5 メイド、戦士と出会う。
光から現れた少女はまず私を見た。
「ん……? メイド?」
それから角竜の方にも視線を送る。
「モノドラギス、レベル5ってことは、ここは下の森か?」
あの魔獣、そういう名前なんだ。え、魔獣にもレベルがあるの?
その角竜はといえば、少女を見るなり硬直してしまっていた。あんなに大きな体なのに、まるですごく怖い敵でも前にしたみたいに。
実は、何となくではあるんだけど、私も感じるんだよね。
……この子たぶん、大変な魔力量だ。
格好からして、彼女は間違いなく戦士。
身長は百六十センチの私より結構低い。百五十センチちょっとかな。小柄な体格で、茶色の髪に緑色の瞳。愛くるしい小動物のような美少女だ。だけど、纏う空気と物々しい装備が強者の雰囲気を演出している。
目を引くのは、やっぱり彼女の武器だろう。背負っているのはその身長とほとんど変わらない巨大な刃。
横に持ち手があるけど、どうやって使うの?
と見ていると、少女は背中から武器を引き抜いた。
刃の部分が半回転し、ジャキン! と長さは倍に。持ち手と刃が半々の、三メートル近い大槍が完成した。
少女は確認でもするように、それを片手で軽々と素振りする。
済むとモノドラギスに向けて歩き始めた。
「とりあえずだ、逃げないなら狩るぞ、お前」
選択を迫られた角竜は覚悟を決めたらしい。自慢の一角を前に出し、突撃を開始。
飛び上がって突進をかわした少女は、ついでとばかりに竜の後頭部を蹴る。
地面につっ伏した獲物の背に着地した。
大槍を振り上げ、
ザッシュッ!
一撃でその命を奪った。
あ、あんな怪物をあっさりと……!
この子は本物の戦士! きっと相当な高レベルだ!
ここここ、こっちに戻ってくる。
助けてもらったお礼を言わなきゃ。
「じゃ、あとはそのラクームだけだな」
少女は狸の上で大槍を振り上げ、一撃で……。
「ちょ! ちょっと待ってください! この魔獣は狩らなくて大丈夫ですっ!」
私が間に入ると、狸は即座に隣でおすわり。
「キュキューン」
精一杯の甘えた声と潤んだ瞳で無害アピールをする。
……この魔獣、ラクームって言うんだっけ、しっかり弱者の生存戦略を心得てるね。
一人と一匹の連携プレーで、少女は槍を折りたたんだ。
「お前ら、変な奴らだな。特にお前、なんでメイドがこんなとこにいるんだ?」
「ちょっと事故に遭いまして……。私はオルセラです。助けていただき、ありがとうございました」
「私はリムマイアだ。ところでお前、どうして私がここに飛ばされてきたか知らないか?」
「そ、それは……」
結局、私はうっかり転送されてしまったことから、自身の固有魔法まで、包み隠さず彼女に話していた。事故ったことはきっちり笑われた上で。
「だが、魔法の方はやばすぎだろ。人間一人、これだけの距離を独力で転移させたんだから」
「これだけの距離って、リムマイアさんはどこにいたんですか?」
「この上だ」
と彼女は東の岸壁の遥か上空を指差した。
……だ、台地の上?
いやいや、ありえないよ。だって私の魔法は半径一キロ内のものしか……、もしかして、高低差は無視される?
私が壁を見上げている間に、リムマイアさんは先ほど仕留めた角竜の魔石を拾っていた。
ラクームは欲しがる素振りを見せるも、さすがに今回は寄っていこうとはしない。
……こいつ、ちゃんと相手を選んでる。
そうだ、私も魔石を拾いにいきたいんだけど……。
ついさっき、私は【メイド】レベル5になった。
おそらく、お尻に銃弾を撃ちこんだあのモノドラギスがどこかで力尽きたんだ。
というわけで、リムマイアさんに同行してもらうことに。
焼けた草木の痕跡を辿りながら、せっかくなので色々と聞いてみた。
「もしかして、このリボルバーも台地の上から来たんでしょうか?」
「たぶんな、サフィドナの森で戦ってる奴に買える代物じゃないし。それ、一千万以上するんだぞ」
「い! 一千万っ! 私の月給の五十倍! あ……、あった魔石だ」
地面に転がっていたそれを拾い上げると、狸がしきりにポケットをつついてくる。
(新しいのが手に入ったんだから、古い方は私にくれませんか?)
……心が通じなくても、考えてることが手に取るように分かる。そういうものじゃないから、あげられないよ。
……こいつ、私相手だと全く遠慮ないな。
「どうして魔獣も魔石を欲しがるんですか?」
「そりゃ魔石を食うことがこいつらの強くなる術だからだよ。ラクームは獣竜種最弱、いや、魔獣最弱だし、こいつはレベルも1だから必死だろうな。ああ、オルセラは〈識別〉ないから分からないか。そのラクームは最弱の最底辺だ」
……最弱の最底辺。なぜだろう、とても他人事とは思えない……。
ちなみに、〈識別〉とは人や魔獣の様々な情報を閲覧できる魔法らしい。習得するのは戦士達の基本なんだって。
もちろん私にはないので、知りたいことは聞くしかない。
「リムマイアさんのクラスって何なんですか?」
「私は【ベルセレス】だ。レベルは86な」
ご親切にレベルまで、どうもすみません。
【ベルセレス】ってあまり聞いたことないクラスだな。普通は【ウォリアー】とかだよね。
にしても86かー、強いわけだよ。
…………、……は、86!
私だって知ってる。レベル20を超えた戦士はもうベテランと呼ばれるって。50超えで英雄の域。その遥か上!
「そ、そんなに強いのに、チームを追い出されたんですか……?」
「そうなんだ! あいつらー! 誰がいらなくなったものだ!」
ダンッッ!
と彼女は怒り任せに、足元にあった直径二十センチほどの岩を踏みつける。岩は無残にも粉々に。
おおう……、レベル86の地団太、半端ない……。
気持ちを落ち着かせるように、リムマイアさんは大きく深呼吸をした。
「私な、固有魔法を使うと、一人で突っ走ってしまうんだ……。しょうがないだろ、そういう魔法なんだから」
「そうなんですね。それで、リムマイアさんの固有魔法って」
「〈戦闘狂〉だ」
……大変な人を、呼んじゃった気がする。