表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/55

9 [オルディア]世界最強のメイド

 私とアルフレッドはメイド達の休憩室で頭を抱えていた。

 ここは私と彼の思い出の場所。

 パニックのあまり、気付けば二人揃ってここに来てしまっていた……。


 動揺するのも仕方ないと思う。

 ……ついさっき、娘のオルセラがドジを踏んで、地獄の戦場に転送されたのだから。


「思えば、オルセラは本当にそそっかしい子だった。何度、俺の執務室でバケツをひっくり返したことか……」


 依然として頭を抱えたままのアルフレッドが呟いた。

 私も彼も、四年前にオルセラがメイドになった時は喜んだものだ。あの子に会える機会が格段に増えるんだもの。

 実際にはひやひやすることの連続だった気がする。

 アルフレッドが言った通り、オルセラはとにかくそそっかしい……。


「……だけどまさか、ここまでとは」


 いや、嘆いている場合じゃない。

 すぐに緊急用の転送魔法道具で追いかけないと!

 部屋から出ようとしたその時、人が入ってくるのを察知して足を止めた。

 ドアノブが回転し、扉が開く。入ってきたのは……。


「ルクトレア……」

「オルセラを追うつもりね、オルディア。その前に私の意見も聞いてほしいんだけど」

「分かってる! だからずっと皆にあんたを探してもらってたんだよ!」


 あまりにも冷静な彼女に怒りを覚え、私はつい、バンッ! とテーブルを叩いていた。


 バッカンッ!


 とメイド達愛用の机はまっ二つに。

 椅子に座っていたアルフレッドが「またか」という代わりにため息をつく。……ごめんなさい。

 一方のルクトレアは全く動じる様子を見せない。


「いつも言ってるけど、あなた、自分が世界最強のメイドだって自覚ある?」

「ある、と思う……」


 私のクラスはまだ【メイド】のままだ。

 固有魔法〈聖母〉は常に発動しっぱなしなので、私にも経験値が入り続けている。さらに、魔法がヴェルセ王国全土に適用されるようになってからは、上がり幅が跳ね上がった。

 魔力による能力補正だけでも充分だけど、私は体を鍛え、戦闘魔法も結構な数を習得済み。


 というのも、私は命を狙われ続ける運命にあるから。

 私が死ねば国を覆っている〈聖母〉の加護は消失する。

 国力を削ぐ目的で、あの国やこの国が次々に刺客を送りこんできてたんだよね。

 王妃になりたての頃は本当に大変だった。(アルフレッドや護衛の戦士達が)


 だけど、今の私なら戦闘クラスのレベル50台が襲ってきても撃退できる!


「サフィドナの森を平地に変えてでもオルセラを救出する! 今の私ならそれもできる!」

「だから待ちなさいって。オルディアは国防の切り札でもあるんだから動いちゃダメよ。それに、私がオルセラを心配してないわけないでしょ? あの子を育てたのは私なんだから。どうして私がこんなに冷静でいられると思う?」


 ルクトレアの言葉で、私の頭に上った血は一気に下がっていった。


「もしかして……、見えたの?」

「ええ、少なくとも今日は(何度か死にそうになるけど)死なない。無事、レジセネの町に辿り着くわ」


 彼女からもたらされた未来の情報に、私とアルフレッドは同時に安堵の息を吐く。


 オルセラはルクトレアの実の子供として育てられた。

 生まれた時の予知があったためだ。私はともかく、王家の者をメイドにするわけにはいかない。

 私とアルフレッドにとっては辛い決断だったけど、ルクトレアだから任せることができた。

 彼女の家は王家に次ぐ地位の公爵家。

 ルクトレアは現在、その当主の座にあり、国の軍事、戦略部門のトップでもある。

 つまり、オルセラは最も力のある貴族の令嬢ということだ。


 それでも、ルクトレアは甘やかすことなくオルセラを育て、十一歳になると社会勉強という名目でメイドにした。

 そんな風に育てられたおかげもあるけど、オルセラは自分が貴族であることなど忘れているかのように、誰でも変わらない態度で接する。私とアルフレッドがあの子を見ていて、ちょっと嬉しく思うところだね。


 ちなみに、勘違いしている者も多いけど、戦士になる通達は貴族平民問わず行く。

 こんな時勢なので、広く戦う力を身につけてもらおうという施策だ。

 実際に戦場へと赴くのは、訓練を受けた内の十分の一ほど。向こうで生き残れると判断された、戦う意思のある者だけだよ。

 つまり、戦士になっても戦争には行かないという選択もできる。ミレディアがこの話をする前にオルセラは部屋から飛び出していったらしい(あの子はまったく……)。


 なかなか酔狂な施策なのでかなりの予算が必要だけど、その甲斐あってヴェルセ王国の戦死率は世界で一番低い。


 それがまさか、事故とはいえ無訓練無装備の人間を転送してしまうとは……。

 そしてまさか、初の事故例が我が子とは……。

 ……ちょっと待って。


「……これって、偶然じゃないの?」


 私の問いに、ルクトレアはまず笑みを返した。


「ようやく気付いたわね。そう、動き出したのよ、オルセラの運命が。あと、人類の運命もね」

「母親の私が言うのも何だけど、あ、ルクトレアも母親だけどね、本当にあの子にそんな大層なものが懸かってるのかと思うわ。だって、固有魔法がゴミ収集だし」

「そのことなんだけど、今日の予知で分かったわ。あれの正式名称はおそらく、〈人がいらなくなったものの中から、オルセラが必要なものを呼び寄せる〉よ。いらないものなんて人それぞれだし、収集範囲も広い。つまり、発動させれば大抵のものは手に入る魔法ね。制御できるのが前提だけど」

「そう聞くと、……やばいね」

「ええ。私が見た中で一番やばいと思ったのは、衣食住魔を提供してくれる面倒見のいい英雄クラスの師匠を呼び寄せたことかしら」


 私はアルフレッドと顔を見合わせた。

 あなた、私達の娘が使っているのは異次元の魔法だよ。


「ま、まあ、それならとりあえずオルセラは大丈夫そうだ。ところで、俺にはずっと気になってることがあるんだが……」


 アルフレッドは言いにくそうに口篭る。

 どうしたの? 元国王の威厳が全く感じられないじゃない。


「……ミレディアにはいつ、実の姉がいることを伝えたらいいだろう」


 ……そうだった。

 あれほど真逆の姉妹もいないから、絶対に大変だ……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。





書籍化しました。なろう版へはこちらから。
↓をクリックで入れます。




陰キャ令嬢が沼の魔女に。

社交界で沼の魔女と呼ばれていた貴族令嬢、魔法留学して実際に沼の魔女になる。~私が帰国しないと王国が滅ぶそうです~




書籍


↓をクリックでTOブックスストア書報へ。


klpg4yz5b1oc2node6ca5sa7jfl_nhg_dw_js_ddo6.jpg

1wfh4e77id1ojgvi3w3s4ahb9ryu_ft9_dw_jr_e350.jpg

86uh6ozp2wrm3jdwmfzk4ouk2a3v_gbk_dw_jq_cpdv.jpg




ヴェルセ王国 エピソード1
↓をクリックで入れます。




メイドが発現した固有魔法はまさかの国家規模!?

どうもすみません。孤児院出身メイドの私が王子様と結婚することになりまして。




ヴェルセ王国 エピソード2
↓をクリックで入れます。




肩書きだけだった公爵令嬢が権力の頂点に上り詰めるまで。

公爵令嬢、お城勤め始めました。婚約破棄するために権力の頂を目指したいと思います。




ヴェルセ王国 エピソード3
↓をクリックで入れます。




王妃オルディアの命を狙われ続ける日常。

聞いてません。王国に加護をもたらす王妃になりましたが、近隣諸国から毎日暗殺者が送られてきます。




ヴェルセ王国 エピソード4
↓をクリックで入れます。




11歳のオルセラが主人公です。

公爵令嬢、メイドになります。 ~無自覚モテ令嬢のハタ迷惑な生態~








本編の五年前、リムマイアのエピソード
↓をクリックで入れます。




狂戦士から転生した少女が成り上がります。

ベルセレス・リライフ ~史上最凶の狂戦士、惰弱な孤児少女に転生する~「愛くるしい小動物系美少女?いいえ、あれは踏んだら最期の地雷系女子です」





↓をクリックでコミック試し読みへ。


fvn3kutc16ulc3707tsn12eh38v4_8ke_dw_jn_amd1.jpg
― 新着の感想 ―
まじか!漫画で見てとんでもドジッ子メイドだと思ってたら公爵家の養子で王家の実子なのか!
[一言] 風を感じる・・・ このにおい、この感覚 これは・・・お姉ちゃん風!! ただ吹いてる方向が逆でミレディア様に吹かされそう
[一言] (何度か死にそうになるけど)白目向きそうなコメントは隠して安心させたw そういえば姉妹になるんだったかー
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ