48 [リムマイア]狂戦士、即席チームに手を焼く。
メルポリーの交代宣言を受け、マルティナが斧を構えて走り出す。
「先にアタシが行かせてもらう!」
あいつ、メルポリーの戦いを見てウズウズしていたからな。戦乱に生き、戦乱に散った奴は血気盛んだ。
マルティナは斧を大きく振りかぶってジャンプする。
「おい! そんな大振りで!」
私の警告は間に合わなかった。ガロミュギラの口から放たれた火炎放射が空中のマルティナを直撃。彼女の体は高温の炎に飲みこまれてしまった。
「あれは死んだかな。マルティナ、バカだけど悪い奴じゃなかった」
メルポリーがしみじみと呟く。
いや、たぶん平気だろう。体の丈夫さだけが取り柄みたいな奴だし。
前世で不屈の傭兵と呼ばれたマルティナは、現在【ウォリアー】レベル59。その固有魔法は〈頑強〉だ。肉体が強靭になり、全身が独自の魔力防壁で包まれる防御特化の魔法だと聞いている。
空を見上げるとマルティナが流れ星のように落下していくのを確認できた。
……帰ってくるのはちょっと時間が掛かりそうだな。
「さっきの流星はマルティナか……。忙しない奴だ、あいつともチームを組むのは無理かもしれない」
装備を整えたフリーゼンがのろのろと戻ってきていた。こいつはもう少し忙しく行動すべきだろ。
「戻りが遅すぎだ。一応戦闘中だぞ」
「俺は、支度に時間を要する……」
「……私の方もお前と組むのは無理かもしれない」
フリーゼンはため息をつきながら腰の剣を抜く。掲げると刃に凄まじいほどの冷気が集まり始めた。
「遅れた分、しっかり役には立ってみせる。幸いにもあの魔獣は俺と相性がいい」
剣を薙ぐと氷の大波が発生。大地を走って瞬く間にガロミュギラまで到達する。周囲を巡って巨体の表面を覆っていった。
見ているうちに鎧竜の氷の彫像が完成していた。
「すごい規模だな」
「俺の取り柄はこれだけだからな。とりあえず〈氷結封印〉を使ってみた」
フリーゼンのクラスは【セイバー】で、レベルは67。前世で氷刃の騎士と恐れられた彼の固有魔法は〈冷却強化〉というもの。水属性の魔法の中でも冷却系のみが補強される限定色の強い能力だ。その分、効果は相当大きいらしく、彼はさらに愛剣にも同様の魔法を宿している。
一つのことをつき詰めて極めた者は強い、という言葉を体現している感じだな。この〈氷結封印〉も見事に守護魔獣を氷漬けに……、いや、待て。
「どういうことだ、フリーゼン。ガロミュギラの頭だけが氷から出ているぞ」
巨竜の方も確認するように頭部をクイックイッと動かしている。
「でかすぎて完全には覆いきれなかった……。というより、あいつが頭周辺に魔力を集中させて守り抜いた。奴の作戦勝ちだ……」
「素直に負けを認めてる場合じゃないだろ、見ろ」
ガロミュギラの口の前に再び炎が集まり出していた。今度は拠点にいる私達を狙っているようだ。
またさっきの魔法〈ファイアブラストⅡ〉が来る! 建物を燃やされたら後でエリザにとてつもなく怒られる気がするぞ! 何としても守らねば!
「ゼノレイネ! お前の魔法で防壁を作ってくれ!」
「あの程度の守護魔獣の魔法なら〈戦闘狂〉なしのリムマイアでも防げるじゃろう。こっちは今まさに食べ頃なのじゃ」
契約獣の少女はフライパンを見つめながらビスケットを取り出す。
……どいつもこいつも。うーむ、〈戦闘狂〉なしであの火炎放射を止められるか? 結構微妙なところだと思うんだが。ゼノレイネがそう言うならなしでいくか。
〈サンダーウォールⅡ〉!
拠点の前に雷の壁を築いた直後、ガロミュギラは〈ファイアブラストⅡ〉を発射した。
雷と炎がせめぎ合い、周囲の地面が吹き飛ぶ。どうにか耐え切ったと思ったその時、雷壁の角が弾けて消えた。溢れた炎がゼノレイネの前に。
彼女は呆然と炎に包まれるフライパンを眺めていた。
……明らかに火力強すぎだな。肉もチョコも炭になった。
「悪い、ちょっと防ぎ切れなかったみたいだ。ビスケット、火が点いてるぞ」
「…………。おんどれー! この雑魚守護魔獣が――――っ!」
激昂したゼノレイネは即座に黒竜ディアボルーゼに姿を変えた。
一度上空に高く飛び、急降下してガロミュギラの背中に取りつく。闇の魔力を漲らせ、前脚の爪を突き立てた。途端に鎧竜が慌てたような鳴き声を上げる。
あれは〈ダークドレイン〉という魔法だ。近接で相手の魔力をどんどん吸収する非道な魔法で(近接専用なだけに極めて吸収率が高い)、あっちが慌てるのも無理はない。
戦いの様子を窺いつつフリーゼンが剣を鞘に収める。
「もう大丈夫だろう。ゼノレイネに火が点いた」
「何をうまいこと言ってんだ。剣をしまうな。考えてみればさっき、お前の〈アイスウォールⅡ〉で防げばよかったよ」
「俺も思ったが、言ってこないから」
「お前……。このまま一気にたたみかけるから援護しろ。久々に〈雷身絶空〉を使う」
私は雷属性の魔法なら自分の中で改造したり新たに生み出したりできる。作り上げたものの中でも特に気に入っているのが、私オリジナルの上位魔法〈雷身絶空〉だ。簡単に言えば〈サンダーウエポン〉を全身に纏う感じの、私自身を武器に変える魔法になる。
よし、やるぞ。と意気込むも、相変わらず全くやる気を見せないフリーゼンに気付く。
「だったら援護なんて必要ないくらいにすぐ終わる。あれは凶悪すぎるからな」
そんなにひどいか? 結構気に入っているんだが。









