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第07話 閉鎖空間

「……まったく、どいつもこいつも余とロゼッタのひとときを邪魔だてしおってからに。次代の王たるもの嫉妬される身とはいえ、これでは流石に敵わん」


 などと憤慨しているルブランテだったが、実はとっくに舞台は整えてあった。

 王城内の私室からも離れたプライベートルームへとロゼッタを招き入れてから、茶の準備だけをさせると給仕を含めて何人足りともこの部屋には近寄らせるなと厳命しておいた。


 これでもう、部屋でなにが起ころうとも誰かがすぐさま確認に訪れることもない。

 つまり、この密閉された部屋の中には愛しあう一組のカップルのみ揃っているというわけだ。


 当然、肉欲を持て余した若い男女の間で過ちが起こらないはずもなく、あとは情事に耽るためのムードさえ作ってしまえば、あの零れんばかりの巨乳も衣服から覗く瑞々しい肢体も、すべて自分のものだ。

 もちろんその先にある、神々しいであろう裸体もなにもかも。


 ゴクリ、と生唾を飲むルブランテ。

 邪な考えが次から次へと湧いて、もはや自身を抑えられそうにない。

 人間の三大欲求である食欲、睡眠欲、それから――性欲。


 思えばカムシールは身持ちも固く、元婚約者でありながら婚姻関係を正式にするまで婚前交渉は行わないと頑として譲らなかった。


 その点ロゼッタなら言い方が悪いが貞操観念は低そうだ。

 以前それとなく尋ねた際に自分はまだ生娘だと言っていたが、確か胸の大きな女性は性に奔放と聞いた試しがある。


 そしてそれは、これまでの自分に対する性的なボディータッチからも伺えた。

 自ら媚を売るが如くその豊満な胸を押しつけ、あまつさえ男をその気にさせる甘い文言をそっと耳に囁いてきたりもしたのだ、まさかこれが自分の勘違いであるはずがない。


 故に王族の立場を利用して強引に押し迫れば、簡単に股を開いてくれるに違いないだろう。

 最悪乱暴してしまっても、臣下どもの働き如何でなんとかなるはずだ。

 少なくともそうするだけの権力はあるし、隣国出身とはいえ、たかが男爵令嬢如きが将来この国を背負って立つ自分に刃向かえるはずもない。


 だいたいこうも無防備に男と二人きりになっている時点で、少なからず向こうにもそういった類の意思があるのは自明の理。

 据え膳食わぬは男の恥であるし、どうせ遅かれ早かれ彼女を抱くことになるのだから、だったらその日が今日でも問題ないだろう。


 だがその前に少し喉が渇いてしまった。緊張と興奮と、それからカムシールとアイルゼン相手に激高したせいだろうかとルブランテ。

 性交渉よりもまずは茶で喉を潤そうとしてはたとあることに気付く。


「……しまったな、せめて給仕に茶を淹れさせてから追い出すべきだったか」


 返事を求めたつもりはない。たんに口を突いて出ただけの言葉であったが。


「でしたらルブランテ様のために僭越ながらこのわたくしがお淹れいたしますわ」


 と、ロゼッタ自ら買って出る。


「おお、頼む。ロゼッタが手ずから淹れてくれた茶ならばこの世のどんな甘露よりも極上の一杯となろうな、楽しみだ」


 茶も貴族の嗜みの一つだが、男爵令嬢とはいえ給仕に命令するのではなく自分で用意できるとは驚きだ。

 流石は自分が見初めた女だとルブランテは感心する。


「ええ、ですが恥ずかしながらわたくし実はお茶淹れが不得手でして。ルブランテ様にこのようなことをお願いして大変恐縮ですけれど、不格好なところをお見せしたくございませんので少しの間目をつむっていていただけますか?」

「目を? うむ、分かった」


 イスの上でふんぞり返って腕を組む。

 期待に胸を膨らませ、ニヤニヤしたまま両目を閉じるルブランテの近くでカチャカチャと食器の擦れる音がしていた。

 それにしても、あの完璧だと思われたロゼッタにも苦手なものがあったとは。まあ、この程度のことなど別に克服するまでもないだろうが。


「……お茶のご用意ができましたわ。ルブランテ様、もう目を開けてくださっても結構でしてよ」


 そんなことを考えていると、ちょうどロゼッタから声がかけられた。

 言われた通り目を開けると、目の前に湯気立つ紅茶が置かれていた。

 見たところ、いつも飲んでいる紅茶と見た目は遜色ない。

 とりあえず角砂糖を三つ投入してから、


「では、余の愛するロゼッタが淹れてくれた記念すべきこの一杯をいただくとしよう」


 どうぞと勧めるロゼッタに目で応え、ソーサーごとカップを口元に持っていく。

 鼻に抜ける香りは、いつものと同じ。

 口内に含んだ紅茶の味にも違いがない。


(なんだ、謙遜して茶が不得手と言っていただけで普通に達者ではないか。確かに元々上質な茶葉だとはいえ、これだけできれば見事だ)


 あるいはもしかしたら腕に自信がないだけかもしれない。王太子自ら本人を褒めてやればきっと自信もつくことだろう。


「お味はいかがでしょうか、ルブランテ様」

「うむ、やはりお気に入りのお前が淹れてくれただけあって美味うま――」


 最後まで言い切る前に吐き気がこみ上げてくるほど猛烈な不快感がルブランテの体を襲った。

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