44 メイド、ラクームフィーバーを予感する。
ラクームが、強い魔獣……!
コレットさんの隣には私が立ち、さらにタヌセラとその分身体が並んでお座りしている。その前では話を聞こうと大勢の戦士達が集合していた。噂を聞きつけて関所の外からも次々に人がやって来る。
室内が人で溢れ返るようになった頃、コレットさんは口を開いた。
「まず、魔獣は最初に魔法を覚えたレベルの倍数で順次魔法を習得していきます。ラクームは現在確認されている中で最も小さい6の倍数です。これはつまりラクームが最多の魔法を習得しうることを意味します。ここで重要なのはやはり覚える魔法の質でしょう。その検証には、契約獣唯一のラクームにして、人類勢力最強のラクーム、タヌセラさんに協力していただきます」
まあ唯一なんだから最強だよね。でも、ラクームの契約獣はまだタヌセラ一匹だけなのか。
コレットさんに頼まれて、私はタヌセラに〈狸火〉を使ってもらった。狸の魔獣の前に小さな火の玉が浮かび上がる。
「これで注いでいる魔力はフルパワー時の数百分の一だそうです。あ、レベル14の今のこの子なら、私が両手を広げたのより大きな火球を作ることができます」
私が実際に腕を伸ばすと、コレットさんは頷いて話を続ける。
「一つ目の魔法〈狸火〉は、ウルガルダの〈グラウンドブラスト〉やティグレドの〈ウインドブラスト〉に劣らない出力の魔法であると言えます。そして、驚くべきは本日確認された二つ目の魔法〈狸分身〉です」
今度はタヌセラ分身体の目の前に火の玉が出現した。コレットさんはそれを手で指し示しながら。
「このように分身体であっても本体と同じ魔法が使えます。さらに、分身体には自分の魔力の半分もの量を与えることができるそうです。これはおそらく、クラス【シーカー】と【ニンジャ】だけが習得可能な上位魔法〈二重の境地〉と同じものであると思われます」
上位魔法級! すごい魔法だとは感じていたけど、〈狸分身〉そこまでだったなんて!
衝撃を受けていたのは私だけじゃなかった。戦士達は一様にざわめき立ち、室内は騒然としている。
笑みを浮かべつつコレットさんは話を締めにかかった。
「まとめるとラクームは魔法の数、質、共に大変優れた魔獣だということです。きっと小さな肉体であるのと引き換えに魔法の特性を与えられたのでしょうね。また、これは私達人間にとって有難いこととも言えます。一緒に行動するのに適したサイズである上に、レベルを上げてやれば強力な魔法の援護が期待できるのですから。そして、ラクームはすぐそこの森に沢山いますし」
最後の言葉ののち静寂の時間が流れ、それから戦士達は一斉に部屋の出口に殺到した。
なんか大変なことになってきた……。とりあえず今日は一気にラクームの契約獣が増えそうだ。
この事態にやはりタヌセラは上機嫌だった。
(楽しみです! 私の仲間百匹できるでしょうか!)
一方で、発破をかけた当のコレットさんはうかない顔をしている。
「ラクームは一筋縄ではいかないかもしれません……。皆さんが戻ってくるまで少し掛かりますし、オルセラさんに契約獣について教えてあげましょうか?」
そういえばまだきちんと聞いていなかったのでお願いすることにした。
そもそも魔獣と契約を結ぶこと自体が容易ではないらしい。比較的契約のしやすいレギドランやウルガルダ、モノドラギスでも何百回と挑戦してようやく成功するほど。そんな確率なのでほとんどの戦士は契約獣がいない。魔獣はどれだけ脅されようと食べ物でつられようと応じることはなく、大事なのは気が合うかどうかということ。だから契約獣のいる人は口を揃えて、たまたま気が合って、と言う。狙って結ぶのは難しいってことだね。
さらに契約困難とされるのが飛竜種と鳥竜種だ。現在その二種のいずれかと契約しているのはたった十一人。さらに少ないのが守護魔獣との契約者で、こちらはわずか四人だけ。
飛竜種の守護魔獣と契約したリムマイア、すごすぎでしょ……。
なおそのパートナーのゼノレイネさんは、不満を口にしつつもぬいぐるみで仕事を引き受けてくれる、数少ない大型の飛行魔獣なのでとても貴重な存在みたい。
それでコレットさんによれば、今回のラクームも契約は簡単じゃないかも、とのことだ。実は、私とタヌセラが町にやって来てから何組ものチームが試みたけど、まだ誰一人成功していないんだって。
「おそらくラクームはかなり契約確率の低い魔獣です。それもこれからはっきりするでしょう」
とコレットさんが部屋の出入口に視線を向けると、外から賑やかな物音が聞こえてきた。
程なく、ラクームを抱えた戦士達が続々と室内へ。突然連れてこられた狸の魔獣達はもう大変な騒ぎだった。
「キュピー! キュピー!」
ひたすら大きな声で鳴いたり。
「ギギッ! ギャギャギャウッ!」
激しく威嚇してきたり。
「キュオーン! キュオーン!」
悲しそうな声で絶叫したり。
「キュ、キュ……。キュ……」
緊張でカチコチに固まったり。あ、この子は別に騒いでないか。









