4 メイド、色々と呼び寄せる。
クラスのレベルが上がると、固有魔法もパワーアップするらしいけど……。
私の場合、どこまで行ってもゴミを呼び寄せるだけだよね。
いや、今回はゴミじゃなかったんだった。
握りしめたリボルバーに目をやる。
これは魔法武器、しかも使用者の魔力を必要としない消費型だ。すなわち全く鍛えてない私でも扱える強力な武器ということ。
絶対にゴミじゃないし、いらないなんて思うわけないはずなんだけど。
……考えられるのは、所有者がすでにこの世を去っているケース。
私の魔法、そういうのも呼んじゃうみたいなんだよ……。墓荒しさながらで本当にろくでもない……。
だけどたぶん、さっきはそのろくでもない能力に助けられた。
それにしたって、ここまでピンポイントで役立つものが出てくるなんて。
確かあの時……、いつもとは違う感じがしたんだよね。
どうしてだろ?
とにかくこんないいものが出てくるなら、私の固有魔法も捨てたもんじゃない。
試してみようかな。
〈人がいらなくなったものを呼び寄せる〉発動!
キーン。
光の中から現れたのは、ボロボロに破けたブーツ(片方)だった。
……完全なるゴミが出てきたよ。
ずいぶん雨風にさらされてるようだし、きっとずっと前から森にあったやつだね。
ええい、もう一回!
キーン。
今度は錆びた穴開き兜が。
これも長い間放置されてたやつだ。
次!
キーン。
えーと、これは、木の欠片……?
分かった、折れたスプーンの先っぽだ。もはやゴミ以外の何ものでもない。
せめて使えるもの来て!
てあっ!
キーン。
出てきたのは、中身の詰まった布袋。
見た目は結構綺麗だけど、何が入ってるんだろう?
開けてみると、袋の中にはビスケットや干し肉が。くんくんと匂いを確認する。
食べられそうな感じがするよ。これがいらないなんて贅沢な人がいるんだな。
だけど、助かったかも。
私はこのサフィドナの森に転送されてから何も口にしていない。
最後の一回で食糧が出たのは本当に幸運だった。
そう、私の魔力量で固有魔法を使えるのは一日五回まで。
あれ? でもまだ魔力に余裕があるような……?
そっか、レベルが上がったんだっけ。あと二回はいけそうだ。
よし、きっと今は運が向いてきてるよ。
〈人がいらなくなったものを呼び寄せる〉!
キィー……ン。
今の、ちょっとだけいつもと違ったような……?
目の前に小さな光が浮かび上がっている。
手を差し出すと、チャラッと金属製のものが掌に。チェーン紐のペンダントだった。
魔法道具の感じはー……、しないか。普通のペンダントだね。
そ、それより、これ。
……血が付いてるんだけど。
まだ乾ききってないから、たぶん最初の狼竜と戦っていた人達のものだと思う……。
私の固有魔法による収集範囲は半径約一キロメートル。
あの地点からそんなに離れてないから、おそらくそうだろう。
魔獣に捕捉されたあの状況から彼らが逃げられたとはとても思えない。
全員がもう……。
……あ、こっちの食糧もそうだったのか。
布袋の中を覗きこんでいると、止めようもなく涙が溢れてきた。
「ごめん……、ごめん、私だけ逃げて……。せめてあの時、この銃があれば……」
泣きながら私はビスケットをほおばっていた。
申し訳ない気持ちはあるけど……、どうしようもなくお腹空いてるんだよ……。
ああ、ダメだ……、目から水分が失われて、口の水分もビスケットに奪われて、喉がすごくカラカラだ……。
そういえば私、喉もずっと渇いてたんだった……。
と脚に何かふわふわした感触。
見ると狸の魔獣が頭を押し当てている。
……こいつ、さっきどこかに行ったと思ったのに。口に何か咥えてる?
目の前の地面に置かれたそれは、見たことのない真っ赤な果実だった。甘い香りが漂ってくる。
毒などを心配するより先に、私は果実を拾い上げてかぶりついていた。
口中に広がる爽やかな甘酸っぱさ。
豊富な果汁が喉を潤していく。
運んできた贈り物が完食されるのを見届けた狸は、鼻先で私のポケットをツンツンと。
「助かったよ、狸っぽい奴。……でも魔石はあげられない」
「キューン……」
結局、残り一回の固有魔法は温存することにした。もしもの時の最終手段として。
そんな不確かなものより、頼りになるのはやっぱりリボルバーの方だ。
ところが、そのレンコンの中を覗いた私は愕然とする。
銃弾六発中、五発が空に。
残すはたった一発だった。
……いや、前向きに捉えよう。あと一回は魔獣と遭遇しても大丈夫ってことだもんね。
もうすぐ日が沈もうかという時間帯。森は一層暗くなってきた。
町を目指すのはもう諦めて、どこかで夜をやり過ごそうかな……。
東の岸壁に沿って進む私は、そんなことを考え始めていた。
……そこかしこで、大きな生物が動く気配を感じる。昼間はあんなに静かだったのに。
まさか……、魔獣の活動が活発になる時間帯とかあるの?
このままじゃいずれ見つかっちゃうよ。
こいつもついてきてるし。
木から木へ私がササッと移動すると、それを追って黒い影がササッと。
狸の魔獣がぴったり引っついてきていた。
……どうもこの狸は勘違いしている節がある。
私が持つリボルバーを、キラキラした眼差しで見てくるけど。
「あのね、この銃はあと一発しか」
言葉の通じない相手に説明しようとしたその時、猛スピードで近付いてくるものを察知。
とっさに私は狸を抱えて横に跳んだ。
私達がいた所を駆け抜けたそれは、勢いのままに木に激突する。ベキベキと巨木をへし折った。
こ、こんな魔獣もいるの……?
狼竜より、さらに大きいじゃない……。
こちらを見据えるその怪物は、頭の天辺から尻尾の先端まで、もはや完全にドラゴンだった。
体長は十五メートルほどもあるだろうか。頭部からは立派な一角が生えている。
突進してきた個体が顔を動かすと、その視線の先から同じ角竜がもう一頭。
一度に二頭も来るなんて聞いてない!
どうやって切り抜ければ!
リボルバーを構えながら、必死に考えを巡らせる。
しかし、猶予はあまりに短かった。
新たに現れた角竜の方が突進を開始。
今回もどうにか避けると、振り向きざまにリボルバーの引き金を絞る。
ズドン! バスッ!
銃弾は竜の尻に命中した。
直後に、全身から発火。
「ガアァァ――――ッ!」
燃え盛る炎の塊と化したドラゴンは、叫びながら走り去っていった。
私はすぐに銃口をもう一頭に向ける。
「来ないでっ! 燃やされたいの!」
「ギャギャウ!」
隣では狸が強気の威嚇。
角竜は警戒して様子を窺っていたが、やがてゆっくりとこちらへ歩みを進めた。
ま、魔獣って結構賢い!
もう私がこれを使えないこと、そして他に手がないことまでバレてるんじゃ!
狸が恐る恐る顔を向けてくる。私と見つめ合った。
この時、私は初めて魔獣と心が通じた、気がした。
(もしかして、もう撃てないんですか?)
(うん、もう撃てない)
すると狸はこてんと横たわった。
これは死んだふり? いや、覚悟を決めたんだ。
……私は、嫌だ。わずかでも可能性があるなら、それにしがみつくよ!
魔法武器でも何でもいい!
とにかく私を救ってくれるもの出てきて!
〈人がいらなくなったものを呼び寄せる〉!
キュイィ――――ン!
この感じ……、間違いない!
あの時と一緒だ!
それにしても大きな光……。私の体と同じくらいだよ。
いったい何が出てくるの?
光が徐々に収束していく。
そこに立っていたのは、茶色の髪をした少女だった。
姿を現すや、彼女は叫んだ。
「私を追放するだと! 貴様らー!
ってあれ、ここどこだ?」
……に、人間出てきたーっ!









