51 メイド、試される。
ナタリーさんからの突然の提案に、私は少し考える時間をもらった。
彼女は台地の上でも活動している戦士だから、洞窟に一緒に入ってもらえるならそれはすごく助かる。私はやっぱり話を聞くだけじゃなく、実際に洞窟に行ってみたい。だけど、どうしてナタリーさんはそこまでしてくれるんだろう。
「あの、そんなに私のことを気に入ってくれたんですか?」
「それもありますが、どちらかと言えば気になるからですかね。リムマイア様がなぜオルセラさんを選んだのか。あなたを分析したくなりました」
微笑みながらそう言われた私は、素直に「はい、どうぞ」とは返事できなかった。……これはゼノレイネさんの時と同じで、また試されている気がする。
何と答えようか迷っているうちにナタリーさんの方が言葉を続けた。
「それに明日から台地の上に行くので、軽く体を動かしておきたいというのもあります。オルセラさんは気負いせずに、洞窟を見学するつもりでついてくればいいですよ」
「そ、そうですか。じゃあ、お願いします」
やはりまたとない機会なので連れていってもらうことにした。おそらく彼女以上のガイド役はいないだろうし。リムマイアに引っ張っていかれるよりはよほど安全に探索できると思う。
ナタリーさんはもう一人同行者を連れてくると言った。昼過ぎに二人とゲートで待ち合わせする約束をして私は関所を後に。
あ、タヌセラに相談しないで勝手に決めてしまった。あの子、一緒に来てくれるかな。
そんな心配は無用だった。ラクーム達を町案内して帰宅したタヌセラは、私より断然乗り気になっていたので。
(ぜひ行きましょう! 私も皆の師匠として洞窟は経験しておきたいですし!)
「ラクーム達の師匠になったの?」
どうやらずいぶん持ち上げてもらったみたいだ。
お昼ご飯を済ませてから、装備を整えてタヌセラと共に町のゲートへと向かった。
ナタリーさんは性格通りやはりきっちりとした鎧姿をしている。その隣には彼女と同じ二十代半ばの男性が立っていた。青年からは、行動力のある若きリーダーといった雰囲気が伝わってくる。この人はもしかして……。
「ハロルドさんですか?」
「そうだよ。今日は俺も同行させてもらうね、オルセラさん」
やっぱり、協会の調査団を率いる団長さんだ。ナタリーさんが彼の肩にポンと手を置く。
「私達のことはリムマイア様から聞いているようなので話が早いですね」
「あ、でも現在の能力とかは知らないです」
「それは追い追い。まずは一つお見せしましょうか。オルセラさんに伺います。このチームのリーダーはハロルドでよろしいですか? タヌセラさんにも聞いてください」
「はい、私はもちろん構いません。タヌセラは……」
「キュー」
(同意します)
「いいそうです」
これを受けてナタリーさんがハロルドさんに向かって頷く。
「よし、条件は満たされた。〈団結〉、発動だ」
彼がそう宣言した直後、私は体の奥底から力が湧き上がってくるのを感じた。
まるで強化魔法を使ったみたいだ! タヌセラも毛がビリビリ逆立ってる! きっと私と同じ状態だね! すごい……、これが固有魔法〈団結〉の力……。でも、ちょっと待って。
「ハロルドさんの〈団結〉って、チームワークがよくなるという魔法では?」
「元々はそうだったよ。今はレベルが上がって、メンバー全員の攻防速が上昇するようになった。ゲインほどの効果はないけどね」
「いえ、それでも結構強化されましたよ。調査団も全員がこの状態で戦えるってことですよね? あ、調査団って何人なんですか?」
「ナタリーが加わって二十一人だよ」
それだけの戦士達がまとめて強化されるんだから、やっぱりすごい固有魔法だ……。ハロルドさんもスカウトされるわけだよ。
リーダーの能力を披露し終えると、ナタリーさんは「では」と森の方を向いた。
「後は移動しながら説明します。行きましょう」
ゲートを出ると私達はハロルドさんを先頭に走り始める。
なお、戦士の基本は駆け足だ。普通の人が全速力で走るより速いけど、私もどうにか息切れせずについていけている。隣を走るタヌセラに目をやり、こちらも大丈夫なのを確認。
振り返ったハロルドさんが私と契約獣を見て微笑む。
「これ、調査団で動く時と同じスピードなんだけど、結構平気そうだね。二人(匹)共、魔力の扱いが上手だ」
「昨日も言われましたけど、そうなんですか?」
私が首を傾げると、今度はナタリーさんが振り向いた。
「かなり上手ですよ。足を始め、しっかり走るのに適した魔力配分になっています」
「それって、やっぱりリムマイアと一緒にいたからですか?」
「それもあるでしょうが、一番はすでにいくつか死線を越えているからだと思います。生き残ろうとする本能が働いて一気に上達するんですよ。あと魔力の質自体も高まります。それの影響も大きいですね。さすがリムマイア様が見込んだだけあります」
とナタリーさんはハロルドさんと頷き合った。
……今回の洞窟探索、私への試験のような気がしてきた。そして、きっとそれはもう始まっている。
だけど、まさか私の力の秘密がこれまで死にかけたおかげだったとは。足を高速回転させて並走するタヌセラを見つめた。この子も私と一緒に死線を越えてきたもんね。
「タヌセラも魔力操作が上手で、質も高まっているらしいよ。道理で近接戦闘が強いわけだね」
「キュキュ。キュイッキュー!」
(そうだったんですね。でしたらこれからも張り切って近接の必殺技を考えます!)
タヌセラの場合、性格も関係しているのかな。確か、コレットさんの話じゃラクームは魔法特性の魔獣なんだよね。それで近接も強いなんて、この子は本当にラクーム最強になるかもしれない。
次回の投稿で出版物のお知らせができると思います。
今回はコミックスもあるので、特典もいっぱい書きました。
楽しみにしていただけると嬉しいです。
タヌセラ関連の読み切りも結構あったような気がします。
確か、タヌセラ視点で1万文字くらい書いた気が……。(5000×2)
タヌセラ
「キュキュ! キュキュー!」
(本当ですか! ついに私が主役に!)
このなろうへの投稿で言うと、5話分くらい狸視点で書いたことになりますが、まあ何か人気なので……。
タヌセラ
「キュ! キュッキュー!」
(皆さん! ぜひ私の特典をゲットしてください!)