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7 メイド、最弱の魔獣と契約する。

 エリザさんは一枚の紙を取り出した。


「これは魔獣との契約書よ」


 契約書というだけあって、文章がつらつらと書かれている。


「あれ……? 魔獣って文字読めるんですか?」

「読めないわよ、文はあくまでも人間用。魔獣はこれに触れるだけで契約内容が頭に流れこむようになっているわ」

「すごいですね。それで、契約内容って?」

「あなたと主従の関係を結ぶというものよ。このラクームは主であるオルセラには絶対に逆らえなくなるし、オルセラが死ねばラクームの命も尽きることになる」

「めちゃ私有利……。一方的な関係だ」


 リムマイアが「当然だろ」とどこかを指差し、私に見るように促す。

 目を向けると、あのモノドラギスが背中に人と荷物を乗せてゲートに入っていくところだった。

 えっ! 獰猛な角竜がまるで馬みたいに!


「あれ、モノドラギスと契約してる運搬戦士な」


 運搬戦士……。

 気を取られている間に、リムマイアはラクームの所へ。


「契約は魔獣の力を安全に使いこなすために生み出された技術だ。まあ選ぶのはこの狸だな。森に戻るか、オルセラと共に生きていくか」

「そういうこと。じゃあまずはオルセラ、ラクームと契約する意思で紙にタッチして」


 とエリザさんがずいっと目の前に契約書を出してきた。

 言われるままに指先で触れると、下の欄に光が一つ点灯。


「次はラクームね」


 狸の頭に契約書を乗っけるエリザさん。

 その内容が流れこんできたのか、狸の魔獣はじっと私を見つめる。


 ……お前、どうするの? すごく不利な契約だよ。

 それでも私と来るの?


「クー」


 小さな鳴き声ののち、契約書にもう一つ光が灯った。

 直後に紙自体が輝く粒子に変わり、私と狸、双方の体に吸いこまれていった。

 見届けたリムマイアがやや呆れ気味に。


「契約成立だな。まったく、ラクームなんかを契約獣にする奴、他にいないぞ。エリザ、これって登録料いくらだ?」

「確かに前例のないことなのよね。まあ実費だけでいいわ」


 そうか、お金かかるんだ。

 でも安くしてくれそうだし、何とか払えるといいな。

 エリザさんは人差し指をピンと上に立てた。

 ……一万。それなら何とか私にも。


「百万ゼアよ」


 ……全然無理だった。

 ゼアは世界の統一通貨。ちなみに、私のお給料は月二十万ゼアだよ。

 ポケットから魔石を二つ取り出し、エリザさんに手渡す。

 狸がその様子を恨めしそうな目で見てきた。いや、これもう実質的にはお前に食べさせてるようなものだから。

 お願い! どうにかこれで!


「ウルガルダとモノドラギスの魔石ね。レベルも低いし、これじゃちょっと足りないわね」


 さらに私は財布を取り出し、そのままエリザさんに。


「……足りないわね」


 中身を確認した彼女は無情な宣告。

 その後に、何か思いついたように笑顔を作り、私の肩に触ってきた。


「残りは負けてあげても、いいわよ」


 ……負けてもらったら、いけない気がする。

 もうこうなったらリボルバーを。


「これでいけるだろ、エリザ」


 リムマイアが魔石を投げ渡していた。あれって、さっき倒したモノドラギスのやつかな?

 受け取ったエリザさんはどこか残念そうにそれを眺める。


「充分よ。あとでおつりを渡すわね」

「おつりはチップだ。オルセラの魔法のこと、くれぐれも秘密にな」

「はいはい。じゃラクームはこれを付けて。中では外さないようにね」


 エリザさんはプレートの付いたチェーンを狸の首に巻いた。


「これがあれば結界も通れるの? リムマイア」

「契約獣なら結界で弾かれることはない。プレートは、その身元はレジセネの町が保証する、って示すものだ。実費の百万はほぼ契約書代だな」

「そそ、あれ高級品なのよ。たぶんラクーム相手に使った人は初めてね。じゃ登録しておくわね。ヴェルセ王国のオルセラと……、あら? そのラクームの名前は?」


 エリザさんに指摘されて、私も初めて気付かされた。

 ……そうだ、まだ決めてなかったよ。ちゃんとした名前を考えてあげなきゃ。

 と思っているとリムマイアが。


「タヌセラでいいだろ。この一人と一匹、なんか似てるし」

「いやいや、全然よくないでしょ! お前もタヌセラなんて嫌だよね?」


 狸の方に目を向けると、あっちはしばし考える仕草をした後に顔を上げた。


「キュー」

「え、いいの?」


 あ、何となく快諾したのが伝わってきた。って、本当にいいの?


 こうして私とタヌセラは晴れてレジセネへの入場が許された。

 とりあえず、ヴェルセ王国の拠点(そういう場所があるらしい)には明日行くとして、今日はもう夜も遅いのでリムマイアが自宅に泊めてくれることに。

 彼女はゲートの近くに一軒家を借りて暮らしていた。

 家に入るなり、私とタヌセラは風呂場に直行するように言われる。

 そういえば、私は地面を這うように逃げ回っていたし、狸はきっともう汚いなんてレベルじゃないよね。


「私の服、ここに置いとくぞ。石鹸使い切ってもいいから、タヌセラを徹底的に洗え」


 脱衣所からリムマイアの声。何から何まで、本当にありがとう。

 言われた通り、まずはタヌセラを洗うことにした。


 ワシャワシャ。

 ワシャワシャ。


「キュ、キュ、キュ、キュ」

「変な声出さないで。……全く泡立たない。やっぱり石鹸使い切らないとダメか」


 ワシャワシャ。

 ワシャワシャ。


 ようやく綺麗になったところで、タヌセラも湯舟の中に入れてあげた。

 恍惚とした表情を浮かべる狸。

 契約を結んだせいか、以前より思っていることがはっきり分かるようになってきたよ。


(ここは、天国ですか……。契約して、よかったです……)


 そっか、早速報われてよかったね。

 しっかし私、……百万も払って、最弱の魔獣と契約したのか……。

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