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42 メイド、粘り尽くす。

 ハンバーガーとか言ってる場合じゃない!


「残り一回の魔法で早く攻撃してください! できれば火属性でお願いします!」


 火球に挟まれているティグレドに対し、ダイアナさんは弓を、シンシアさんは槍をそれぞれ構える。


「幸運にも私達、二人共火属性を使えるわ! 行け! 〈ファイアショット〉!」

「隠れていた甲斐がありましたね、お姉様! 参ります! 〈ファイアウエポン〉!」


 ダイアナさんの放った矢は虎竜に刺さるや激しく燃え上がった。そして、シンシアさんは炎を纏った槍を勢いよく突き出す。二人は攻撃が済むとやり切った表情で顔を見合わせた。


「私達の力を見せてやったわね。もう魔力も空だわ」

「はい、これ以上は戦えません。では私達は隠れ直しましょうか」

「待ってください!」


 引き返そうとする彼女達を私は制止。


「今回の攻撃で私もタヌセラも魔力を使い果たします! 倒せなきゃ負けです! もう魔法が撃てないなら普通に矢を射って槍で突っついてください!」


 お願いしながら私自身も腰からリボルバーを抜いた。剣の〈サンダーウエポン〉を継続したまま、加えて次々に魔法弾を撃ちこむ。

 一方のティグレドは全ての魔力を用いて体の周囲に防御壁を作っていた。私の全力の攻撃にも、ダイアナさん達のヘロヘロになりながらの攻撃にも耐えている。


 くぅ、さすが洞窟最強クラスの魔獣だ……! やばい! もう銃弾を六発とも撃ち切った!

 その時、タヌセラから思念が送られてきた。


(私と分身体の残りの全魔力を注いで〈狸火〉を爆発させます! 離れてください!)

「分かった!」


 フラフラ状態のダイアナさんとシンシアさんの手を引いて、私は急いでティグレドから距離を取る。

 すぐに背後で二つの火球が連鎖的に大爆発を起こした。

 これで仕留められなきゃもう打つ手は……。

 しかし、現実は残酷だった。焼け焦げた森の中で、しっかり四本の足で立つティグレド。私達に向かって大きく口を開く。

 そこに魔力が集まり出すのを感知した私は〈プラスシールド〉を展開した。発射された〈ウインドブラスト〉で魔法の盾は砕け、私とダイアナさん達は周辺の木々と共に吹き飛ばされる。


「キュ! キュキュー!」

(オ! オルセラー!)


 タヌセラが分身体を虎竜に飛びかからせ、その間に私達の方へ駆け寄ってきていた。鼻先を使って私の体を起き上がらせようと。


「いたたたた……、ありがとうタヌセラ」


 振り返るとダイアナさんとシンシアさんは倒れたまま互いの手を握り合っている。


「……私はあなたと出会えてよかったわ、シンシア」

「……私もです、お姉様」


 どうやら二人して覚悟を決めたらしい。


(私達は諦めませんよね?)


 タヌセラが確認するような眼差し。私がどう答えるか分かっているんだろう。

 そう、私達は諦めがすごく悪い。これまでだってこの子と何度も危機を乗り越えてきたんだ。今回も最後の最後まで粘り尽くすよ。


(……もしそれでも無理だった場合は、私が命に代えて時間を稼ぎますから、オルセラだけでも逃げてください)

「タヌセラ、それも私がどう答えるか分かっているでしょ。死ぬのも生き残るのも一緒だよ」

(……オルセラ)


 意思をはっきり伝えるように契約獣の頭にふわっと手を置いた。


「だけど、それは本当に最後の最後。今日もちゃんと奥の手を残してあるから」


 切り札と言うには心許ないけど、私は魔法一回分の魔力を取ってあった。〈人がいらなくなったものを呼び寄せる〉で誰かの余っている魔力を呼び寄せることができれば、私はまだまだ戦える!


 よし、〈人が……、とちょっと待って。

 まだ攻撃の手段は残ってたんだ。あいつもすぐには来ないみたいだし、使っちゃおうかな。


 タヌセラ分身体を消滅させたティグレドは、ゆっくりした足取りで私達の方に向かってきていた。

 強者の余裕ってやつ? だったらこっちは弱者らしくこの時間を有効活用させてもらうよ。

 私はリボルバーのシリンダーに新たな魔法弾六発を装填。どれも一発二万ゼアの最低ランクだけど、全部火属性の〈ファイアボール〉弾だ。六発撃ちこんだらさすがに少しは効くでしょ。


 ドンッ! ボワッ!

 ズズゥーン……。


 一発目の銃弾はティグレドの胸に命中して小さく燃え上がる。次の瞬間には、虎竜の巨体が大地に崩れていた。


 …………、あれ?

 ……そうか、余裕があったんじゃなくてあっちも限界だったんだ。何とも意地っぱりな魔獣だった……。


 ティグレドの肉体が塵に変わると私は【メイド】レベル12に上がった。喜びに浸るより先に、背後から賑やかな声が聞こえてくる。


「やりましたお姉様! 私【ウォリアー】レベル17に!」

「おめでとうシンシア! 死闘を生き抜いたご褒美ね!」


 倒れていたはずのシンシアさんとダイアナさんが抱き合ってクルクル回っている。この人達は実は結構余力があったんじゃないだろうか。

 タヌセラもいつものようにはしゃいでいるのかと思いきや、意外にも安堵の表情。


「キューン……」

(最近は安全に戦えるようになってきたと思っていたのですが、私達ってやっぱり死にかけるんですね……)

「そ、そうだね……。でも今日切り抜けられたのは、間違いなくタヌセラのおかげだよ」

(本当ですか! ……じゃあ、もう私はオルセラの頼りになるパートナーですか?)

「うん、タヌセラはいざという時にとても頼りになる私のパートナーだ」

「キュイッキュー! キュイッキュー!」


 ピョンと飛び跳ねた契約獣はいつも通りの、いや、いつも以上のはしゃぎっぷりを見せる。

 ……思い出した。タヌセラは前に、私の力になれるくらい強くなりたいって言っていた。この子が目指していたのは森最強の魔獣とかじゃなく、本当はそこだけだったのかもしれない。

順調に進めば、次回投稿のあとがきくらいでいよいよ……、

と、その前にお伝えしておくことがありました。


少し設定の変更があります。

オルセラの銀髪の長さが、ショートからセミロングに。

タヌセラの体長が、一メートルから四十センチに。全長(頭+胴体+尻尾)で一メートルくらいです。

えーと、髪はなびくくらい長い方がよくて、もふもふはある程度小さい方がいいということです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 確かにモフモフは抱き抱える事が出来る方が良さげかも [一言] この二人…好きあらばイチャコラしておる… 別の意味で息ぴったりな気もするからいいけど
[一言] 髪はまあともかく >もふもふはある程度小さい方がいい わかる(重々しく頷く)
[良い点] 一段上のジャイアントキリング達成~ [一言] 辛うじてだったのはあっちもこっちも同じだったと。 見た目からじゃ満身創痍かどうかって分かるとは限らないし、それはそうかー
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