから遊ぶ機会生まれてるけど、もし無かったら距離埋まらないままだったかも』

 「想像したくないなぁ」


 ……正直、ゲームで繋がっている今でも、距離は空いている。

 でも。


 「不思議なことに、そんだけの距離があったのに、サーショは俺の中で一番の友達と思ってるんだよなぁ……」

 『やっぱり一番最初に遊んだ人やからかな』

 「そうなのかなぁ」


 お互い、3歳頃の記憶なんて無いはずだ。


 「正直、そのことが記憶に無いからソコが関わってきてる感覚が俺にはないわ……」

 『俺も記憶には無い、だけどよう遊びよったっておばあちゃんによく言われてたから。だから俺は、それがあったから、今でもこんな関係で居られるんかなって思うよ』

 「根源的には関わってるのかもな」


 今はもうなくなってしまった、あの公園で遊ぶ幼い俺たちを想像してみた。


 ――あたたかい。それが今の俺たちに繋がっている。

 今の俺の、この感情に。




 「サーショは俺にとって一番大切な存在。ちょっと前に気付いたことだけどね」

 『そういってくれる友達がいるっていうのがまず嬉しいよ。俺もお前が一番の友達さ』

 「ありがとう」


 DMに残ったこの会話の履歴を見て、照れくささと嬉しさがはじけたのは言うまでもない。




 ……距離が開いた大きな要因に「高校が別々になってしまったこと」があるのだから、つまり俺が悪いはずだ。俺の怠慢で、この関係性が薄くなっている。

 それだけじゃない。真面目なサーショの隣で並び立つには、ダラケ切った俺は、本当は相応しくない。


 そんな、ロクデナシの俺を、サーショは。

 一番の友達と言ってくれたのだ。


 それは、とても価値のある、嬉しいことのはずで。

 だから、俺もサーショを一番の存在として想っているわけで。






 でも。


 一番の“存在”には成れないんだな、と。



 当たり前だ。サーショには付き合ってる彼女がいて、そちらが最優先になるに決まっている。解りきってる。

 

 (だけどさ、なら俺のこの気持ちはどうしろってんだよ?)

 (ならさ)(けどよぉ)(でもさぁ)


 そうやって、ひたすらに逆接の接続詞を並べ立てる、緑色の目をした自分がいた。

Type1:ジュブナイル恋愛

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